追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

文字の大きさ
16 / 40
追放聖女のもふもふスローライフ

第15話 森の秘密と村長の話

しおりを挟む
 チュン、チュン。

 小鳥たちのさえずりと、窓から差し込む柔らかな陽光で目を覚ます。
 一日の始まりだ。でも……まだ少し眠いなぁ……

「キュキュゥ」

 私が布団の中でもぞもぞとしていると、ぼすん、と柔らかい重みが私の上に乗ってきた。

「おはよう、もふぞー。……でも、あまり飛び回らないようにね」

 飛べるようになったのが嬉しいのか、もふぞーはあれからよく部屋の中を飛び回っていた。
 今もひとしきり飛んだ後、私の上に着地したのだろう。
 私たちだけの時はいいけど、万が一ほかの人に見られたら大変だ。

「キュキュゥ」

 もふぞーは了解とばかりに鳴き声をあげた。

 私は二度寝したい気持ちを抑え、もぞもぞと起き出し、いつものように朝食と小鳥さん用の食事を用意する。

 ……やっぱり肉もどきは豆の消費が激しいなぁ……
 だからといって森の動物を狩るのは気が引ける。第一、狩の心得もないし、捌けもしないし……何より可哀想だしね。

 村では豚や鶏を育ててる家もあるけど、それらは祭りや祝い事といった特別な時にしか口にできない贅沢品だ。

 ……豆、育ててみようかな。

「おはようリリアナ」
「おはようございます!」

 やがて皆が起きてきて、食卓につき、いつもの賑やかな朝食が始まった。


 * * *

 朝食後はいつものようにケイトさんの雑貨屋へポーションの補充に行く。
 今日は、ケイトさんに尋ねたい事があった。

「ケイトさん。屋敷の裏の森の中にある泉について、何か知りませんか?」

 うん、私が追放されてから力が増してることに気づくまでの出来事の内、心当たりはもふぞーと出会ったこと、後は泉で水浴びをしたことだ。

「うん? 知らないねぇ……そもそもあたしらはあの辺の森に入ることすら禁じられてるしね」

「え!?」

「……あんた、知らないのかい? 禁じたのは男爵家だって言うのに」
 
 ――そうか。
 考えてみれば当たり前だ。土地は基本的に貴族の所有物。そこに住む野生動物もまた貴族の財産とされる。だから無断で森に入ることは密猟と同じで、多くの場合禁じられている。
 庶民にとって肉が貴重なのも、そのためだ。

 思い返せば、屋敷裏の森では動物以外と出会ったことがなかったな……

 でも、村の反対側――ジャンさんの伐採場がある辺りの森は立ち入りが許可されてるんだよね。
 やっぱり、屋敷の裏の森には何か特別な理由があるのかもしれない。

「あの森に、何か謂れとかあったりしませんか?」

「そういう話なら、村長さんに聞くのが一番だろうね」

 なるほど、村長さんなら村に伝わる昔話や伝承なんかにも詳しいだろう。……この後、会いに行ってみるかな。


 雑貨屋を出ると、その足で村長の家へ向かった。
 村長には顔を合わせたことはあるが、まともに話したことはほとんどない。
 ぶっちゃけ、ケイトさんの方が相談しやすいからね。

 戸口を叩くと、白髪を後ろになでつけたおじいさんが顔を出した。背筋は真っすぐで、瞳は優しげだがどこか鋭さも感じる。
 確か、この人が村長さんだ。

「おやおや、これは聖女様。いつもポーションにはお世話になっております」

 あれ、リピーターだったのか。

「いやぁ、あれを飲むと身体が若返る気がしましてな。昨晩も年甲斐もなく……おっと、若い娘に話すことではありませんな」

 ……うん、全くだ。
 そう思いながらも、とりあえず愛想笑いを返しておく。

 ……というか、私が作ってるのは精力剤じゃないぞ……

「して、本日はどのようなご用件で?」

「えっと、屋敷の裏手の森について伺いたくて……」

「ふむ。外で立ち話もなんですし、中でお聞きなされ」

 促されて家に入り、椅子に腰を下ろす。
 村長は少し目を細め、静かに問いかけてきた。

「それで、あの森について何を知りたいのですかな?」

「村の人が立ち入れないのには、何か特別な理由があるのかなと思いまして」

「なるほど……」

 村長はゆっくりと頷き、どこか遠い昔を思い出すように言葉を紡ぐ。

「これは儂も父から伝え聞いた話なのですが――あの森は昔、『精霊の森』と呼ばれておりましてな」

「精霊の森……」

「うむ。そこには精霊王様がおわすと言われております。その名の通り、森の精霊を束ねる王。姿は、巨大な白狼だと伝わっておりますな」

「精霊王……」

「精霊王様はその姿から『聖獣様』とも呼ばれております」

 ……聖獣様! それはこの村の聖女の話とも繋がる。

「精霊王は白狼の姿なんですか? 背中には翼などは……」

「はて? そのような話は聞いたことがないですな。ただ――」

 村長は重々しく続ける。

「その森は精霊王に認められた者以外、立ち入ることを禁じられているのです」

 ……私、入っちゃってるんですけど。いいのかな?

「……ふむ。男爵家は今でこそ王国の貴族ですが、それ以前は精霊王を祀る祭祀の一族であったと聞いたことがあります。聖女様であれば、立ち入ったとしても精霊王もお認めになるかもしれませんな」

 村長さんは、私の態度に何かを察したのかそう続けた。


 * * *

 森の泉での水浴びは、すっかり私の日課になっていた。
 冷たい水に身を沈めながら、村長から聞いた話を頭の中で整理する。

 つまり――私の力が増したのも、ロゼに魂が宿ったのも、ミミィが人間になったのも、ぜんぶ精霊王様の力ってことかもしれない。

 ……謎は全て解けた! ドンッ!

「リリアナ、何やってるの?」
「たまに変なことしますよね」
「キュキュゥ」

 ……むぅ。

「えいっ!」

 私は二人と一匹に向かって、水しぶきをかけてやる。

「いきなり何するんですか!?」
「やったなー」
「キュゥ!」

 わぁっと水の飛沫が上がり、みんなが笑顔で応戦してくる。
 しばし、泉のほとりは小さな水合戦の舞台になった。

 ――あれ?

 でも、もふぞーの正体って結局なんなんだろう?
 村長の言う精霊王様とは姿が違うし、本人(?)も否定してたし……。

 ……どうやら、すべての謎が解けるのは、まだまだ先になりそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

【完結】聖女レイチェルは国外追放されて植物たちと仲良く辺境地でサバイバル生活します〜あれ、いつのまにかみんな集まってきた。あの国は大丈夫かな

よどら文鳥
恋愛
「元聖女レイチェルは国外追放と処す」  国王陛下は私のことを天気を操る聖女だと誤解していた。  私レイチェルは植物と対話したり、植物を元気にさせたりする力を持っている。  誤解を解こうとしたが、陛下は話すら聞こうとしてくれない。  聖女としての報酬も微々たる額だし、王都にいてもつまらない。  この際、国外追放されたほうが楽しそうだ。  私はなにもない辺境地に来て、のんびりと暮らしはじめた。  生きていくのに精一杯かと思っていたが、どういうわけか王都で仲良しだった植物たちが来てくれて、徐々に辺境地が賑やかになって豊かになっていく。  楽しい毎日を送れていて、私は幸せになっていく。  ところで、王都から植物たちがみんなこっちに来ちゃったけど、あの国は大丈夫かな……。 【注意】 ※この世界では植物が動きまわります ※植物のキャラが多すぎるので、会話の前『』に名前が書かれる場合があります ※文章がご都合主義の作品です ※今回は1話ごと、普段投稿しているよりも短めにしてあります。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

スキル『農業』はゴミだと追放されたが、実は植物の遺伝子を書き換える神スキル【神農】でした。荒野を楽園に変えて異世界万博を開催します!

黒崎隼人
ファンタジー
「そのスキル『農業』?剣も魔法も使えないクズはいらん、失せろ!」 勇者召喚に巻き込まれて異世界へ転生した植物オタクの青年カイルは、地味なスキルを理由に王都を追放され、死の荒野へと捨てられた。 しかし、誰も知らなかったのだ。 彼のスキルが、ただの農業ではなく、植物の遺伝子さえ書き換え、不毛の大地を瞬く間に聖域に変える神の力【神農】であることを。 荒野を一瞬で緑豊かな楽園に変えたカイルは、伝説の魔獣フェンリルを餌付けして相棒にし、傷ついた亡国の美姫ソフィアを助け出し、自由気ままなスローライフを開始する。 やがて彼が育てた作物は「エリクサーより効く」と評判になり、その噂を聞きつけた商人によって、彼の領地で世界規模の祭典――『異世界万博』が開催されることに!? 一方、カイルを追放した王国は深刻な食糧難に陥り、没落の一途をたどっていた。 「今さら戻れと言われても、この野菜は全部、俺とソフィアのとフェンのものですから」 最強の農民が送る、世界を揺るがす大逆転・万博ファンタジー、ここに開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...