追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第31話 木の実のジャムと特製ソース

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 チュンチュン

 小鳥たちのさえずりと、やわらかな朝の光に目を覚ます。

「モキュ」

「おはよう、もふぞー」

 もふぞーの背には、まだ寝ぼけ眼のティンカがちょこんと乗っている。
 私はそっと手を伸ばし、ティンカを起こさないようにもふぞーの体を撫でた。
 ふわふわの毛並みが指先をくすぐる。――うん、朝から癒される。

 さてと、朝の支度しないとね

 私は台所に立ち、昨日砂糖に漬けておいた木の実の様子を確かめる。
 うん、しっかり馴染んでる。
 あとはペクチンを加えて煮込めば、ジャムができるはずなんだけど……
 とりあえず、ケイトさんに聞いてみるかな。
 困った時のケイトさん頼みだ。

 気を取り直して朝食の準備を始める。
 野菜スープを煮込み、代替肉のハンバーグを焼く。
 そして昨日の木の実を潰して作った特製ソースを、香ばしく焼けたハンバーグにかけた。

「うん、美味しそう」

 ちょうど出来上がった頃、庭からロゼとミミィが戻ってきて、みんなで食卓を囲む。

「このソース、甘酸っぱくておいしいです!」
「キュキュゥ!」

 うん、上手くできたし評判も上々だ。
 後でアリサちゃんにも食べさせてあげよう。

* * *

 食後は、いつものように雑貨屋へと向かう。

「こんにちはー」

「はい、いらっしゃい」
「おねーちゃん、いらっしゃい」

 慣れたやり取りに、自然と笑みがこぼれる。
 ポーションの補充や細々した買い物を済ませると、ケイトさんに尋ねる。

「ケイトさん、この村で……柑橘系の果実って手に入りませんか?」

「うーん、今の時期はちょっとねぇ……あっ、そういえば裏の爺さんが何か育ててた気がするよ」

「ほんとですか!? ありがとうございます!」

 やっぱりこの村のことはケイトさんに聞くのが一番だ。
 ――さて、これでペクチンの問題も何とかなるかもしれない。

 アリサちゃんと一緒に、教えられた裏手の家へ向かうと、風に乗って爽やかな香りが匂ってくる。
 間違いない。多分みかんとかの柑橘系の香りだ。

「すみませーん」

「はいよー。聖女様じゃないですかい。何か御用で?」

 背の小さいお爺さんが姿を現す。

「柑橘系の果実を探してまして」

「なるほど、それでうちに」

「一つで良いので売ってもらえませんか?」

「良いよ。ただで持ってきな」

 そう言ってお爺さんは実を一つ渡してくる。
 橙色の五センチほどの小さな実だ。

「そんな、悪いです」

「この前村を守ってくれた礼ってことでどうかの」

「……ありがとうございます」

「それにしても、この時期に実をつけるなんて珍しいですね」

「うむ、これはこの時期に実をつける珍しい品種でな。昔、旅の行商から分けてもらったものじゃ。趣味で育てておるのじゃよ」

「へぇ、すごい……いい香りですね」

「ふぉっふぉっ、陽の当たり加減が難しくてのう。ようやく実がなったんじゃ」

 お爺さんは誇らしげに木を見上げた。
 枝先には、淡い橙色の実がいくつも揺れている。
 風が吹き抜け、柑橘の香りがふわりと漂った。

 ――これでジャムが完成する。

 そう思うと、胸の奥が少し弾む。
 私は丁寧にお礼を述べ、アリサちゃんと共に屋敷へと戻った。

「ただいま~」

「おかえり、リリアナ」
「おかえりなさい! ……なんかいい匂いがします!」

 ミミィが鼻をひくひくさせて、柑橘の爽やかな香りに反応する。

「これは料理で使うものだからね」

 私は笑って言いながら、台所へと向かった。
 鍋に火をかけ、砂糖に浸けておいた木の実を静かに煮込んでいく。
 ふつふつと泡が立ち、甘酸っぱい香りが部屋いっぱいに広がった。

「それじゃあ、アリサちゃんは練習の準備しといて」

「はーい!」

 アリサちゃんはテキパキと調合道具を並べ、すぐに戻ってくる。

「ずいぶん急いだんだね?」

「ジャム作るところ、見たいから!」

「そっか。じゃあ、一緒に作ろうか」

「うんっ!」

 沸騰した鍋を弱火にし、泡を潰しながら焦げないようにゆっくりかき混ぜていく。
 木の実がとろりと溶け、甘い香りがさらに濃くなる。

「アリサちゃんもやってみる?」

「う、うん!」

「熱いから気をつけてね」

 木べらを渡すと、アリサちゃんは緊張した面持ちで鍋をのぞき込み、そっとかき混ぜ始めた。
 真剣な横顔が少し可愛らしい。

「そろそろいいかな? じゃあ交代~」

 私は鍋を火からおろし、少しなじませるために放置する。
 部屋いっぱいに、甘い香りがふわりと漂った。

 その間にもう一つの鍋でお湯を沸かし、保存用の瓶を煮沸して消毒しておく。
 こういう作業は、ちょっと地味だけど大事だ。

「それじゃあ、この時間で少し授業しようか」

「はーい……」

 アリサちゃんは返事こそ元気だったけど、視線はどう見ても鍋のほうに釘づけだった。
 うん、まあ気になるよね。いい匂いしてるし。

 さてと――仕上げといきますか。
 頃合いを見て強めの火にかけ、一気に沸騰させる。
 そこへ柑橘の果汁をぎゅっと絞り入れると、ぱっと広がる香りにアリサちゃんが小さく息を呑んだ。

「わぁ……いい匂い」

「ふふ、もうすぐ完成だよ」

 水分が減り、とろりと艶のある状態になったら火を止める。
 熱いジャムを煮沸した瓶に静かに流し込み、ふたをして逆さに置く。
 この瞬間だけは、本当に気を抜けない。沸騰したジャムは、触ったら大変なことになる。

「この作業は危ないから、アリサちゃんは見ててね」

「うん!」

 私は慎重に瓶を並べ、ふぅと息をついた。
 やがて瓶の中で、真っ赤なジャムがきらきらと光を反射する。

「これで冷めたら完成だよ。後で食べよう」

「うんっ、楽しみ!」

 アリサちゃんの笑顔につられて、私もつい笑みがこぼれた。
 ――今日の授業は、きっとこの香りが主役だ。


 * * *

 やがて待ちに待った昼食の時間。
 今日のメニューは、いつもの野菜スープに、代替肉のハンバーグ特製ベリーソースがけ。
 そしてパンには、さっき作ったジャムを添える。

 いつもの食卓に、木の実の赤が加わるだけで、なんだか豪華に見える。

「甘くて美味しい!」 「キュキュゥ!」

 みんなの頬がほころぶ。

「このソースもおいしいです!」

 アリサちゃんが嬉しそうに笑う。
 その顔を見て、作ってよかったなぁと心から思った。


 * * *

 食後、みんなで少し遊んだあと、水浴びへと出かける。
 ほとりで服を脱ぎ、泉へと身を浸す。

「ふぅ……気持ちいい」

 木漏れ日が揺れ、森の動物たちや精霊たちが静かに見守る中、
 私たちはしばし水の冷たさを楽しんだ。

 ――うん、今日もいい一日だったね。
 そうつぶやきながら、私はもふぞーの背をそっと撫でた。
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