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第103話 シスコンの兄貴が妹のために無双します
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殺気を感じた。
それはモンスターを索敵するスキルとは異なる防衛本能的なものだ。
殺気はこのギルドホールの外から漂っている。
「ここから先は一歩も通さねぇぞ!」
締め切った入り口の扉。
その向こう側から叫び声が聞こえる。
タイチの声だ。
次の瞬間、刃と刃がぶつかり合う音が聞こえた。
血が噴き出す音や、人間が地面に倒れる音、うめき声が聞こえる。
ギルドホールの外で戦闘が始まったらしい。
「兄者……」
知らず知らずのうちに私は扉の前へと歩を進めていた。
DEATHの援軍が攻めて来たのだろう。
「俺の妹がいるギルドには、一歩も踏み込ませねえぞ!」
扉の向こう側でタイチがバトルアクスを振り回している姿が、脳裏を駆け巡る。
彼はやっぱり私の兄で、この世界で誰よりも私のことを思っている。
「リンネ様……ここは冷静にお願いします」
ロドリゴの言いたいことは分かる。
予想よりも早くDEATHの援軍が攻めて来た。
第一弾は捨て駒に過ぎなかったのか。
こちらは手負いの者が多く、治癒魔法使いによる回復が追いついていない。
それに、主力のメンバーは出払っている。
「ラストダンジョンの探索にあたっているメンバーが今から戻ると言っています。ここは外で応戦している鉄騎同盟に時間を稼いでもらうのが得策です」
地球というギルドのことを考えれば、ロドリゴの言う通りだろう。
タイチの善意に甘え、その間に地球は態勢を整える。
残念だが、タイチとセイラには犠牲になってもらう。
だが、私は首を左右に振る。
「もちろん、助けに行く」
ロドリゴは、やれやれという感じでため息をつく。
「あなたは見た目は冷静そうだが、その小さな胸には熱い何かを秘めている」
彼は私をそう評した。
小さい胸は余計だろ。
私は彼を見返した。
彼もまた細い目で私をじっと見つめる。
そして、ロドリゴは皆に振り返りこう言った。
「ギルマスの命令に従い、我々は外でDEATHと戦う鉄騎同盟と行動を共にするぞ!」
皆、「おう!」と拳を上げる。
その時、鉄製の扉が斜めに切り裂かれた。
鉄片になり果てた扉の残骸がゴトンと音を立て、ギルドホールの床に転がった。
溢れ出す白い光が朽ち果てたギルドホールを照らす。
光の中から黒い影が現れた。
「手こずらせやがって」
声と共に影の本当の姿が露わになる。
「……あ、あいつは……」
ロドリゴが絶句している。
赤黒い鎧に身を包み、紫色の光を放つ剣を持つ、赤毛の女戦士。
妖艶な笑みを浮かべたその顔は、女の私でも魅了されそうになる。
だが、それ以上に私の目を引き付けたのは、その女が肩に抱えている物体だった。
「救世主をここに呼べ。奴と取引がしたい」
女はドサリと両肩の物を落とした。
それは瀕死のタイチとセイラだった。
つづく
それはモンスターを索敵するスキルとは異なる防衛本能的なものだ。
殺気はこのギルドホールの外から漂っている。
「ここから先は一歩も通さねぇぞ!」
締め切った入り口の扉。
その向こう側から叫び声が聞こえる。
タイチの声だ。
次の瞬間、刃と刃がぶつかり合う音が聞こえた。
血が噴き出す音や、人間が地面に倒れる音、うめき声が聞こえる。
ギルドホールの外で戦闘が始まったらしい。
「兄者……」
知らず知らずのうちに私は扉の前へと歩を進めていた。
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「俺の妹がいるギルドには、一歩も踏み込ませねえぞ!」
扉の向こう側でタイチがバトルアクスを振り回している姿が、脳裏を駆け巡る。
彼はやっぱり私の兄で、この世界で誰よりも私のことを思っている。
「リンネ様……ここは冷静にお願いします」
ロドリゴの言いたいことは分かる。
予想よりも早くDEATHの援軍が攻めて来た。
第一弾は捨て駒に過ぎなかったのか。
こちらは手負いの者が多く、治癒魔法使いによる回復が追いついていない。
それに、主力のメンバーは出払っている。
「ラストダンジョンの探索にあたっているメンバーが今から戻ると言っています。ここは外で応戦している鉄騎同盟に時間を稼いでもらうのが得策です」
地球というギルドのことを考えれば、ロドリゴの言う通りだろう。
タイチの善意に甘え、その間に地球は態勢を整える。
残念だが、タイチとセイラには犠牲になってもらう。
だが、私は首を左右に振る。
「もちろん、助けに行く」
ロドリゴは、やれやれという感じでため息をつく。
「あなたは見た目は冷静そうだが、その小さな胸には熱い何かを秘めている」
彼は私をそう評した。
小さい胸は余計だろ。
私は彼を見返した。
彼もまた細い目で私をじっと見つめる。
そして、ロドリゴは皆に振り返りこう言った。
「ギルマスの命令に従い、我々は外でDEATHと戦う鉄騎同盟と行動を共にするぞ!」
皆、「おう!」と拳を上げる。
その時、鉄製の扉が斜めに切り裂かれた。
鉄片になり果てた扉の残骸がゴトンと音を立て、ギルドホールの床に転がった。
溢れ出す白い光が朽ち果てたギルドホールを照らす。
光の中から黒い影が現れた。
「手こずらせやがって」
声と共に影の本当の姿が露わになる。
「……あ、あいつは……」
ロドリゴが絶句している。
赤黒い鎧に身を包み、紫色の光を放つ剣を持つ、赤毛の女戦士。
妖艶な笑みを浮かべたその顔は、女の私でも魅了されそうになる。
だが、それ以上に私の目を引き付けたのは、その女が肩に抱えている物体だった。
「救世主をここに呼べ。奴と取引がしたい」
女はドサリと両肩の物を落とした。
それは瀕死のタイチとセイラだった。
つづく
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