ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパンを焼いていたい

yonechanish

文字の大きさ
69 / 75

第69話 出入り禁止!

しおりを挟む
 エスティアの服装は汚れてはいないが、みすぼらしいものだった。
 特に袖のところがボロボロなのが目立つ。
 白い丸い襟の半袖シャツに、同じく白いズボン。
 だけど、サイズが合っていないのか、へその辺りが丸出しだった。
 ズボンもひざっ小僧が見えている。

「まず、服でも買おうか……」

 クルスの提案に応える様にエスティアのお腹が、

ぐ~っ……

 と鳴った。

「にゃっ!」

 顔を真っ赤にして、両手を小さなお腹の上に被せた。
 ピンク色の肉球がへそに当たってる。
 恥ずかしいのか、俯いてしまった。

「……お腹空いてるんだね」
「お腹空いたにゃ」

 エスティアはゆっくりと顔を上げ、上目遣いでクルスの顔を窺う。

「じゃ、何か食べよう!」
「みゃあぁっ!」

 エスティアは垂れ目になり舌を出してクルスの足元に擦り寄った。
 頬を脛に当てスリスリし始めた。

「ほら、行くぞ」

(腹が減っては戦は出来ぬって言うしな……。ま、服を買いに行くだけだけど……)

 クルスはエスティアの先に立ち歩き出した。
 エスティアもピョコピョコとスキップしながら着いて行く。

~~~

 だが……

「獣人はお断りです」

 どこの店に行っても断られた。
 獣の毛が料理に入って不衛生だとか、いろんな理由をつけて断られる。
 無理も無い。
 本当の理由は、獣人に対する差別や偏見なのだろう。

「やっぱ、仕方ないにゃ……」

 エスティアの尖った耳が垂れ下がり、尻尾も力なく地面にペタリとついていた。
 気が付いたら海辺を歩いていた。
 海に沈む夕日が、へこんでる二人を橙色に染めていた。

「エスティア。落ち込むなよ。こうなったら、あそこの屋台で何か買って海でも見ながら食べようぜ」

 クルスの指差す先には、軽食を売っている屋台があった。
 そう妥協仕掛けた時……

「お二人さん、うちの店なら獣人も大丈夫だよ」

 振り返ると、丸い顔と丸い身体をしたふくよかな年配の女が立っていた。
 長い髪を後ろで玉ねぎみたいな形にして結っている。
 オレンジ色のワンピースの裾が、海風に揺れていた。
 おばさんは細い目をさらに細め、ニコニコ笑っている。

~~~

 港が真正面に見える食堂で、クルスとエスティアは久々の食事にありついていた。
 店内は木製でゴザの様な敷物が敷かれている。
 窓全開で、潮風が心地よく入って来る。

「海の家みたいだ」
「海の家?」
「ああ……まぁ、何て言ったらいいかなぁ」

 転生元の世界をエスティアにどう話していいか、クルスは考えてしまった。
 クルスが黙りこくったので、エスティアは料理に夢中になった。

 丸い木の机の上には、焼き、フライ、煮、刺身など様々な魚料理が並んでいた。
 それらをエスティアは、一心不乱に素手でがっついている。

(よっぽど腹が減ってたんだな)

 エスティアを救うのに相当金を使ったが、まだいくらか残っている。
 ここの飯代なら平気で出せるくらいはある。

「うちは魚料理が自慢なんだよ。沢山お食べ」

 先程店に誘ってくれた女は、この店の店主だった。

「ありがとうございます」
「あんたたちの一部始終見てたよ。獣人とはいえ、女の子を助けるなんてカッコいいことするじゃないか」

 店主の女はクルスを褒めた。
 見ている人は見ていてくれてるんだと思うと、クルスは感動した。

「うちは獣人でも大歓迎さ。ゆっくりして行きな」
「はいっ!」
「にゃあっ!」

 しばしの安息。
 気が休まると共にクルスは、これからどうすればいいのか考え込んだ。

(持って帰って来たのが、アポロの花の蜜じゃなくて、猫耳少女だったら皆、驚くだろうな……)

 ユナの病を治すための特効薬であるアポロの花の蜜を取りに行くのが当初の目的だった。
 だが、ロドス大陸への定期船に乗ることさえも出来なかった。
 待つにしても次のロドス大陸への定期船は一ヶ月後。
 それを待っていたらユナは死んでしまう。

 お腹がいっぱいになったクルスは、考える余裕が出て来た。
 それは現実と向き合うということだった。

(何とか、ロドス大陸へ渡る方法は無いだろうか……)

つづく
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界修行の旅

甲斐源氏
ファンタジー
何事にも無気力な少年が雷に打たれて死んだ。目の前に現れた神様に奈落へと落とされてしまう。そこでの修行は厳しく、何度も死んでも修行は続いた。そして、修行の第1段階を終えた少年は第2段階として異世界に放り込まれる。そこで様々な人達と出会い、成長していくことになる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...