異世界犯罪対策課

河野守

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第一章 女子高生行方不明事件

第二十六話

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 沖田から話を聞いた明善達はすぐに署に戻った。戻った時には正午を過ぎており、署の警官達は昼食を食べに外出している。明善達は構わずその足で署長室へ。
「ど、どうしたいんだい、いきなり?」
 三人が勢いよく入室すると、出前の蕎麦に舌鼓を打っていた大柳署長は、目を丸くしていた。
 警察署の署長というと、どのような人物をイメージするだろう。現場で様々な事件・事故を担当し、大勢の犯人を検挙してきた歴戦の警察官。その地域の警察のトップであり、各課の警察官達を束ねるカリスマ。文武両道で優秀な警察官の鏡。きっと多くの人がそのような人物を想像するだろう。
 だが、この署長、大柳倫太郎は違う。非常に温厚な人物であり、明善も怒ったところは見たことがない。常に笑みを浮かべている、一見だたのお腹が出ている中年のおじさんだ。だが、決して単なる神輿ではない。彼の特筆すべきはバランス感覚と、気遣いである。サイバー犯罪対策課の相山や、地域課の益子ますこなどこの署にはクセが強い警官が何人もいる。大柳は彼らが最大限能力が発揮できるように場を整え、かつ他の警官達と軋轢を産まないように配慮している。
 落合は大柳に詰め寄る。
「署長、リベレーションのことですが」
「ああ、聞いているよ。最近、東京で出回り始めているとんでもない薬物で、異世界で製造されているって。君ら異犯対が捜査を担当しているんだろう」
「はい。そのことについてお話しが」
 落合は今までの出来事を簡潔に説明。我妻和奏という女子高生が行方不明であること。今朝、暴行事件を起こした男性がリベレーションを服用していたこと。取引場所を見つけ、そこに我妻がいるかもしれないこと。早く手を打たなければ、我妻が向こう側に連れて行かれ、ここら辺の地域一帯にリベレーションが蔓延するかもしれないこと。
 大柳は箸を置き、落合の話を黙って聞いていた。
 腕を組み目を瞑って黙考。異犯対の面々は黙って、大柳の判断を待つ。署長室は静寂に包まれ、外から子供の声や車の走行音が聞こえてくる。
 二、三分ほど考えた後、大柳は目をゆっくりと開けた。
「君達の言いたいことはわかった。……我々須賀川署は全力を挙げて、今回の件に当たる。君達は他の課への説明のため、資料を作ってくれないか。凝ったモノでなくていい。速さを最優先に。資料が出来次第、打ち合わせを行う」
「はい。承知致しました」
「取引場所には数日中にガサ入れに入る。そのつもりでいてね」
 明善達三人は署長に礼をし、部屋を出ていった。
 落合は明善と愛美に振り向く。
「谷家はメシを買ってきてくれ。できるだけ精がつくやつ。あとエナジードリンクも。俺と暁は署長に指示された資料作りだ」
「おっす!」
「わかりました」
 愛美は落合から万札を受け取り、昼食を買うため署の外へ。落合と明善は三階の異犯対の部屋に戻り、各部署への資料作りに手をつけた。
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