魔女のまにまに

ゆきち

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5 (前半アルバート視点)

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 半月ぶりに師匠が帰ってきたと思ったら、エリュの瞳の女の子と同居を始めていた。
 軽く事情を聞き、まあ、師匠ならそういう選択をするだろうというのは想像に難くない。救いの手を差し伸べた師匠はやはり素晴らしい人物である。

 リクニスさんに起きた事は可哀想だと思うし、男達の行為は到底許されない。きちんと罰を受けるべきだ。

 それはそれとして、現在のリクニスさんの立ち位置が、私としてはとても気になるところである。

 なんというか…………非常に、弟子っぽいのである。

 日々朝から晩まで生活を共にして、手取り足取り基礎から魔法を教わっている。薬草についてもだ。

 羨ましい。とても。
 そりゃあ基礎の基礎なんて学院の最初に学ぶことだから、改めて教えてもらう必要なんてない。それはそうだ。

 私の方が先に弟子になったのに……いや、了承はもらっていないのだが、気持ちはもう弟子なのだ。
 私も一つ屋根の下で師匠から手取り足取り色々教わりたい。いやもうなんでもいいから関わりを持ちたい。

 事情が事情なので、男である私は師匠の家自体にあまり近づかない方がいいだろう。
 しかし半月も会えていなかったのだ。これ以上は師匠不足で死んでしまう。
 あれやこれやと理由を並べて切々と訴え、せめて一週間に一回程度の訪問は許して欲しい、と許可をもぎ取った。

 リクニスさんにも、師匠にしか興味がないことは紙に書いて渡してある。
 下世話な話ではあるが、リクニスさんは確かに男好きのしそうな顔と体つきだとは思う。一般的には。
 だがそういったことも含めて、私は師匠にしか興味がないのだ。師匠以外の人間は有象無象である。ぶっちゃけどうでもいい。

 喫緊の課題は、いかに師匠に会える時間とタイミングを増やすか、ただこれだけである。


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 自宅に帰って来て、ラウラのいつもの日常にリクニスへの魔法の基礎の授業が加わった。
 授業と言っても本格的なものではなく、魔法学院に入学したらまず教わる内容から始まり、魔法を扱う上で知っておかなければならない部分が中心となる。

 リクニスは今まで魔力を暴走させたことはないらしい。
 魔種であること自体はわかっていたが、村には魔種がいなかったため教えてくれる人もいなければ、魔法がどんなものなのかすらそもそも誰もわからなかったのだ。だから必要以上に怖がられて迫害を受けていた面もあった。
 そんな中で一度も魔力暴走を起こしていないのは、リクニスの魔力量がエリュの瞳にしては少なめであるからだろう。

 魔力の量は個人差が大きいもので、魔種の中でもピンキリである。もちろんエリュの瞳も同じ。
 一般的に、魔力は扱える量が多ければ多いほどコントロールが難しくなる傾向がある。
 更に魔力は感情の揺らぎに非常に敏感であると言われており、激しい感情の中ではコントロールの難易度が跳ね上がる。魔術学院ではまず初めに「魔種は常に冷静たれ」と教えられるほどだ。

 エリュの瞳による魔力暴走事件が多いのは、ひとえに魔力量が飛び抜けて多いためである。
 更には、その希少性や魔力量への嫉妬と畏怖から来る様々な視線や言動に晒されやすく、感情を揺さぶられやすい傾向にあるのだ。

 現に、リクニスは魔力暴走を起こしかけている。
 暴走は本人には止めることができないが、今回のように感情の揺らぎを和らげる第三者がいれば事なきを得ることは可能なのだ。
 しかし常に第三者がいるとは限らないため、今後のことを考えてまずは自分の魔力について深く理解することが大切なのである。
 知ることで自身の状態を冷静に観察しやすくなる。知識のあるなしは、特にエリュの瞳にとって生きる難易度に大きく影響を及ぼすのだ。

 ラウラは自分が感じてきた生きづらさを、リクニスにはこれ以上感じて欲しくないと思っていた。
 マントに包まれて震えていた姿が、幼い頃の自分と重なって見えた。あの時に自分が受けた恩を、同じように繋いでいきたいと思ったのだ。


 リクニスに落ち着いた環境を提供する上で懸念していたアルバートの存在は、本人からの申し出により解決した。
 正直、少なからず知り合いとしての情が湧いていたため、ラウラからはなんとなく言い出しにくかったのだ。自発的に言ってもらえて内心ホッとしていた。
 誠実であることは二月の間によくわかったため、リクニスに害になることはしないだろう。トラウマの克服の一助にもなるかもしれない。ラウラはそう考えていた。

 状況を見て心配りや配慮をするのは、言うは易いが、行うは難いものだ。それをして見せたアルバートは、例えどんな思惑があったとしても、図らずともラウラに好印象を与えていたのだった。



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