【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)

文字の大きさ
11 / 151

第十一話 賢者 エイル

しおりを挟む
ルイ Side

(「これはお前宛てだ」)
 
 ローハン隊長に、そう言って渡された紙は二つ折りの紙だった。

『魔従族のことが周囲にばれないように、エイルを連れてこい。真贋判定に時間がかかることは想定済みだから、あいつをちびっ子の保証人に据える。上手く誘導してこい。連絡便も、必要なら使え。後からの経費申請を許可する』

 字面だけ見れば、悪役に間違われても仕方ない文面だ。なにかあれば、連絡しろとのことだが……エイル様には、要件を話す前に遮音結界を頼んだほうが良さそうだ。



「こんにちわ」

 僕は、カランカランと小気味良く鳴るベルを響かせ、冒険者ギルドに足を踏み入れた。

「あら、ルイさんじゃないですか。どうしたんですか?こんな時間に」

 まだ明るい時間帯に、仕事服で一人行動をする僕が珍しいんだろう。
 受付嬢のジーナは、茶色の瞳を瞬かせて僕を見ている。

「ローハン隊長からのお使いです。賢者様はご在席ですか?」

 お使いと聞いて合点がいったのか。それを聞いたジーナの瞳は、途端に興味を無くす。

「あぁ……彼なら、研究室か執務室にいるわよ」

 残念そうな表情で、適当な相槌を打った。彼女は一体どんなことを期待したんだ?暇なのか?
 ジーナが身体をカウンターに預ければ、その反動で揺れるグラスグリーンの髪。

 辺りを軽く見回すが、昼過ぎという時間帯からか、ギルド内はガランとしている。なるほど。五の鐘が鳴る頃には、冒険者たちでごった返す館内も、今は閑古鳥が鳴いて暇なのか。

「上がらせてもらっても?」
「えぇ。エイル様には、内線で知らせるわ」

 出るかわからないけどね……とボヤきながら、連絡を取り始めたジーナを横目に、私は2階に繋がる階段に歩を進めた。

「どうぞ」

 僕がノックをすれば、のほほんとした声が応えた。どうやら、ジーナの取り次ぎは無事完遂したみたいだ。
 さて……室内にいる部屋の主は、ローハン隊長の要請にどんな反応をするかな?若干の気の重さを感じながら、僕はドアノブに力を入れた。

「失礼します」

 僕は扉を開け、一礼した。
 
「久しぶりですね、ルイ。今日はどうしました?」

 声音こわね同様に、のんびりとした空気が流れる室内。
 銀の髪が腰よりも長い。片眼鏡をかけたインテリエルフ。称える表情は、優しげな微笑み。
 それが我が国の賢者。
 エイル・リュタ・ラ・マグワイア。
 種族はエルフだが、ハイエルフの血筋を受け継ぐエルフだ。現在のエルフの長は、エイルの大叔父であり、クリーク連合共和国の首長を務める大物である。

「今日は、ローハン隊長の使いで伺いました。東門で少々問題が発生しまして……応援要請に来ました」
「応援要請?」

 眉間に皺を寄せ、剣呑な雰囲気を発するエイル。先ほどの朗らかさとは一変して、不穏な気配が室内に漂う。

「はい。エイル様のお知恵を借して頂きたく、ローハン隊長からの直接依頼です」
「ローハンですか…」
「隊長から手紙を預かっているのですが、その前に一つだけお願いがあります」
「ルイが頼みごととは珍しいですね。なんでしょうか?」
「遮音結界をお願いしたいのです」
「……そんな重大事じゅうだいじが起こっているのですか?」
「ローハン隊長から、くれぐれも内密にと言われてはいますが、これはエイル様の為でもあります。エイル様は研究のことになると、殊の外興奮なされますからね」
「確かに騒ぎますが、そんな大層な扱いをされる覚えは『ないとでも?』……分かりました。ルイがそこまで仰るなら、遮音結界を張りましょう」


エイル 視点

 遠慮なく割り込んでくる辺りに、ルイの本気を感じます。表情は微笑んでいますが、目が笑っていません。ガチです!
 そしてなにより、力一杯否定出来ない自分が悲しいです。日々の行いの大切さを痛感しました。

「ではこちらが、ローハン隊長から預かった手紙です」
 
 遮音結界が張られたのを確認したルイは、私に手紙を差し出してきました。それを受け取り、裏を確認すれば、確かにローハンの筆跡です。私は急ぎ開封し、便箋に書かれた内容に視線を走らせます。

「……これは、本当のことなのでしょうか?」

 手紙に書かれていた内容の非現実さに、私はたっぷりと固まりました。質問した声だって、やっと絞り出したのです。掠れた酷い声。

「興奮しないんですね?」

 だと言うのに、ルイの第一声は酷いものでした。

「興奮って…変態みたいな言い方はよして下さい。私だって、現実味の可否ぐらいは区別がつきますよ!取り分けこれ・・は、群を抜いて現実味が無さすぎます」

 いくら研究分野だからといって、なんでもかんでも興奮するわけないでしょう!?私がプンスコ憤慨していると、ルイは残念そうな表情に肩を竦めた。

「ローハン隊長の見込みも、当てにはなりませんね」

 そうは言うが、どうしても疑ってしまう。魔従族が姿を消して二百年。人間にしてみれば、歴史に埋もれた種族なのだ。私の疑いの眼差しに、ルイがズイッと顔を近づけてきた。

「私たち門兵も暇じゃありません。冗談などではなく、本気です。隊長の手紙になんと書いてあるか存じません。ですが街門には、エイル様が来るの待つ幼子(+魔獣)がいるんですよ」
「…っ近いですよ、ルイ!」

 ルイの胸元を押し退け、私はズレた眼鏡を指で調整した。見る人が見れば、ご馳走様な状態であった。

「幼子が魔従族のメダルを持って、二百年ぶりに街門に登場ですか!?」
「はい。なんでも……里の最後の住人で、面倒を見てくれていたお祖母様を亡くされたみたいで。一人でも問題ないけど、やっぱり人恋しいから里を降りてきた……と仰っていました」
「鑑定に時間がかかるのをご存知ですよね?『その間、そちらで面倒を見ろや』というローハン貴方がたの注文が間違ってるんですよ!」
「では、その幼子を街から放り出せと言うんですか?……可哀想に。誰かさんの怠慢で寒空に放り出されるなんて、なんという鬼畜でしょう」
「なっ!?…ルイ!貴方、少しキャラが違いませんか!?」



 確かに本来の鑑定であれば、こんな気軽に依頼は出来ない。だが、ここには彼以外に適任者がいないのだ。無理にでも受けてもらわなければ、我らの宿舎に留めることになる。だがそれは、少女にはいい環境とはいえないだろう。
 エイル様のお屋敷は防犯もしっかりしており、世話を頼む人材もいる。少女たちの身の安全には、もってこいの場所だ。
 ルイは諦めずに、任務遂行の為に舌を転がす。

「とりあえず、一度街門まで来ていただけませんか?鑑定をするかどうかは、メダルを見てからでも遅くはないですよね?」
「確かにそうですね…」
 
 ルイの言い分も間違ってはいない。幼子(+従魔予定)を預かるのも、世話は家人に頼めばいい。私は異論を唱える糸口が見つからず、ルイに同意せざる終えなかった。

「あぁ…それに鑑定を頼む褒章メダルの素材は、ミスリルで間違いないそうですよ?」
「それは本当ですか!?」
「はい。メダルに刻まれた刻印も二百年だとか…」

 刻印は偽称出来るが、その為に希少価値のミスリルを使うのは理解に苦しむ…ということは、メダルが本物の可能性がグッと上がる。

「すぐに準備しますね!」

 先ほど渋々といった様子のエイルだったが、ルイの情報で一気に色めきだった。その姿にを見たルイは、気付かれない程度に口端こうたんが上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

転生先は海のど真ん中!? もふ強魔獣とイケオジに育てられた幼女は、今日も無意識に無双する

ありぽん
ファンタジー
25歳の高橋舞は、気がつくと真っ白な空間におり、そして目の前には土下座男が。 話しを聞いてみると、何とこの男は神で。舞はこの神のミスにより、命を落としてしまったというのだ。 ガックリする舞。そんな舞に神はお詫びとして、異世界転生を提案する。そこは魔法や剣、可愛い魔獣があふれる世界で。異世界転生の話しが大好きな舞は、即答で転生を選ぶのだった。 こうして異世界へ転生した舞。ところが……。 次に目覚めた先は、まさかの海のど真ん中の浮島。 しかも小さな子どもの姿になっていてたのだ。 「どちてよ!!」 パニックになる舞。が、驚くことはそれだけではなかった。 「おい、目が覚めたか?」 誰もいないと思っていたのだが、突然声をかけられ、さらに混乱する舞。 実はこの島には秘密があったのだ。 果たしてこの島の正体は? そして舞は異世界で優しい人々と触れ合い、楽しく穏やかな日々を送ることはできるのか。

転生したらちびっ子になって、空を落ちていた件 〜もふもふたちのお世話はお任せあれ。ついでに悪もやっつけます!〜

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした高橋凛は、お詫びとして理想の世界へ転生することに。しかし気がつけば幼児の姿で、しかも空を落下中だった!? バカ神、あいつまたミスったな!? そう思いながらも、凛はどうすることもできず、空を落ちていく。しかも更なるアクシデントが凛を襲い……。 が、そのアクシデントにより、優しい魔獣に助けられた凛は、少しの間彼の巣で、赤ちゃん魔獣や卵の世話を教わりながら過ごすことに。 やがてその魔獣を通じて侯爵家に迎え入れられると、前世での動物飼育の知識や新たに得た知識、そして凛だけが使える特別な力を活かして、魔獣たちの世話を始めるのだった。 しかし魔獣たちの世話をする中で、時には悪人や悪魔獣と対峙することもあったため、凛は、『魔獣たちは私が守る!!』と決意。入団はできないものの、仮のちびっ子見習い騎士としても頑張り始める。 これは、凛と魔獣たちが織りなす、ほんわかだけど時々ドタバタな、癒しとお世話の物語。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

ドラゴンともふ魔獣に懐かれて〜転生幼女は最強ドラゴン騎士家族と幸せに暮らします〜

ありぽん
ファンタジー
神様のミスで命を落としてしまった高橋結衣(28)。そのお詫びとして彼女は、様々な力を授かり、憧れだった魔法と剣と魔獣の存在する、まるで異世界ファンタジーのような世界へと転生することになった。 しかし目を覚ました場所は、街の近くではなく木々が生い茂る森の中。状況が分からず混乱する結衣。 そんな結衣に追い打ちをかけるように、ゾウほどもある大きな魔獣が襲いかかってきて。さらにドラゴンまで現れ、魔獣と激突。数分後、勝利したドラゴンが結衣の方へ歩み寄ってくる。 転生して数10分で命を落とすのか。そう思った結衣。しかし結衣を待っていたのは、思いもよらぬ展開だった。 「なぜ幼児がここに? ここは危険だ。安全な俺たちの巣まで連れて行こう」 まさかのドラゴンによる救出。さらにその縁から、結衣は最強と謳われるドラゴン騎士の家族に迎え入れられることに。 やがて結衣は、神から授かった力と自らの知識を駆使し、戦う上の兄や姉を支え、頭脳派の兄の仕事を手伝い。可憐で優しい姉をいじめる連中には、姉の代わりに子ドラゴンやもふ強魔獣と共にざまぁをするようになって? これは神様の度重なるミスによって、幼児として転生させられてしまった結衣が、ドラゴンやもふ強魔獣に懐かれ、最強のドラゴン騎士家族と共に、異世界で幸せいっぱいに暮らす物語。

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

処理中です...