ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

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第46話 黒魔病

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 その日の夕方、ガイアナ姫がクルスに紹介した医者が馬車に乗って、パルテノ村にやって来た。

「私の主治医のへパトスだ」
「はじめまして」

 ガイアナ姫に紹介されたへパトスは頭を下げた。
 禿げ頭で灰色の顎髭を蓄えた、背の低い男だ。
 黒い革製の大きなカバンを背負っている。
 そして、学者の様に小脇に分厚い百科事典の様な本を抱えている。

「よろしくお願いします」

 ナツヤが頭を下げる。
 続けて、クルスもデメルも頭を下げる。

「へパトス、この人を診てくれ」
「承知しました」

 ガイアナ姫の手の先には、目を閉じたユナがベッドに横たわっていた。
 へパトスはユナの手を取り、脈を測った。
 瞼を開け、瞳孔を確認している。
 時には、事典を開きユナと交互に見ている。
 そして……

「ふむ、これは黒魔病です」
「黒魔病……?」

 クルスとナツヤは同時に呟いた。

「それは一体何だ?」

 ガイアナ姫が代わりにへパトス問い掛ける。

「これをご覧ください」

 へパトスはユナの瞼を開いた。
 よく見ると、黒い瞳の真ん中に赤い線が入っている。

「これは……」
「黒魔病の特徴です」

 事典のページにも書かれていた。

「魔王の邪気に当たった者は、この病を患うことがあります。数万人に一人の割合ですが……」
「魔王の邪気……」

 クルスは思わず口に出して繰り返した。
 へパトスは頷いた。

「数百年前、七英雄が魔王を倒しました。ですが、魔王の邪気がこの世界で漂っているということは……」
「やはり、魔王の完全復活が近いということだな」

 ガイアナ姫がへパトスの言葉を継いで、そう結論付けた。

 クルスは思った。

(ユナが黒魔病とかいう病気だったなんて、ゲームでは触れられることはなかったぞ……)

 ゲームでは、ユナは不治の病という設定で死んでいった。
 だが、この異世界においてユナは黒魔病という、病を患っていた。
 しかもその原因が、魔王の邪気に当てられたからだという。

「……へパトス様。ユナはどうなるのでしょうか?」

 ナツヤが恐る恐る問い掛ける。

「はい。このまま放っておけば、あと数日の命です」

 ナツヤは辛そうな顔になり、首を横に振った。
 ガイアナ姫が口を開く。

「どうにかならんのか? へパトス」
「無いとは言いませんが……」
「え?」

 クルスは思わず声を上げる。

 へパトスは事典を指差しこう言った。

「イリアス山の頂に咲く、アポロの花の蜜を飲ませれば……」

つづく
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