ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

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第44話 突然の家庭訪問

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 ガイアナ姫はパルテノ村に残っていたかった。
 だが、貴族としての公務などもあり、ずっと村に留まる訳には行かなかった。
 心残りはあるが、ここは一旦、離れることになった。

 探索隊は縮小された。
 デルマン男爵の元に数名の兵士がつけられ、それが新たな探索隊として治安維持を請け負うことになった。

 ガイアナ姫がパルテノ村を去る。
 その前日--

 噴水広場ではガイアナ姫と村人とで、挨拶が交わされていた。

「姫様、お疲れ様でした」
「こんな辺鄙な村に来てくれて、ありがとうございました!」
「またお立ち寄り下さい!」

 ちょっとした送別会の様な雰囲気だった。
 別れを惜しみ、本気で泣き出す村人もいた。

(すごいなぁ。この短期間で人々にこんなに慕われるなんて……)

 いつの間にか噴水広場には人だかりが出来ていた。
 村人の輪の中心にはガイアナ姫。
 彼女は称えられていた。

(猪突猛進型で自分勝手なところもあるが、そういうところがガイアナ姫のいいところなんだろうなぁ……)

 クルスは見ててそう思った。
 何より領民思いなところも、発言からうかがい知れた。

 アティナがいなければ、彼女と冒険の旅に出てもいいとさえ思う。

「おお、クルス」

 目が合った。

 村人が道をあける。
 ガイアナ姫が、靴を鳴らしクルスに近づく。

「世話になったな」
「いえ、こちらこそ。何も役に立てずに……」
「いや、お主とアティナの作ったパン、とても美味しかったぞ。お陰で、慣れない探索も苦じゃなかった」

 クルスにとって、パンのことを褒められると素直に嬉しい。

 実は、探索隊の昼食はクルスの店のパンが提供されていた。
 クリームパンやベーグルなど、庶民の食べ物。
 宮廷料理を普段から食するガイアナ姫の口に合うか心配だったが、どうやら杞憂だった様だ。

 毎日、美味しいと言ってくれた。

「姫様のために、頑張らなきゃ!」

 その言葉をクルスから聞いたアティナは、毎日張り切ってパン作りに励んだ。
 お陰で、パン屋のメニューは相当増えた。

「城に帰ったらパルテノ村のパン屋のことを、父上や城の者にも話しておくからな」
「ありがとうございます」

 クルスは頭を下げた。

「あ、それはそうと、最後に一つ役に立ってくれないか……」
「はい……」

(何だ? もしかして……)

 まさか、決闘……

 クルスは身構えた。

「あはははは! クルス。決闘ではない。それに、お前はパン屋がお似合いだ」

 ガイアナ姫は手を叩いて笑った。

「あ、はぁ……」

 全身の力が抜けるクルス。

「じゃ、姫……頼みというのは……」

 ガイアナ姫の視線が移動する。
 視線の先には、クルスの家があった。

「え? 僕の家に?」
「うむ」

 ガイアナ姫の小さな顎が上下する。

「これは父上から私への依頼でもある。ついでに庶民の生活ぶりを見てこいとな……クルス、お主の家での生活を拝見させてくれないか」

~~~

「わぁ! ガイアナお姉ちゃーん!」

 扉を開けるなり、デメルがガイアナ姫の胸に飛び込んで来た。
 白いワンピースの胸元に、デメルが頬ずりする。
 まるで少女に子犬がじゃれついてるみたいだ。

「こらこら、デメル!」
「いいんだ。クルス。いつもこうやって遊んでるんだもんなっ、デメル」
「うん!」

 ガイアナ姫はデメルの小さい頭を両手でつかんだ。
 デメルの黒くてツヤツヤした髪をくしゃくしゃにする。

「うきゃきゃきゃ! お姉ちゃんくすぐったい!」
「あとでモンスターごっこしような」

 ガイアナ姫はそう言うと、デメルをそっと床に下ろした。

(この二人、一体いつの間に遊び友達になってたんだ……)

 明日でガイアナ姫が村を去ることを知ると、
 デメルは大泣きするだろう……

つづく
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