追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第18話 行方不明の少女と森の捜索

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 チュンチュン

 小鳥たちの楽しげなさえずりと、朝の光で目を覚ます。
 昨日の雨模様が嘘のように、今日はすっかりと晴れ渡っていた。

「キュゥ」

「おはよう、もふぞー」

 丸まっていたもふぞーをひと撫でして、庭の畑の様子を見に行く。
 土は雨を吸ってしっとりしているが、水はけも悪くなさそうだ。
 明日明後日には芽を出すだろう。……多分。

 台所に立ち、朝ごはんの支度を始める。
 この世界でよく使う野菜と言えば、主にキャベツ、玉ねぎ、人参……それと豆くらい。おかげで料理のレパートリーも限られてしまう。
 他にも野草や地方の珍しい作物とかもあるが、そういった物は使い方が分からない。
 スマホがあればレシピとか検索できるのに。

 ……あゝ、日本食が恋しい。

「おはよう、リリアナ」

 ロゼは朝の挨拶をすると玄関を出て、空き瓶回収箱から、ポーションの空き瓶を手際よく持ち帰ってきた。

「おはようございます」

 ミミィが起きてきて朝食の支度が整うと、みんなで食卓を囲んで朝ごはんだ。もちろん小鳥さん達の分も忘れちゃいない。
 こうして皆で食べる朝ごはんは、決して豪華じゃないのに妙に幸せを感じる。

 朝食が終わり洗い物を済ませると、ポーションの補充に雑貨屋へと足を運ぶ。

「いらっしゃいませ!」

 ドアを開けると、元気な声が飛び込んでくる。
 今日はアリサちゃんが出迎えてくれた。

「お手伝いかな? 偉いね」

「えへへ」

 小さな頭をなでると、アリサちゃんは嬉しそうにはにかむ。

「お手伝いするってきかなくてね」

 ケイトさんは困ったように笑う。
 けれどその声には嬉しさがにじみ出ていた。

 ……うん、わかるよ。
 私もロゼやミミィ、もふぞーが手伝ってくれると本当に嬉しいもん。

 ……って母親目線か!

 ふと気づき、思わず自分で心の中で突っ込む。
 でも、屋敷での私は確かに“おかーさん”みたいな立ち位置かもしれない。
 まあ、前世での年齢も加味すればそういった年齢でもおかしくないのか……

 ポーションの補充を終え屋敷に戻ると、ロゼは箒、ミミィは雑巾を手にしていた。
 そして、もふぞーはテーブルの上で応援するように、ぴょんぴょんと跳ねていた。

「掃除、しててくれたの?」

「うん、いつも使ってるとこだけ。やっておけば、リリアナともっと遊べる」

「ですです!」

 やっぱりこの子たち可愛いなぁ。
 私は思わず二人を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。

「モキュ!」

 うんうん、もふぞーも忘れてないから大丈夫。



 その後、ポーション作りを始める。
 いつものようにミミィがハーブを混ぜ、ロゼが完成したポーションを箱に詰めていく。
 もふぞーは、応援係だ。

 作業が終わると、ハーブティーで一息ついた。
 その後は三人と一匹で屋敷の中をドタバタ駆け回り、笑い声が絶えない時間を過ごす。

 やがて、いつものように近所の子どもたちが遊びに誘いにやって来た。
 ……けれど、今日はアリサちゃんの姿がなかった。
 ……あれ? まだ雑貨屋のお手伝いしてるのかな……
 胸に小さな違和感を抱きながらも、夕暮れまで楽しい時間は続いた。


* * *

 ――日が落ちかけた頃。

 屋敷の扉が、ドンドンと激しく叩かれる。

「リリアナ! いる!?」

 慌てた声に扉を開けると、そこには顔色を失ったケイトさんが立っていた。
 汗で額は濡れ、呼吸も荒い。普段は気丈な彼女が、こんな表情をするなんて。

「……何かあったんですか?」

「アリサが――アリサがどこにも見当たらないんだ! あんた、何か知らないかい!?」

 胸が冷たく凍りつく。
 昼間の笑顔が脳裏に浮かんで、私は強く拳を握った。

「私も探します! 詳しく教えてください」

 できるだけ冷静に、けれど力強く。
 動揺を抑え、ケイトさんを落ち着かせるように言葉をかけた。

 ――話を聞くと、アリサちゃんは昼過ぎに外へ出たきり戻っていないらしい。
 外で友達と遊んでいると思っていたが、夕方になっても姿が見えず、他の子どもたちに尋ねたところ「今日は来ていない」と言われて行方不明が発覚したという。

 今は村中が総出で捜索に当たっているとのことだった。

 私ともふぞー、ロゼ、ミミィもすぐに広場へ向かう。

「どうですか?」

 広場で指揮を執っていた青年団リーダー、ディアンさんに尋ねる。

「……まだ見つかっていない」

 その時、青年団の若者が駆け込んできた。

「リーダー! 昼過ぎに森の方で見たって話が!」

 ――森。
 あの子は確か、「聖女になりたい」って言っていた。
 まさか……精霊王様、聖獣に会おうと、一人で森へ?

「まいったな……あの森は立ち入り禁止だ……」

 私の胸を強い後悔が締め付ける。
 私のせいだ。私が無責任なことを言ったから……

「私が責任を持ちます!」

 声が自然と大きくなる。

「男爵家が末娘、聖女リリアナの名をもって、今だけ森への立ち入りを許可します!」

「……よし! みんな、森を捜索するぞ!」

 私の言葉にディアンさんがすぐに指示を飛ばす。

「ただし、奥までは行かないでください!」

 私はすぐに付け加える。

「二次遭難……捜索隊が遭難しては意味がありません。森の奥は――森に慣れている私たちが探します!」

 私たちはすぐに森へと足を踏み入れた。
 正直、私が知っているのは泉とハーブ園への道だけだった。なので森の奥では、もふぞーやミミィの力が頼りだ。

「もふぞー、ミミィ、お願い」

「ハイっ! 私なら夜目も効きますし耳も良く聞こえます!」
「キュキュゥ!」

 ミミィは耳を澄まし、もふぞーは鼻を利かせて進んでいく。

 やがて――。

「いました! この奥です!」

 ミミィの声に胸が高鳴る。

 木々の間に開けた場所。
 そこには真っ白な角を持つ馬――ユニコーンが、身を横たえていた。
 そのお腹のあたりに、小さな人影が寄り添っている。アリサちゃんだった。

「おねーちゃんっ!」

 アリサちゃんは涙を浮かべて立ち上がり、私に駆け寄って抱きついてくる。
 頬や膝には擦り傷がいくつも走っていた。

「……あなたが守ってくれたの?」

 アリサちゃんの傷を治しながら、私はユニコーンに問いかける。
 彼は立ち上がり、短く嘶くと、静かに身を翻し森の奥へと消えていった。

「とりあえず早く戻ってみんなに知らせないと……」

「私に任せて」

 ロゼは、そう言うとフッと消えてしまった。
 なるほど、その手があったか。多分ロゼは本体へと戻ったのだろう。いったん屋敷の本体へと戻り、また分見を出して村へと行く、確かにそちらのほうが早い。

 しばらくすると、森の入り口の方からカンカンとベルの音が鳴り響いた。
 捜索終了を知らせる合図だ。

 帰り道、泣き止んだアリサちゃんが小さな声で呟いた。

「ごめんなさい……私……」

「うん。アリサちゃんが無事ならそれでいいよ。私が無責任なこと言っちゃったせいでもあるし……それより、戻ったらケイトさんや村のみんなに謝ろう」

 やがて森を出ると、待ち構えていた人々の前でアリサちゃんはケイトさんに抱きつき、声を上げて泣いた。
 ケイトさんも強く娘を抱きしめ、涙を流していた。

「おかえり」

 先に戻ったロゼが、やわらかく微笑む。
 思えばこの子も、ずいぶん表情が豊かになったなぁ。

「よーし、みんな揃ってるな? それじゃあ解散だ!」

 ディアンさんの声に、村人たちは安堵の表情で家々へ戻っていった。

「私たちも帰ろうか」

 屋敷へ戻る途中、ミミィがこちらを見上げてくる。

「私……お役に立てましたか?」

「もちろん。ミミィがいなかったらどうなってたか……すごく助かったよ。ありがとう」

「よかったです」

 ミミィはほっとしたように微笑んだ。
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