明日見明里は退屈が嫌い

河野守

文字の大きさ
17 / 38
第2章 二人で仇を討とう

第9話

しおりを挟む
 キョロキョロと店内を見渡す萌絵の妹と思わしき少女に向かって、明里は手を振って自分達の居場所を教える。少女がこちらに歩いてくる姿を見て、烈は明里の隣に移動。少女は烈達のテーブルまで来ると、深々とお辞儀。
「明日見さん、お待たせして申し訳ありません。少し道に迷ってしまって」
「いやいや、気にしないでくれ。ボク達も来たばかりだ。さあ、座って」
 明里は少女を促した後、店員を呼ぶ。三人はそれぞれ好きな飲み物を注文し、飲み物が来てから話を始めることに。
「烈くん、すでに勘づいているかもしれないが、彼女は花咲さんの妹だ。名前は花咲菖蒲あやめさん。彼女から花咲さんの話を聞こうと思ってこの場に呼んだ」
「よろしくお願いします」
 菖蒲は烈達に向かって深々と頭を下げる。とても行儀の良い子だ。烈は萌絵から妹の話は度々聞いていたが、活発な萌絵とは対照的に物静かなしっかり者という印象である。
「えっと、菖蒲、ちゃん。俺達の呼び出しに応じてくれてありがとう。呼んでおいてなんだけど、お姉ちゃんの火葬にはついて行かなくて良かったのか?」
「はい。お母さんから、私は家で待っていなさいって言われていまして。子供は火葬場に来なくていいと。子供と言っても、私はもう中学生なんですけどね。いつまで子供扱いしているんだか」
 ぎこちない笑みを浮かべる菖蒲。烈はどうリアクションしていいか分からず、口を閉じたまま。
 おそらく、姉が燃え尽き灰になっていく様子を見せたくないという、母親なりの気遣いなのだろう。だが、菖蒲としては火葬に立ち会えないことに思うところがあるようだ。
 長く続けるべき話題でないと、烈は話の転換を試みる。
「明里、コイツとはどうやって連絡を取ったの? 元々知り合いだった?」
「いえ。明里さんとは二日前に初めてお会いしまして。家にいた時に明里さんが訪ねてきたんです。そこで話を聞きたいと言われました」
 二日前というと、明里が俺の家に来て事件の捜査を打診した日だな。その時からすでに動き始めていたのか。
「雑談はそこまで。話を進めよう。菖蒲さん、事前に伝えているが、ボク達はお姉さんを殺めた犯人を探している。とにかく情報が欲しい。警察にしたのと同じ説明をもう一度してもらうことになるけど、そこは了承してくれ」
「あの、具体的には何を話せば?」
「そうだね。では、お姉さんが何故、あの日夜遅くに外出していたのか、その理由を教えてくれるかい?」
  菖蒲は申し訳なさそうに首を振る。
「すいません、分かりません。正確に言うと、理由を知る機会がなかったんです」
「それはどういう意味かな?」
「私は全寮制の中学校に通っていまして、事件の日は学校の寮にいたんです」
 菖蒲の通っている中学校は全国でも珍しい寮がある学校であり、彼女は普段は寮で生活をしているようだ。
「なるほど。つまり、そもそもお姉さんとは事件当時にコミュニケーションを取っていなかったんだね?」
「はい」
「では、質問を変えよう。事件が起きる前、お姉さんに何か変わったことはないかい?」
「……変わったこと?」
 菖蒲の顔色が変わる。明里はもちろん、烈でも見逃さないほどの動揺っぷりだ。彼女は注文したオレンジジュースのストローに口をつける。だが、コップの中の液体は減っていない。飲むふりをして、考える時間を稼いでいる。ようやく口をストローから離しても、答えるまでに時間がかかった。
「……いや、です、よ。時々電話やメールで連絡は取っていましたし、家にも帰って直接話をしたこともありますけど、いつも通りで、特におかしいところとか怪しいところとか、無かったですね。私から見た限り、そういった類は無いです。本当に」
 嘘だな。
 烈は菖蒲が嘘を吐いていることを看破。饒舌になり必死に何度も否定しているが、それは自身が嘘を言っていると白状しているものである。しっかり者とはいえ、まだ中学生。嘘が下手だ。
「そうか。変わったところは無いのか……」
 明里も嘘には気づいている。だが、あえて深くは突っ込まない。菖蒲は妹として萌絵を殺害した犯人を何がなんでも捕まえたいはず。だから、大して歳が変わらない高校生である烈達の呼び出しにも応じてくれたのだ。
 それなのに話したがらないということは、事件には関係がないのか。それとも、とても都合の悪い話なのか。
 菖蒲とはまだ会ったばかりで、信頼関係が築けていない。何より姉を亡くしたばかりで傷心の底にいる。ここで無理やり聞き出そうとすると、心を閉ざされる可能性がある。下手に踏み込むべきではないだろう。
「菖蒲ちゃん、もし気分が悪いなら無理に話を続けなくていいからさ」
 烈の気遣いに、菖蒲は「ありがとうございます」と礼。
「……あの、最初に聞くべきだったんですけど、もしかして剛村烈さんですか?」
「そうだけど、なんで俺の名前を?」
「お姉ちゃんからよく聞いていました。強面だけど、困っている人を見捨てることができない、とても優しい人だと。確かにお姉ちゃんの言う通り、優しくて素敵な人ですね」
「そ、そう?」
 年下の可愛らしい女の子に褒められ、烈はつい頬を緩める。
「いっで!」
 脚に鋭い衝撃と痛み。テーブルの下を覗き込むと、明里のローファーが烈の踝に食い込んでいた。
「何すん、だ……」
 明里に文句を言おうとしたが、声が急激に萎んでいく。明里が眼を見開き、とても恐ろしい形相で睨んできたからだ。ちょっと、いや、かなり怖かった。
 大事な話をしているのに、だらしなく鼻の下を伸ばすとは何事だと怒っているのだろう。
 明里の怒りは当然だと反省した烈はゴホンと軽く咳払いをしてから、顔を引き締める。その様子を見た明里は表情を人が良い笑顔に変え、菖蒲に向き直る。
「ごめん。話を続けよう」
 明里の鬼のような形相と、瞬時の代わり様を見た間近で見た菖蒲は「は。はい……」と戸惑い怯えていた。
「次の質問だが、花咲さんと他のご家族との関係は良好だろうか?」
 その質問に、菖蒲と烈は同時に怪訝な顔を浮かべる。何故、そのような事件に関係なさそうな質問をするのだろうかと。
「先ほどの葬儀ではお父様の姿は見えなかったが、何か事情があって来れなかったのかい?」
 菖蒲はすぐに答えず、気まずそうな表情を浮かべる。
「……いえ、お父さんはいないんです。いや、いるにはいるんですけど、だいぶ前に離婚しまして。まあ、良い父親ではないですね。浮気と浪費ばかりをしていた人でした。何より娘の葬式にも来ない」
「離婚後に会ったりはしていないのかい?」
「一度も」
「お姉さんが独自にお父様と会っているということは?」
「ない、はずです。お姉ちゃんもお父さんは好きじゃなかったので」
「ふむ。じゃあ、お母様との関係はどうだい?」
 家族仲を細かく聞く明里に、菖蒲は困惑の色を強くしながら答える。烈も明里の意図が分からず、二人のやりとりを横で聞くだけ。
 ただ、何か不穏な方向へと向かっているということは、なんとなく感じ取っていた。
 明里は烈達の心情を無視し、質問を続ける。
「お母様はお姉さんに暴力を振るっていなかったかい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...