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第1章 変人の幼馴染
第6話
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明里と萌絵は時間が来るまで歌い続けた。途中で烈も今井も二人に誘われ、無理やり歌うことに。特に烈の場合は明里と萌絵それぞれと一緒にラブソングを歌わされ、恥ずかしかった。
部屋を出る際、明里と今井はトイレに行きたいと言ったので、烈と萌絵は先に店を出て外で待つことに。
「いやー、いっぱい歌ったね。汗かいちゃった」
萌絵はハンカチで汗を拭いながら、襟首を引っ張って扇ぐ。
「暑いなら、袖を捲ればいいだろ」
最近は地球温暖化の影響で、初夏でも日中は気温が高い。これまでは六月になると学校の指示で一斉に夏服へと衣替えをしていたが、ここ数年は指示をやめる学校が増えてきた。烈の高校も同じであり、生徒はその日によって着る制服を選ぶことができる。暑がりの烈はすでにワイシャツを半袖に変えていた。一方の萌絵は今日も夏日だというのに、長袖のワイシャツを着ている。烈は彼女が半袖になった姿を見たことがない。
萌絵は目を泳がせながら、「あー……」と言葉を少し詰まらせる。
「私、皮膚が弱いんだよね。長袖なのは日焼けをしないため。……あ! 烈くん、私の二の腕が見たいの? この変態! スケベ! スケコマシ!」
「ちげーよ!」
萌絵は店に面する通りに視線を移す。
「そういえばさ、最近警察とかよく見えるよね」
萌絵の言う通り、制服姿の警察官やパトロール中と書かれた腕章をつけた大人達がちらほらと目に入る。
「この県で色々事件が起きてるからな。青薔薇の貴公子事件とか、男を狙った連続暴行事件とか」
どちらの事件も最近のこの地域で起きているもの。青薔薇の貴公子事件は女性を狙った殺人事件。一方の連続暴行事件は烈もよく知らないが、男性をターゲットした暴漢による傷害事件らしい。
「烈くん、気をつけなよ。もしかしたら、それらの事件に巻き込まれるかもしれないから」
「それは勘弁願いたいな。マジで」
萌絵は下から烈を覗き込む。
「……ねえ、烈くんはパパ活ってどう思う?」
「まあ、やっぱり良い印象はないな。今回みたいにトラブルの元になるし」
しょっちゅう事件に巻き込まれる烈にとって、自らリスクのある事をするのは理解できない。少しでも危険性があるならやるべきではない。それが安全で賢い生き方というものだ。
「そうだよね……。普通はそうだよね……」
萌絵はそう呟きながら目を伏せる。烈は彼女の表情が少し暗いことが気になったが、明里達が店から出てきたのでそちらに意識を向けた。
「待たせてすまない。お手洗いが混んでいてね。暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
烈達四人は適当に雑談をしながら、それぞれの自宅に帰った。
烈の出番はすぐに訪れた。カラオケ店で打ち合わせをした昨日の夜、明里からメールが届いた。今井が例のストーカー男と連絡を取り、今日の夕方に会う約束を取り付けたそうだ。
烈は放課後になると、一度帰宅し私服に着替える。通っている学校が相手にバレないようにという、明里の指示だ。
「あれ、烈どこかに出かけるの?」
「ダチに遊びに誘われた。帰りが少し遅くなるかもしれない」
パートから戻っていた母親に適当な嘘をつき、家を出て繁華街へと向かう。途中で萌絵と偶然合流し、二人で裏路地へ。建物の物陰にいた明里を見つけ烈が声をかけると、明里は「」「しー」と口元に指を当てる。
「今井さんが相手の男性と会っている。バレないように気をつけてくれ。あ、花咲さんも来たんだね。今日は無理に参加しなくてもいいとメールには書いたんだが」
「私の友達を傷つける奴に、一発ビンタをお見舞いしてやろうと思ってね。それで相手は……」
烈も萌絵と同じく物陰から慎重に顔を出し、相手の男に視線を向ける。
男は二十代から三十代前半の若い青年であり、怪我なのか、右頬にガーゼを張っている。顔の作りは大人しそう相貌だが、今は怒りで歪んでいた。今井の表情は烈達からは見えないが、身体が恐怖で小刻みに震えているのが見て取れる。時折通行人が横を通るが、今井達の方には目を向けず、無言で歩き去る。
「……え……あの人は……」
萌絵の呟きに烈が振り向くと、彼女は顔を青くして自身の腕を抱いていた。荒く小刻みな呼吸を繰り返しており、尋常な様子ではない。明里も萌絵の様子がおかしいことに気がつき、「大丈夫かい?」と心配そうに声をかける。
「うん。大丈夫。威勢の良いこと言ったけど、ごめん、無理。別の場所で待っていていい?」
おそらく萌絵は男の怒り狂う姿を見て、恐怖を覚えたのだろう。そう考えた烈は「気にするな」と慰める。
「それじゃ、烈くん達気をつけてね。終わったら連絡して」
そう言い残し、萌絵はその場を足早に立ち去った。
「あいつ、大丈夫か?」
「花咲さんの様子は気になるが、今井さんの方もそろそろ助けないと」
長時間、男に怒鳴られている今井は烈達に助けを求めるように、周りに縋るような視線を向けている。遠目からでも彼女が限界であることが分かった。
烈は明里と共に今井達の方へと歩き、ドスの効いた低い声で「おい!」と声をかける。男は烈達の登場にたじろぐも、「や、やっぱり!」と声を上げた。
「ほら、やっぱりだ。お前も俺を騙して、男を使って金を奪うつもりなんだろ!」
男はよくわからない発言をするが、烈が睨むと黙りこんだ。
「まあまあ、落ち着いてください。あなたは何か勘違いをしているようだ」
明里は男を宥めながら話をする。自分達は今井の友人であること、今井は男の付き纏いに迷惑しており、辞めさせたいだけだということ。
明里の話術は巧みであり、男は少しずつ冷静になっていく。
「そうそう、聞くのが遅くなりましたが、あなたのお名前は?」
柔和な笑みを浮かべながらも圧を発する明里に押され、男は「……久我晴雄」と名乗った。
「久我さん、我々はあなたのこれまでの行いを全て記録しています。あなた、社会人ですよね? 警察や会社に知られて大事になるのは避けたいのでは?」
明里は警察をちらつかせる。もちろん、明里に今回の件を通報するつもりはない。大事になって困るのは今井の方も同じだから。これはあくまでハッタリ。だが、冷静になった今の久我には効果が抜群。今の自分は社会的に不味い状況にあるとようやく自覚し、冷や汗を垂らす。
「今井さんにこれ以上付き纏わないと、この場で誓約書に署名してください。あと、あなたの連絡先と勤め先の名前も。よろしいですね?」
「わかったよ。署名すればいいんだろ!」
久我は誓約書と連絡先を書き殴り、明里に渡す。
「はい、ありがとうございます。それともう一つ」
「まだ何かあるのか?」
「私のちょっとした個人的な質問です」
明里は爛爛と好奇心に目を輝かせる。烈はまた悪い癖が出たなと呆れ顔。
「何故、久我さんは今井さんに執着していたのでしょうか? 彼女が何か気に触ることをしたのでしょうか? ここまで攻撃をしていたんだ、相応の何かがあったんでしょう?」
「……いや、彼女じゃない。別の人間だ」
「ほう、どういうことでしょうか? 具体的には?」
「聞いてどうするんだ?」
「純粋な好奇心です」
「……君は変な子だな」
烈も同感である。
「……まあ、別に教えてもいい。どうせ断ったら、俺の個人情報を盾に脅すんだろ?」
否定せず笑みを浮かべる明里。久我は自分の頬のガーゼを触り、「美人局だよ」と答える。
「一週間ほど前にマッチングアプリで女の子と待ち合わせをしたら、そこに夫を名乗る男が来て因縁をつけられたんだよ。その夫に殴られて財布の金を全て取られた」
美人局とは女性を使い、男性から金品を奪い取る行為。最近はマッチングアプリを使った犯行も増えており、久我も引っかかってしまったようだ。
「警察には通報しなかったのか?」
烈の疑問に、久我は「出来るわけないだろ」と苛立たしげに返す。
「もし、職場に知られたらいい笑い者だ。だから、恥ずかしくて警察に言わなかったんだ」
「あんたが美人局に遭ったことはわかった。それで何故今井を攻撃することになる?」
「……憂さ晴らしだ。美人局に遭った鬱憤を他の女の子で晴らそうとしたんだよ。その子をマッチングアプリで呼び出したのは、気弱そうで攻撃しても反撃されないと思ったから」
「はあ?」
烈達は久我に軽蔑の視線を向ける。その視線に耐えられず久我は「もういいだろ!」と逃げるように立ち去った。
「さて、これで区切りはついたね。この誓約書と久我さんの連絡先は今井さんが持っていなさい。また彼から攻撃されたら使うように。ボクの方でも念の為写真として保存しておく」
明里は自分のスマートフォンで誓約書等を撮影した後、今井に渡す。
「明日見さんも剛村くんもありがとう。これで安心できるよ」
「これに懲りたらマッチングアプリはやめろよ」
烈は萌絵に連絡を入れようとしたが、それよりも早く本人が駆けつけてきた。
「烈くん。カフェにいたらあの男の人が去っていくのが見えたんだけど、終わったの?」
「ああ。一応はな。花咲は体調大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
「ならよかった。さて、帰るとしますかね」
烈達は裏通りから出て途中まで一緒に四人で帰ることに。
女子の会話に混じれず、烈が三人の後ろを歩いていると萌絵が横に並んできた。
「烈くんは普段事件に巻き込まれたくないって言ってるけど、今回今井さんを助けてあげたよね。私の時もそうだった」
「花咲の時?」
「ほら、去年の大晦日に私のことを助けてくれたでしょ。私、クラスの忘年会に参加してその帰りに酔っ払いに絡まれて、そこに烈くんが来て酔っ払いを追い払った」
「すまん、覚えてない。色々な事件に遭うから、一つの事件を細かく記憶してないんだよ」
「えー、ひどーい! 私は烈くんと同じクラスになった時、すごく嬉しかったのに!」
萌絵は拗ねたように頬を膨らませるが、すぐに吹き出して笑う。
「私の件も今井さんの件も、烈くんは距離を置こうと思えば置けたでしょ。それなのに、なんで自分から関わったの? 助けたの?」
「確かに面倒ごとは嫌だ。だけど、困っている人間を見捨てるなんて薄情だろ」
その言葉を聞いた萌絵はニンマリと笑う。
「烈くんは優しいね。烈くんの優しくて正義感の強いとこ、大好き!」
冗談を言う萌絵は自身の顔から笑顔を消し、神妙な表情に変える。
「もし、もしもだよ。加害者側にも理由があったらどうする? さっき明日見さんから聞いたけど、今井さんの件は美人局が遠因だったんだよね。美人局は相手からお金を奪うことだけど、もしかしたら何か理由があったんじゃないかな? やむを得ない理由があっても、烈くんは相手を止めるの?」
随分と加害者の肩を持つんだなと思いながら、烈は「止める」と即答。
「美人局をした人間達は金に困っていたかもしれない。だけど、どんな理由があろうと、他人を傷つける理由にはならない。犯罪で手っ取り早く目的を達成しようとするのは、逃げだ。努力せず、楽をしたいという逃げ。俺はそんな逃げを許さない。加害者も現状と戦わないと、いつまで経っても変われない」
「……烈くんは本当に強いな。私も烈くんの強さを見習わないとな」
萌絵は少しの間俯いていたが、「よし、決めた! 私も戦う!」と何かが吹っ切れたように顔を勢いよく上げた。
「あ、私こっちだから。ここでお別れ。烈くん、明日見さん、今井さん、また明日ね!」
萌絵は手を振りながら、烈達と別れていった。
あれ、あいつの家ってあっちの方向だったか?
小さな疑問が烈の胸中に生まれるが、大して気にすることじゃないとすぐに霧散する。
少し歩いたところで今井とも別れ、烈と明里は並んで自宅へと向かった。
部屋を出る際、明里と今井はトイレに行きたいと言ったので、烈と萌絵は先に店を出て外で待つことに。
「いやー、いっぱい歌ったね。汗かいちゃった」
萌絵はハンカチで汗を拭いながら、襟首を引っ張って扇ぐ。
「暑いなら、袖を捲ればいいだろ」
最近は地球温暖化の影響で、初夏でも日中は気温が高い。これまでは六月になると学校の指示で一斉に夏服へと衣替えをしていたが、ここ数年は指示をやめる学校が増えてきた。烈の高校も同じであり、生徒はその日によって着る制服を選ぶことができる。暑がりの烈はすでにワイシャツを半袖に変えていた。一方の萌絵は今日も夏日だというのに、長袖のワイシャツを着ている。烈は彼女が半袖になった姿を見たことがない。
萌絵は目を泳がせながら、「あー……」と言葉を少し詰まらせる。
「私、皮膚が弱いんだよね。長袖なのは日焼けをしないため。……あ! 烈くん、私の二の腕が見たいの? この変態! スケベ! スケコマシ!」
「ちげーよ!」
萌絵は店に面する通りに視線を移す。
「そういえばさ、最近警察とかよく見えるよね」
萌絵の言う通り、制服姿の警察官やパトロール中と書かれた腕章をつけた大人達がちらほらと目に入る。
「この県で色々事件が起きてるからな。青薔薇の貴公子事件とか、男を狙った連続暴行事件とか」
どちらの事件も最近のこの地域で起きているもの。青薔薇の貴公子事件は女性を狙った殺人事件。一方の連続暴行事件は烈もよく知らないが、男性をターゲットした暴漢による傷害事件らしい。
「烈くん、気をつけなよ。もしかしたら、それらの事件に巻き込まれるかもしれないから」
「それは勘弁願いたいな。マジで」
萌絵は下から烈を覗き込む。
「……ねえ、烈くんはパパ活ってどう思う?」
「まあ、やっぱり良い印象はないな。今回みたいにトラブルの元になるし」
しょっちゅう事件に巻き込まれる烈にとって、自らリスクのある事をするのは理解できない。少しでも危険性があるならやるべきではない。それが安全で賢い生き方というものだ。
「そうだよね……。普通はそうだよね……」
萌絵はそう呟きながら目を伏せる。烈は彼女の表情が少し暗いことが気になったが、明里達が店から出てきたのでそちらに意識を向けた。
「待たせてすまない。お手洗いが混んでいてね。暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
烈達四人は適当に雑談をしながら、それぞれの自宅に帰った。
烈の出番はすぐに訪れた。カラオケ店で打ち合わせをした昨日の夜、明里からメールが届いた。今井が例のストーカー男と連絡を取り、今日の夕方に会う約束を取り付けたそうだ。
烈は放課後になると、一度帰宅し私服に着替える。通っている学校が相手にバレないようにという、明里の指示だ。
「あれ、烈どこかに出かけるの?」
「ダチに遊びに誘われた。帰りが少し遅くなるかもしれない」
パートから戻っていた母親に適当な嘘をつき、家を出て繁華街へと向かう。途中で萌絵と偶然合流し、二人で裏路地へ。建物の物陰にいた明里を見つけ烈が声をかけると、明里は「」「しー」と口元に指を当てる。
「今井さんが相手の男性と会っている。バレないように気をつけてくれ。あ、花咲さんも来たんだね。今日は無理に参加しなくてもいいとメールには書いたんだが」
「私の友達を傷つける奴に、一発ビンタをお見舞いしてやろうと思ってね。それで相手は……」
烈も萌絵と同じく物陰から慎重に顔を出し、相手の男に視線を向ける。
男は二十代から三十代前半の若い青年であり、怪我なのか、右頬にガーゼを張っている。顔の作りは大人しそう相貌だが、今は怒りで歪んでいた。今井の表情は烈達からは見えないが、身体が恐怖で小刻みに震えているのが見て取れる。時折通行人が横を通るが、今井達の方には目を向けず、無言で歩き去る。
「……え……あの人は……」
萌絵の呟きに烈が振り向くと、彼女は顔を青くして自身の腕を抱いていた。荒く小刻みな呼吸を繰り返しており、尋常な様子ではない。明里も萌絵の様子がおかしいことに気がつき、「大丈夫かい?」と心配そうに声をかける。
「うん。大丈夫。威勢の良いこと言ったけど、ごめん、無理。別の場所で待っていていい?」
おそらく萌絵は男の怒り狂う姿を見て、恐怖を覚えたのだろう。そう考えた烈は「気にするな」と慰める。
「それじゃ、烈くん達気をつけてね。終わったら連絡して」
そう言い残し、萌絵はその場を足早に立ち去った。
「あいつ、大丈夫か?」
「花咲さんの様子は気になるが、今井さんの方もそろそろ助けないと」
長時間、男に怒鳴られている今井は烈達に助けを求めるように、周りに縋るような視線を向けている。遠目からでも彼女が限界であることが分かった。
烈は明里と共に今井達の方へと歩き、ドスの効いた低い声で「おい!」と声をかける。男は烈達の登場にたじろぐも、「や、やっぱり!」と声を上げた。
「ほら、やっぱりだ。お前も俺を騙して、男を使って金を奪うつもりなんだろ!」
男はよくわからない発言をするが、烈が睨むと黙りこんだ。
「まあまあ、落ち着いてください。あなたは何か勘違いをしているようだ」
明里は男を宥めながら話をする。自分達は今井の友人であること、今井は男の付き纏いに迷惑しており、辞めさせたいだけだということ。
明里の話術は巧みであり、男は少しずつ冷静になっていく。
「そうそう、聞くのが遅くなりましたが、あなたのお名前は?」
柔和な笑みを浮かべながらも圧を発する明里に押され、男は「……久我晴雄」と名乗った。
「久我さん、我々はあなたのこれまでの行いを全て記録しています。あなた、社会人ですよね? 警察や会社に知られて大事になるのは避けたいのでは?」
明里は警察をちらつかせる。もちろん、明里に今回の件を通報するつもりはない。大事になって困るのは今井の方も同じだから。これはあくまでハッタリ。だが、冷静になった今の久我には効果が抜群。今の自分は社会的に不味い状況にあるとようやく自覚し、冷や汗を垂らす。
「今井さんにこれ以上付き纏わないと、この場で誓約書に署名してください。あと、あなたの連絡先と勤め先の名前も。よろしいですね?」
「わかったよ。署名すればいいんだろ!」
久我は誓約書と連絡先を書き殴り、明里に渡す。
「はい、ありがとうございます。それともう一つ」
「まだ何かあるのか?」
「私のちょっとした個人的な質問です」
明里は爛爛と好奇心に目を輝かせる。烈はまた悪い癖が出たなと呆れ顔。
「何故、久我さんは今井さんに執着していたのでしょうか? 彼女が何か気に触ることをしたのでしょうか? ここまで攻撃をしていたんだ、相応の何かがあったんでしょう?」
「……いや、彼女じゃない。別の人間だ」
「ほう、どういうことでしょうか? 具体的には?」
「聞いてどうするんだ?」
「純粋な好奇心です」
「……君は変な子だな」
烈も同感である。
「……まあ、別に教えてもいい。どうせ断ったら、俺の個人情報を盾に脅すんだろ?」
否定せず笑みを浮かべる明里。久我は自分の頬のガーゼを触り、「美人局だよ」と答える。
「一週間ほど前にマッチングアプリで女の子と待ち合わせをしたら、そこに夫を名乗る男が来て因縁をつけられたんだよ。その夫に殴られて財布の金を全て取られた」
美人局とは女性を使い、男性から金品を奪い取る行為。最近はマッチングアプリを使った犯行も増えており、久我も引っかかってしまったようだ。
「警察には通報しなかったのか?」
烈の疑問に、久我は「出来るわけないだろ」と苛立たしげに返す。
「もし、職場に知られたらいい笑い者だ。だから、恥ずかしくて警察に言わなかったんだ」
「あんたが美人局に遭ったことはわかった。それで何故今井を攻撃することになる?」
「……憂さ晴らしだ。美人局に遭った鬱憤を他の女の子で晴らそうとしたんだよ。その子をマッチングアプリで呼び出したのは、気弱そうで攻撃しても反撃されないと思ったから」
「はあ?」
烈達は久我に軽蔑の視線を向ける。その視線に耐えられず久我は「もういいだろ!」と逃げるように立ち去った。
「さて、これで区切りはついたね。この誓約書と久我さんの連絡先は今井さんが持っていなさい。また彼から攻撃されたら使うように。ボクの方でも念の為写真として保存しておく」
明里は自分のスマートフォンで誓約書等を撮影した後、今井に渡す。
「明日見さんも剛村くんもありがとう。これで安心できるよ」
「これに懲りたらマッチングアプリはやめろよ」
烈は萌絵に連絡を入れようとしたが、それよりも早く本人が駆けつけてきた。
「烈くん。カフェにいたらあの男の人が去っていくのが見えたんだけど、終わったの?」
「ああ。一応はな。花咲は体調大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
「ならよかった。さて、帰るとしますかね」
烈達は裏通りから出て途中まで一緒に四人で帰ることに。
女子の会話に混じれず、烈が三人の後ろを歩いていると萌絵が横に並んできた。
「烈くんは普段事件に巻き込まれたくないって言ってるけど、今回今井さんを助けてあげたよね。私の時もそうだった」
「花咲の時?」
「ほら、去年の大晦日に私のことを助けてくれたでしょ。私、クラスの忘年会に参加してその帰りに酔っ払いに絡まれて、そこに烈くんが来て酔っ払いを追い払った」
「すまん、覚えてない。色々な事件に遭うから、一つの事件を細かく記憶してないんだよ」
「えー、ひどーい! 私は烈くんと同じクラスになった時、すごく嬉しかったのに!」
萌絵は拗ねたように頬を膨らませるが、すぐに吹き出して笑う。
「私の件も今井さんの件も、烈くんは距離を置こうと思えば置けたでしょ。それなのに、なんで自分から関わったの? 助けたの?」
「確かに面倒ごとは嫌だ。だけど、困っている人間を見捨てるなんて薄情だろ」
その言葉を聞いた萌絵はニンマリと笑う。
「烈くんは優しいね。烈くんの優しくて正義感の強いとこ、大好き!」
冗談を言う萌絵は自身の顔から笑顔を消し、神妙な表情に変える。
「もし、もしもだよ。加害者側にも理由があったらどうする? さっき明日見さんから聞いたけど、今井さんの件は美人局が遠因だったんだよね。美人局は相手からお金を奪うことだけど、もしかしたら何か理由があったんじゃないかな? やむを得ない理由があっても、烈くんは相手を止めるの?」
随分と加害者の肩を持つんだなと思いながら、烈は「止める」と即答。
「美人局をした人間達は金に困っていたかもしれない。だけど、どんな理由があろうと、他人を傷つける理由にはならない。犯罪で手っ取り早く目的を達成しようとするのは、逃げだ。努力せず、楽をしたいという逃げ。俺はそんな逃げを許さない。加害者も現状と戦わないと、いつまで経っても変われない」
「……烈くんは本当に強いな。私も烈くんの強さを見習わないとな」
萌絵は少しの間俯いていたが、「よし、決めた! 私も戦う!」と何かが吹っ切れたように顔を勢いよく上げた。
「あ、私こっちだから。ここでお別れ。烈くん、明日見さん、今井さん、また明日ね!」
萌絵は手を振りながら、烈達と別れていった。
あれ、あいつの家ってあっちの方向だったか?
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