追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第19話 不思議な夢と魔法の終わり

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 森の中、木々が絡み合い、天蓋のように覆われた場所。
 そこに私は恭しく跪いていた。

 目の前には白銀の毛並みを持つ巨大な狼。
 その瞳が私を射抜き、低く厳かな声が森に響く。

「……よ、汝を新たな我が騎士に任命する」

「おめでとうございます!」
「おめでとさん」

 横に立つ二人の少女が声を揃える。
 一人は耳の長い金髪の美しい少女。もう一人は小麦色の肌をした小柄な筋肉質の少女。
 どちらも白銀のビキニアーマーをまとい、どこか神秘的な存在感を放っていた。気づけば私の格好も同じような、ビキニアーマーだった。

「それでは、儀式をはじめよう。こちらへ……」

 ……

 ……

 チュンチュン。

 小鳥のさえずりと朝の光で目を覚ます。
 ――夢、だったようだ。

「あれ……聖獣様、かな?」

 けれど夢の余韻は妙に生々しい。
 ……どうしよう。
 唐突に昨日のヤラカシを思い出す。
 しかたがなかったとはいえ、男爵家令嬢の名前で勝手に森への侵入許可を出してしまった……まあ、村の人達が黙っていれば実家へ知られることもないだろう。……問題は聖獣様だ。

 夢に出てきたってことは怒ってる? 菓子折り持って謝りに行った方が良い?

 ……でも、あれは私じゃなかった気がする。
 “聖女”じゃなく“騎士”と呼ばれていたし、傍にいたのは――エルフとドワーフ?
 この世界には妖精族はいない。伝承の存在だ。本当に存在していたのか、それともただの夢か。

「……まあ、考えても仕方ないか」

 私は勢いよく起き上がり、朝の支度を始めた。

「おはようリリアナ」

 いつものようにロゼが起きてきて空き瓶の回収して戻って来る。

 そしてミミィが……あれ? 起きてこないな……

「もふぞー、ちょっとミミィの様子見てきてー」

「キュッ!」

 やがてもふぞーに連れられて、寝ぼけ眼のミミィが現れた。

「おはようございまふ……」

 ちょうど朝食の準備も整い、ロゼが小鳥たちに餌をやって戻ってくると、私たちは食卓についた。

 ――その時。

 コーン、と木のフォークが落ちる音。

「あわわっ、ごめんなさい」

 ミミィが慌てて拾おうとするが、手がうまく動かないらしい。

「大丈夫?」

「だ、だいじょうぶれす……でも、なんか……手がうまく……」

 呂律もどこかおかしい。
 嫌な汗が背中を伝った。

 額に手を当てる。……少し熱がある。
 表情は元気ないけどそれ以外の違和感は感じない。手の症状も両手。片側だけじゃない。

 ……脳とかじゃない……よね? たぶん……熱のせい……?

 無理やりそう思おうとしたが、不安はどうしても拭えなかった。
 
 ミミィのことが心配で、不思議な夢のことは既に頭から抜け落ちていた。

「食欲はある?」

「……あい」

 私は洗ったフォークで、一口ずつ食べ物をミミィの口へと運ぶ。ぽつり、ぽつりと掠れた声で「ありがとうございまふ」と囁かれ、胸がきゅっとなる。

「それじゃあ、ベッドで休もうか」

 食事を終えたミミィを抱えあげ、ゆっくりとベッドへと運ぶ。非力な私には大変だったが、どうしても自分がやりたかった。

「リリアナ、雑貨屋へは私が行くからミミィについててあげて」

「ありがとうね、ロゼ」

 私は笑顔を作りロゼに感謝する。ロゼの心遣いが胸にしみた。

「すぐに良くなるからね」

 そう言って掌に魔力を集め、回復の呪文をかける。淡い光がミミィを包むが、良くなった気配はない。

「……たうん……むらです」

 小さく聞こえた言葉に眉をひそめる。
 ……“多分、無駄です”って言ったのかな?

「……何か、心当たりはあるの?」

「まほうの、じかんは……おわったんれす」

「どういうこと?」

「おんがえしは、おわったから……」

 途切れ途切れの声。
 その言葉の意味が胸に重くのしかかり、私は言葉を失った。
 ……そうだ、ミミィは私に恩を返すために人間になって現れたんだ。だから、私に恩を返したらそれで終わり。普通のミミズクに戻ってしまうんだ。

「まだ……だよ」

 声が震える。涙が止まらない。

「まだ……恩を返してもらってないよ……服だってあげたし、ミミィのために料理だって考えたし……畑だってミミィのためなんだから!」

「……そ、うれしたね……ごめんなさい……でも、もうだめなんれす……」 

「嫌だよ……もっと、一緒にいたいよ」

「もとのすがたにもろっても……いっしょにいまふよ」

 ミミィはぎこちない笑顔を浮かべる。その声に滲むのは、諦めと、優しさだった。

「……ミミィ……」

「わらしは……りりあなにあえて……たのしかったれす」

 その瞬間、ミミィの姿がふっと薄れていった。私の腕の中の暖かさが、するりと消える。数秒の余韻のあと、着ていた服だけが、ぱさりとベッドの上に落ちた。

「リリアナ……」

 いつの間に戻ったのか、ロゼが背後から身を寄せた。もふぞーも私を慰めるように体を寄せる。

 私は誰もいなくなったベッドの上を呆然と見つめていた。悲しみの波が押し寄せてくる。
 ——そのとき、布の下でもぞもぞと小さな影が動いた。

 もぞり、と羽ばたくような音。布の隙間から小さなミミズクが顔を出した。元の姿のミミィだった。

「……ミミィ」

 思わず私は飛びつくように、その小さな体を抱きしめた。

「……リリアナ、痛いです」

「へ?」

 突然の声に、思わず間抜けな声が出た。

 ミミィから体を離す。ミミィはしばらく身体を動かしたと思ったらポンッと言う音とともに人間の姿になっていた。

「……ミミィ……大丈夫、なの?」

「……よくわかりません。もう、『終わり』なんだって思った瞬間、なんだかあったかい力が流れ込んできて……」

「……よかった……」

 そう呟くと私は再度ミミィに抱きつく。ロゼももふぞーも一緒だ。

「ちょっ、ちょっと待ってください! 服くらい着させてくださいー!」

 寝室に、私たちの嬉し泣きの声と、ミミィの叫び声が響きわたった。


 * * *

 いつものように泉での水浴び。
 結局、なんだったんだろう? 精霊王さまが助けてくれた? なら、怒ってないのかな?

 もふぞー達はいつものように泉の水で遊んでいる。

 パシャ! 顔に水が飛んでくる。

 あーもう、こうなるよね。私もそれに参加して水を飛ばす。
 水が当たる瞬間、ミミィがミミズクの姿になって水しぶきを避けていた。

「あれ?」

「どうやら元の姿にも戻れるみたいです」

 ミミィはまた人の姿になると嬉しそうに笑った。

 ……なんか、アップデートされてる。

 ――でも、大事なくて本当に良かった……
 私は小さくつぶやき、もふぞーの背をそっと撫でた。
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