129 / 138
第二章
第二十七話 おやつの配達③―飛脚便、到着!―
「セルト・ロックス。起きているか?」
「起きております、賢者様」
「お前の判決書を持ってきた」
いつものエイルらしくない口調と、蝋燭の灯りで浮かびあがる表情。
「どんな罰でも受け入れます。教えて下さい、賢者様」
「お前の今後の人生は、極端に二つに別れる」
エイルは、人差し指と中指で数を示しながら、セルト・ロックスを見据える。
「二つ……でございますか?」
目を瞬かせるゼルトは、内心で死刑は確実だろうと思っていた。
それが二つ。おそらく一つは死刑だが、問題はもう一つの刑だ。
「まず第一に、お前の身柄は、私が預ることになった」
「は?……私が、賢者様の元にですか?」
「ああ。私としては遺憾な思いもあるが、私の弟子の願いと、神の差配を申し出られてしまっては、私たちは従う他あるまい」
「か、神の差配?」
「ああ。私財を肥やすのに夢中になっていたお前でも、高級ポーション不足による救済対策による販売条約を知らないわけではないだろう?」
「ミオ・マグワ――ぐぁっ!?」
エイルが放った風刃が、ゼルトの身を襲い、彼は蹲る。
「お前が呼び捨てにしていい名ではない!」
「申しっ訳っございませっん」
眉間に皺を作り、眉尻を吊り上げたエイルに、ゼルトは床に蹲ったまま、謝罪を口にした。
「はあ……これが、お前に出された判決書だ」
「ありがとうござい―――」
牢屋の鉄柵越しに渡された判決書を受け取ったゼルトは、そのまま視線を落とし、言葉を失った。何故なら―――その判決書に、似つかわしくない言葉が並んでいたのだから。
【名前 ゼルト・ロックス
身分 元伯爵家当主
・
・
・
備考
・被害者の恩赦により、加護者への不敬に対する『大逆罪』は不問とする。
・神託により、ゼルトの身柄は、フリータール王国賢者エイル・リュタ・ラ・マグワイアに預けることとする】
「こ、これは??」
脳内を占めるのは、疑問符ばかり。ゼルトは、声を詰まらせながらも、聞くのが精一杯だ。
「先ほど言っただろう。神託による神の差配が入ったと――」
「それはお聞きしましたが……」
二の句が継げないゼルトに、エイルは深い溜息を吐く。
訳が分からないのも無理はないと、エイルは思う。だが、全てを話すほど優しくもない。
エイルは彼に視線を合わせ、言った。
「お前に残された道は二つ。終身犯罪奴隷として、鉱山送りになるか。この領地で、平民の代官として働くか」
「え?」
百歩譲って、前者は理解できる。だが、後者はどうだ? ゼルトの口から間の抜けた声が漏れるのも仕方がなかった。
「この領地は、王家直轄地となる。その代官を、お前が務める事ができる。但し、お前の責任者は私だ。私の手を煩わせるような事になれば……分かっているだろう?」
風が鳴る音を響かせ、エイルの手の中で渦巻く。
「はひっ!?……それはもうっ!ですが、なぜ私なのでしょう?」
彼の疑問も尤もだ。
本来ならば、その判決書通りに国が定めた刑罰は、死刑なのだから。
「それは――」
エイルはそう言いかけて、閉口した。
今回の原因は、ジョウの『楽に死なせぬ』という怒りと、ウルシア様の『成り代わった彼』への期待という二重の望みだからだ。
勿論、ミオの預かり知らぬ所で起きたことばかり。万が一、彼からミオの耳に入ることがあっては台無しである。
ミオには、彼が代官になったという事実だけを伝えればいい。
「それを、お前が知る必要はない。それに、二つのどちらを選んでも、茨の道であることに変わりはないからな」
この地が国の直轄地になり、アターキル・リュイスの領地の次に、ミオが自由に楽しむ地になればいい。
「……私は――」
結局ゼルトは、代官の任に就くことを選んだ。それをジョウに念話で伝えれば、新たな名を彼に与えると言った。
それは、人生の門出を祝ったものなのか。或いは皮肉からか。彼の新たな名は、神の救済を意味するアイゼアの愛称【ザイア】だった。
――彼【ザイア】は、残りの人生を、この領地の民に捧げます――と頭を下げ、ジョウに感謝を表していた。
♢
「えっほえっほ……ようやく着いたぞ!」
エイルが地下牢にいた頃、ジョウの眷属おチビちゃんは、やっと元・ロックス伯爵邸に到着したのだった。
「起きております、賢者様」
「お前の判決書を持ってきた」
いつものエイルらしくない口調と、蝋燭の灯りで浮かびあがる表情。
「どんな罰でも受け入れます。教えて下さい、賢者様」
「お前の今後の人生は、極端に二つに別れる」
エイルは、人差し指と中指で数を示しながら、セルト・ロックスを見据える。
「二つ……でございますか?」
目を瞬かせるゼルトは、内心で死刑は確実だろうと思っていた。
それが二つ。おそらく一つは死刑だが、問題はもう一つの刑だ。
「まず第一に、お前の身柄は、私が預ることになった」
「は?……私が、賢者様の元にですか?」
「ああ。私としては遺憾な思いもあるが、私の弟子の願いと、神の差配を申し出られてしまっては、私たちは従う他あるまい」
「か、神の差配?」
「ああ。私財を肥やすのに夢中になっていたお前でも、高級ポーション不足による救済対策による販売条約を知らないわけではないだろう?」
「ミオ・マグワ――ぐぁっ!?」
エイルが放った風刃が、ゼルトの身を襲い、彼は蹲る。
「お前が呼び捨てにしていい名ではない!」
「申しっ訳っございませっん」
眉間に皺を作り、眉尻を吊り上げたエイルに、ゼルトは床に蹲ったまま、謝罪を口にした。
「はあ……これが、お前に出された判決書だ」
「ありがとうござい―――」
牢屋の鉄柵越しに渡された判決書を受け取ったゼルトは、そのまま視線を落とし、言葉を失った。何故なら―――その判決書に、似つかわしくない言葉が並んでいたのだから。
【名前 ゼルト・ロックス
身分 元伯爵家当主
・
・
・
備考
・被害者の恩赦により、加護者への不敬に対する『大逆罪』は不問とする。
・神託により、ゼルトの身柄は、フリータール王国賢者エイル・リュタ・ラ・マグワイアに預けることとする】
「こ、これは??」
脳内を占めるのは、疑問符ばかり。ゼルトは、声を詰まらせながらも、聞くのが精一杯だ。
「先ほど言っただろう。神託による神の差配が入ったと――」
「それはお聞きしましたが……」
二の句が継げないゼルトに、エイルは深い溜息を吐く。
訳が分からないのも無理はないと、エイルは思う。だが、全てを話すほど優しくもない。
エイルは彼に視線を合わせ、言った。
「お前に残された道は二つ。終身犯罪奴隷として、鉱山送りになるか。この領地で、平民の代官として働くか」
「え?」
百歩譲って、前者は理解できる。だが、後者はどうだ? ゼルトの口から間の抜けた声が漏れるのも仕方がなかった。
「この領地は、王家直轄地となる。その代官を、お前が務める事ができる。但し、お前の責任者は私だ。私の手を煩わせるような事になれば……分かっているだろう?」
風が鳴る音を響かせ、エイルの手の中で渦巻く。
「はひっ!?……それはもうっ!ですが、なぜ私なのでしょう?」
彼の疑問も尤もだ。
本来ならば、その判決書通りに国が定めた刑罰は、死刑なのだから。
「それは――」
エイルはそう言いかけて、閉口した。
今回の原因は、ジョウの『楽に死なせぬ』という怒りと、ウルシア様の『成り代わった彼』への期待という二重の望みだからだ。
勿論、ミオの預かり知らぬ所で起きたことばかり。万が一、彼からミオの耳に入ることがあっては台無しである。
ミオには、彼が代官になったという事実だけを伝えればいい。
「それを、お前が知る必要はない。それに、二つのどちらを選んでも、茨の道であることに変わりはないからな」
この地が国の直轄地になり、アターキル・リュイスの領地の次に、ミオが自由に楽しむ地になればいい。
「……私は――」
結局ゼルトは、代官の任に就くことを選んだ。それをジョウに念話で伝えれば、新たな名を彼に与えると言った。
それは、人生の門出を祝ったものなのか。或いは皮肉からか。彼の新たな名は、神の救済を意味するアイゼアの愛称【ザイア】だった。
――彼【ザイア】は、残りの人生を、この領地の民に捧げます――と頭を下げ、ジョウに感謝を表していた。
♢
「えっほえっほ……ようやく着いたぞ!」
エイルが地下牢にいた頃、ジョウの眷属おチビちゃんは、やっと元・ロックス伯爵邸に到着したのだった。
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
『なでなで』しかできないと追放されたテイマー少女、無自覚に神獣をワンコ化して無双する
葉山 乃愛
ファンタジー
「お前の『なでなで』なんてゴミスキル、戦闘じゃの役にも立たねえんだよ!」
冒険者パーティーを無情にクビにされたテイマーの少女・ミレーヌ。
彼女の持つスキルは、対象を優しく撫でるだけの、攻撃力ゼロ、射程距離ゼロのハズレ枠。
行く当てもなく、命の保証もない『迷いの森』へ迷い込んだ彼女が出会ったのは、一匹の「大きな黒いワンちゃん」だった。
「わあ、フワフワ! よしよし、寂しかったの?」
空腹で死にかけ、ただモフモフに癒やされたかったミレーヌは、持ち前のスキルでその巨体を撫で回す。
だが、彼女は知らなかった。
そのワンちゃんの正体が、かつて世界を終焉に導きかけた伝説の神獣『フェンリル』であることを。
そして、ミレーヌの「なでなで」は、ただの愛撫ではなかった。
どんな凶悪な魔物も一瞬で野生を失い、絶対の忠誠を誓う「神の愛撫」だったのだ!
「次は大きな赤いトカゲさん? 鱗がツヤツヤで綺麗だね!」
伝説の赤竜(レッドドラゴン)さえも「アカくん」と名付けてペットにし、ミレーヌは危険地帯のど真ん中に、世にも恐ろしい(本人は幸せな)モフモフ・スローライフを築き上げていく。
一方、彼女を捨てた元パーティーや、異常事態を察知した王国騎士団は、ミレーヌの背後に控える「終末の軍団(※ただのペット)」を見て、泡を吹いて絶望することになるのだが……。
「みんな、とってもいい子ですよ?」
本人はどこまでも無自覚。
最強の神獣たちを従えた、少女ののんびり無双劇が今、幕を開ける!
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?