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第2章 二人で仇を討とう
第2話
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翌日の朝、烈はだいぶ遅くに起きる。
遅刻だと半ば諦めながら一階のリビングに降りると、テーブルの上に母親の書き置きがあった。書き置きには、母が保護者説明会のために学校に行くこと、今日は休校であることが端的に書かれていた。
「保護者説明会? なんかあったのか?」
書き置きを読んだ後、洗面所で洗顔。鏡を見ると目の下のクマが濃いことに気づき、「はは、ひでー顔だな」と自嘲気味に笑う。
タオルで濡れた顔を拭いた後、リビングへ戻り冷蔵庫に入った朝食をレンジで温める。温めが終わるまでテーブルに置いてあった新聞紙を読もうと、手を伸ばそうとした。だが、何故か読むことを躊躇い、テーブルの上を滑らせて遠ざける。次にスマートフォンで暇を潰そうとしたが、それも急に気分が重くなりやめた。
電子音が鳴り、少し加熱しすぎた朝食を黙々と口に運ぶ。食べ終わった食器をキッチンの流し台に置き、何もやることがないのでテレビを点けようとする。
だが、指が上手く動かない。リモコンの電源ボタンを押そうとしない。まるで何か知ることを拒絶しているように。震える指でようやく電源ボタンを押すと、テレビの電源が入りニュース番組が映る。女子アナウンサーが原稿を読み上げている最中だった。
「私は今、事件の被害者である花咲萌絵さんが通っていた高校の前にいます。本日は休校となっており、学校の体育館では現在保護者説明が開かれています」
「……やっぱり、夢じゃなかったのか……」
烈は深く項垂れる。
萌絵が死んだことは信じたくなかった。何かの悪い夢だと思っていた。新聞やスマートフォンを無意識に避けたのは、現実を直視したくなかったため。だが、テレビの映像が昨日のことは紛れも無い現実なのだと、冷酷に突きつける。
烈の目から涙は出ない。小さい頃に事故に遭った遠い親戚の葬式に参加したが、その時遺族の家族は泣いていなかった。だから、人の死はそこまで悲しくないのでは当時は感じた。だが、違ったのだと今なら理解できる。近しい人間が死んで悲しく、心の整理が出来ない時は涙すら出ないのだ。涙を出すと、その人の死を認めたことになる。
烈は何をすべきなのか分からず、しばらくの間テーブルに座っていた。
インターホンが鳴り、烈は玄関へと向かう。
なんでもいい。とにかく体を動かし、何も考えないようにしたい。
玄関の扉を開けると明里がいた。
「烈くん、今いいかい? 話をしたい」
「ああ。大丈夫だ。入ってくれ」
明里をリビングに通し、ミルクが入ったコーヒーを二人分淹れてテーブルの上に置く。テーブルを挟んで座った烈を、明里は心配そうに覗き込む。
「昨日は眠れ……ていないね。その様子だと」
「まあな……。それで話したいことってなんだ?」
「単刀直入に言おう。ボクと一緒に今回の事件を捜査して、花咲さんを殺害した犯人を突き止めよう」
烈はすぐに返答せず、コーヒーを一口。少し間を置き、烈の口から「……ははは……」と低い笑い声が漏れる。
「捜査? 犯人を捕まえる? そうか、そうか……。ふざけんじゃねぇぇぇ!」
烈は家中に響く大声を発し、両手の拳をテーブルに叩きつける。その衝撃で、明里のカップからコーヒーがこぼれ落ちる。彼女は冷静にティッシュで拭き取った。
「捜査ってなんだ? また、いつものか? お前の退屈を紛らわせるための? 事件はお前の娯楽じゃないんだよ!」
明里は怯えることなく、烈の目を真っ直ぐ見返す。
「そう、思っているのか? 君はボクが事件を、友人の死を娯楽として消費する人でなしと思っているのか?」
いいや、違う。そんなことはない。明里は確かに事件事故に強い興味を持つが、被害者を蔑ろになど絶対にしない。そのことは、近くで見てきた烈がよく分かっている。
「……すまん、言い過ぎた」
「気にしないで。友人が殺されたんだ、冷静でいられる方がおかしい」
幼馴染から優しい言葉をかけられた烈は、俯きながらぽつりぽつりと話し始める。
「事件があったあの日、花咲から電話が来てたんだよ。だけど、俺風呂入ってて、気づかなかった。あいつ、きっと俺に助けを求めていたんだ。もし、俺があの時電話に出ていれば……」
「それで花咲さんが助かったとは限らないだろう」
「ああ。それは警察にも言われた。もし俺が気づいて駆けつけても、恐らく間に合わなかった可能性が高いと。だけど、だけどさあ、やっぱり考えちまうんだよ。俺が助けられたんじゃないかって」
「烈くん、たられば論を言っても意味はない。過去は変わらない」
「分かってるんだけどさあ……!」
烈の頬に柔らかい感触。明里が烈の顔を両手で包み、ゆっくりと烈の顔を上げらせる。
「ボクは、ボクの大切な友人を殺した犯人を許せない。烈くんはどうだ?」
犯人に対してどういう感情を持っているか。分りきっていることだ。
「……俺もだ。俺も犯人が許せない」
「今ものうのうと生きている犯人が憎い?」
「憎い。憎くて仕方がない」
明里は両手を烈の顔から離し、右手を差し出してきた。
「だったら、ボク達で捕まえよう。犯人を捕まえて、花咲さんの仇を討とうじゃないか」
「ああ!」
烈は即答し、明里の手を握り返す。
警察が未だに捕まえられない相手? 手強い? 関係ない。必ず捕まえて自分の罪を償わせてやる。
遅刻だと半ば諦めながら一階のリビングに降りると、テーブルの上に母親の書き置きがあった。書き置きには、母が保護者説明会のために学校に行くこと、今日は休校であることが端的に書かれていた。
「保護者説明会? なんかあったのか?」
書き置きを読んだ後、洗面所で洗顔。鏡を見ると目の下のクマが濃いことに気づき、「はは、ひでー顔だな」と自嘲気味に笑う。
タオルで濡れた顔を拭いた後、リビングへ戻り冷蔵庫に入った朝食をレンジで温める。温めが終わるまでテーブルに置いてあった新聞紙を読もうと、手を伸ばそうとした。だが、何故か読むことを躊躇い、テーブルの上を滑らせて遠ざける。次にスマートフォンで暇を潰そうとしたが、それも急に気分が重くなりやめた。
電子音が鳴り、少し加熱しすぎた朝食を黙々と口に運ぶ。食べ終わった食器をキッチンの流し台に置き、何もやることがないのでテレビを点けようとする。
だが、指が上手く動かない。リモコンの電源ボタンを押そうとしない。まるで何か知ることを拒絶しているように。震える指でようやく電源ボタンを押すと、テレビの電源が入りニュース番組が映る。女子アナウンサーが原稿を読み上げている最中だった。
「私は今、事件の被害者である花咲萌絵さんが通っていた高校の前にいます。本日は休校となっており、学校の体育館では現在保護者説明が開かれています」
「……やっぱり、夢じゃなかったのか……」
烈は深く項垂れる。
萌絵が死んだことは信じたくなかった。何かの悪い夢だと思っていた。新聞やスマートフォンを無意識に避けたのは、現実を直視したくなかったため。だが、テレビの映像が昨日のことは紛れも無い現実なのだと、冷酷に突きつける。
烈の目から涙は出ない。小さい頃に事故に遭った遠い親戚の葬式に参加したが、その時遺族の家族は泣いていなかった。だから、人の死はそこまで悲しくないのでは当時は感じた。だが、違ったのだと今なら理解できる。近しい人間が死んで悲しく、心の整理が出来ない時は涙すら出ないのだ。涙を出すと、その人の死を認めたことになる。
烈は何をすべきなのか分からず、しばらくの間テーブルに座っていた。
インターホンが鳴り、烈は玄関へと向かう。
なんでもいい。とにかく体を動かし、何も考えないようにしたい。
玄関の扉を開けると明里がいた。
「烈くん、今いいかい? 話をしたい」
「ああ。大丈夫だ。入ってくれ」
明里をリビングに通し、ミルクが入ったコーヒーを二人分淹れてテーブルの上に置く。テーブルを挟んで座った烈を、明里は心配そうに覗き込む。
「昨日は眠れ……ていないね。その様子だと」
「まあな……。それで話したいことってなんだ?」
「単刀直入に言おう。ボクと一緒に今回の事件を捜査して、花咲さんを殺害した犯人を突き止めよう」
烈はすぐに返答せず、コーヒーを一口。少し間を置き、烈の口から「……ははは……」と低い笑い声が漏れる。
「捜査? 犯人を捕まえる? そうか、そうか……。ふざけんじゃねぇぇぇ!」
烈は家中に響く大声を発し、両手の拳をテーブルに叩きつける。その衝撃で、明里のカップからコーヒーがこぼれ落ちる。彼女は冷静にティッシュで拭き取った。
「捜査ってなんだ? また、いつものか? お前の退屈を紛らわせるための? 事件はお前の娯楽じゃないんだよ!」
明里は怯えることなく、烈の目を真っ直ぐ見返す。
「そう、思っているのか? 君はボクが事件を、友人の死を娯楽として消費する人でなしと思っているのか?」
いいや、違う。そんなことはない。明里は確かに事件事故に強い興味を持つが、被害者を蔑ろになど絶対にしない。そのことは、近くで見てきた烈がよく分かっている。
「……すまん、言い過ぎた」
「気にしないで。友人が殺されたんだ、冷静でいられる方がおかしい」
幼馴染から優しい言葉をかけられた烈は、俯きながらぽつりぽつりと話し始める。
「事件があったあの日、花咲から電話が来てたんだよ。だけど、俺風呂入ってて、気づかなかった。あいつ、きっと俺に助けを求めていたんだ。もし、俺があの時電話に出ていれば……」
「それで花咲さんが助かったとは限らないだろう」
「ああ。それは警察にも言われた。もし俺が気づいて駆けつけても、恐らく間に合わなかった可能性が高いと。だけど、だけどさあ、やっぱり考えちまうんだよ。俺が助けられたんじゃないかって」
「烈くん、たられば論を言っても意味はない。過去は変わらない」
「分かってるんだけどさあ……!」
烈の頬に柔らかい感触。明里が烈の顔を両手で包み、ゆっくりと烈の顔を上げらせる。
「ボクは、ボクの大切な友人を殺した犯人を許せない。烈くんはどうだ?」
犯人に対してどういう感情を持っているか。分りきっていることだ。
「……俺もだ。俺も犯人が許せない」
「今ものうのうと生きている犯人が憎い?」
「憎い。憎くて仕方がない」
明里は両手を烈の顔から離し、右手を差し出してきた。
「だったら、ボク達で捕まえよう。犯人を捕まえて、花咲さんの仇を討とうじゃないか」
「ああ!」
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