魔女のまにまに

ゆきち

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 アルバート・ゲートがラウラの家に来るようになってから一月余り。
 ほぼ毎日来るものだから、ラウラも段々と傾向というか、習性を理解し始めた。

 まず、基本ほぼ毎日来るのだが、雨の日や雨が降りそうな日は来ない。
 理由はわからないが、来ないでもらえて非常に助かっている。
 ラウラは火属性の魔法が一番得意なのだが、その影響か雨の日は体の調子があまり良くないのだ。他人に構っている余裕がない。
 彼自身が雨が苦手な可能性もあるが興味は特にない。

 また、結構素直な性格をしているようだ。
 初めの数日はラウラの一挙手一投足全てが気になるのか、近くをウロチョロして「それは何ですか」とか「何してるんですか」とかいちいち話しかけてきたり、永遠に何かを喋っていた。
 喋っているのはまだいいが、流石にまとわりつかれるのはウザかったので少し強めにやめろと言ったら、次の時からは図鑑みたいな物を持ってきて庭の草木を観察し始めた。わからない時だけ聞くようにしたようだ。
 庭には薬草とかハーブ系、趣味の花や野菜が混ざっている。全く見分けがつかないらしい様子で、ただの花を一生懸命ハーブ図鑑で探してるのは流石にかわいそうだった。
 ラウラが見かねて一言教えてあげたら、パァッと喜色満面の笑みを浮かべられ、そんなに喜ぶものかと少々面食らった。ブンブンと振られる犬の尻尾の幻覚が見えたような気がした。

 あとは、触られたり乱暴されたり、そういったことは全くない。初めのうちは流石に警戒していたのだが、たまにじっと見つめるような視線を感じる程度だ。それも嫌な気配は全く感じないので放置している。エリュの瞳を気持ち悪くないと言ったのは本心なのかもしれない、と思い始めていた。

 そういった話を、ラウラは目の前に座る友人に話した。
 話を聞きながら、しこたま角砂糖を入れ最早砂糖汁となった紅茶を啜る彼女は、アンドレア・ドランスカー。
 帝国の国家機関所属の魔女で、通常の魔種ながらエリュの瞳に匹敵する膨大な魔力を操り、攻撃と治療の両方に秀でた強力な水魔法使いである。
 ラウラとは魔法学院で出会い、それからずっと付き合いがある。
 アンドレアがティーカップを置いて、ラウラにジト目を向けてくる。

「なによ、困ってるって言うからわざわざ話を聞きに来たのに。惚気を聞かされて一体どんな顔をすればいいわけ?」
「今の話をどう聞いたら惚気になるの??」
「ラウラは相変わらず硬派なようで絆されやすい鈍ちんねぇ」
「どういうこと?」

 アンドレアは全て知っていた。
 ラウラは面倒見が良く、頼ってくる人がいたらなんだかんだ世話してしまうことを。人との関わりが煩わしいといいながら、その実繋がりを求めていることを。ただの拗らせた寂しがり屋なのだ。
 そしてアルバートが本気でラウラに一目惚れしており、弟子うんぬんは口実でただただ会いに行ってるだけということを。強く拒否されることなく一月経って嬉しいと、何故かアンドレアに報告してくるのだ。ちなみに雨の日は避けろだの、まとわりつくな本を読めだのをアルバートに吹き込んだのはアンドレアである。

 全部知っているが、面白いのであえて何も言わない。二人の仲が上手くいったら種明かししようと考えていた。
 面白がってはいるが、ラウラに幸せを掴んでもらいたいのは本心だ。今まで散々苦労してきたのだから、幸せになる権利はあるはずだ。

「まぁ~いいんじゃない、放っておけば。実害はないんでしょ?」
「そうなんだけど……」
「なによ」
「師匠って呼ばれるのが嫌」
「あーね」

 ラウラはエリュの瞳だが魔力のコントロールは完璧だし、魔法への造詣が深く頭もいい。中退しなければ主席で卒業できただろう。その中退だって元を辿ればラウラのせいではない。
 自己評価が低いのは昔からだが、今も変わってないようだ。かと言って人に言われてどうにかなるものでもない。

「確かに、優秀なのと指導に向いてるかは別って聞くわね。あたしだって人に何か教えるのなんて、考えただけで嫌よ」
「そうでしょ」
「もう鳴き声かなんかだと思えばいいじゃないのよ。そういうふうに鳴く犬」

 酷い言い草だが、アルバートに犬の尻尾の幻覚を見た後なので妙にツボに入ってしまい、思わず笑ってしまうラウラだった。



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