追放聖女のもふもふスローライフ

臥龍岡四月朔日

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追放聖女のもふもふスローライフ

第35話 いつもの日常と森の聖女

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チュンチュン

 小鳥たちのさえずりと、窓から差し込む柔らかな陽の光で目を覚ます。

「キュウ」

 私が起きるのを見て、もふぞーが頬をぺろりと舐めてきた。

「おはよう、もふぞー」

 私は身を起こし、もふぞーの首筋をもふもふと撫でる。
 背中にはティンカが乗っていて、まだすやすやと寝息を立てていた。

 私はそっとベッドを抜け出し、見習い聖女のローブを羽織って台所へ向かう。

 ――今日はポトフにしようかな。

 野菜をザクザクと切り、鍋に油をひいて代替肉の表面に香ばしい焦げ目がつくまで炒める。
 そこへ野菜を入れ、水を加えてゆっくり煮込んでいく。

「おはよう、リリアナ」
「おはようございます!」

 ロゼとミミィが起きてきて、まだ寝ぼけ眼のままそれぞれ外へ向かう。
 ロゼは回収箱の空き瓶を回収に、ミミィは庭の畑の様子を見にだ。

 野菜が柔らかく煮えてきたころ、二人が戻ってくる。
 二人は小皿にパンを半分にしてお皿に細かくちぎっていく。――小鳥さんたちの朝ごはんだ。

 私は仕上げに塩とハーブをひとつまみ。
 湯気とともに、代替肉の香ばしさと爽やかなハーブの香りが屋敷いっぱいに広がった。

 ――そろそろまたハーブを摘みに行ったほうがいいかも。アリサちゃんとの授業でだいぶ使っちゃったし。

 パン屑を作り終えたロゼがお皿を窓辺へと持っていき、ミミィがこちらの配膳を手伝い、朝食の準備が整った。
 
 ティンカも欠伸をしながら起きてきて、みんなが席につくと、自然に声がそろう。

「いただきます」

 小さな屋敷に、湯気と笑い声が満ちた。


 * * *

 朝食の後は、雑貨屋へと向かう。
 ティンカは不可視化して私のフードの中へ潜り込み、もふぞーはぴょんぴょんと後をついてくる。

 村の人たちに挨拶をしながら、のんびりと村道を歩いた。

「こんにちは~」

 雑貨屋の扉を開け挨拶すると、いつもの声が迎えてくれる。

「いらっしゃい」
「おねーちゃん、いらっしゃい!」

 カウンターの向こうで、ケイトさんとアリサちゃんが笑顔を向ける。
 今日もアリサちゃんは元気いっぱいだ。

「キュキュゥ」
「もふぞーもいらっしゃい」

 ポーションの補充を済ませ、代金を受け取ってからケイトさんと他愛のない世間話を交わす。
 その後、アリサちゃんを連れ、雑貨屋を出て屋敷へと戻った。

「ただいまー」
「おじゃまします」

「おかえり。アリサもいらっしゃい」
「いらっしゃい」

「ロゼちゃん、ミミィちゃん、こんにちは」

「うん。――今日の授業は、みんなで森にハーブを取りに行こう」

「森に?」

「そう。森の中に、ハーブがたくさん生えてる場所があるんだよ」

「とっても綺麗」

「おぉ~」

 ロゼの言葉に、アリサちゃんの瞳がきらきらと輝いた。


 * * *

「それじゃあみんな、準備はいいかな?」

「おおー」
「はい!」
「大丈夫です」
「キュキュゥ!」

 私の呼びかけに、みんなの元気な声が返ってくる。
 今日は森の奥までハーブ摘み遠足の日だ。

 小さな籠を手に、私たちは緑のトンネルのような獣道を進む。
 木漏れ日が揺れ、鳥たちのさえずりが遠くでこだましていた。
 森の奥は、いつ来ても静かで、まるで時間がゆっくり流れているみたいだ。

「アリサちゃん、大丈夫?」

 私とロゼ、もふぞーは慣れた道。ミミィはもともとこの森の住人だ。
 でも、アリサちゃんは今日が初めて。まだ身体も小さいし、体力的にも少し心配だった。

「少し休む?」

「……ううん、大丈夫!」

 アリサちゃんは額に少し汗を浮かべながらも、しっかり頷いた。
 その瞳の奥には、好奇心の輝きがあった。無理はしてほしくないけれど、その気持ちは嬉しい。

「よし、じゃあもう少しだけ頑張ろうか」

 そう言って笑いかけたとき――
 ガサガサ、と木々をかき分ける音が響いた。
 森の鳥たちが一斉に羽ばたき、辺りが一瞬で静まり返る。

 私たちは息をのんで音の方へ顔を向けた。
 陽の差し込む木立の間から、ゆっくりと姿を現したのは――

 雪のように白い体躯をもつ、一本角の神秘の獣。
 まるで光をまとうように、美しいたてがみが風に揺れている。
 ユニコーン……!

 ……いつもの、あのユニコーンかな?

 そう思って見つめていると、ユニコーンは静かに歩み寄り、アリサちゃんの前で立ち止まった。
 そして、ゆっくりと前足を折り、座り込むようにして小さく嘶く。

「……乗れってこと、かな?」

 アリサちゃんは一瞬戸惑い、けれどすぐに小さく笑った。

「ありがとう。でも大丈夫。……無理だと思ったら乗らせてもらうね」

 その言葉に、ユニコーンはまるで納得したように小さく頷き、すっと立ち上がった。
 そして振り返り、森の奥へとゆっくりと歩き出す。

  まるで「ついておいで」と言っているかのように。

 私たちは顔を見合わせて頷き合う。
 ユニコーンの後を追い、さらに奥へ――。

 木々の間を抜けるにつれ、空気がほんのり甘く変わっていく。
 どこからか花の香りが漂い、風が頬を撫でるたびに心がほどけていくようだった。

 やがて、視界がぱっと開ける。
 そこは木々に囲まれた小さな空き地。
 太陽の光がやわらかく降り注ぎ、地面いっぱいに色とりどりのハーブが絨毯のように広がっていた。

「わぁ……!」

 アリサちゃんが思わず声を上げる。
 解毒草、解熱草、マナハーブ――今までポーション作りで使ってきた草花たちが、絨毯のように群生している。
 森の息吹そのものが、ここに凝縮されているようだった。

 ――うんうん、その反応だけで連れてきた甲斐がある。

 私はドヤりたい気持ちをぐっと抑え、優しく声をかけた。

「ここが森の奥の天然のハーブ園だよ。それじゃあ、ハーブを摘もうか」

「うん!」

 アリサちゃんが元気よく返事をし、しゃがみこんでハーブを摘み始めた。
 そのとき――

 チュンチュン、と小鳥のさえずりが近づく。
 一羽、また一羽とアリサちゃんの肩や手にとまり、彼女を囲むように集まってくる。

「わぁ……小鳥さんたち、こんにちは!」

 アリサちゃんは笑いながら小鳥たちに話しかける。
 小鳥たちは彼女の声に応えるように、嬉しそうに羽をふるわせた。
 その光景を見つめながら、私は胸の奥が少し温かくなる。

 ユニコーンが静かに見守り、小鳥たちが寄り添う。
 ――やっぱり、アリサちゃんは森に愛されている。
 私よりも、ずっと。


* * *

 ハーブを摘み終えた帰り道、私たちは精霊の泉に立ち寄った。
 ほとりで服を脱ぎ、泉の水で汗と泥にまみれた身体を流す。

「ふう、気持ちいいね」

「うん……あっ、いたっ」

「どうしたの?」

 アリサちゃんが腕を押さえて、小さく顔をしかめた。
 見ると、細い枝で引っかいたような小さな傷がある。

「いつの間に……。ちょっと待ってね」

 私はしゃがみ込み、そっと両手をかざす。
 手のひらに集まる淡い白い光が、アリサちゃんの腕を包み込む。
 光が消えるころには、傷はすっかりなくなっていた。

「ありがとう、おねーちゃん」

「どういたしまして。無理しすぎちゃだめだよ。森は優しいけど、少しだけ意地悪なときもあるからね」

「……うん、気をつける!」

 アリサちゃんの笑顔に、私もつられて微笑んだ。
 ロゼとミミィが「遊ぼう!」と声をあげ、もふぞーが尻尾をぱたぱたと揺らす。

 そのまま、私たちは水を跳ね飛ばしながら笑い合った。
 きらめく水しぶきが陽の光を反射し、まるで宝石のように瞬いている。

 ひとしきり遊んだあと、私は泉のほとりで、もふぞーと並んで腰を下ろした。
 風が森を渡り、水面がやわらかく揺れる。

 ――明日も、きっといい日になるよね。
 私はそう呟き、もふぞーの背をそっと撫でた。
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