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3話,殺されるかもしれない
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静かに息を吸って吐く。ケーレルを怯えている事が彼にバレないように。記憶が戻る前との変化が悟られないように。
「それよりケーレル兄上、俺って何でこんな怪我したのか知っておられませんか?何故だか思い出せなくて、階段から落ちたとか……、でしたっけ」
そう聞きながら頭に触れると、傷口が塞がり始めているがまだヒリヒリと痛んだ。前世の記憶と今世の記憶がごちゃ混ぜになっている上に頭も打ったからか思考が上手く行かない。
ぼんやりとした頭で思い出そうと眉間に力を入れるのと同時に、ケーレルは俺の言葉を聞いてぎょっと驚いた様子でこちらを見た。
「えっ、覚えてないの?友達の伯爵令息に突き飛ばされて頭を打ったんだよ。それでメイくんは3日も眠っていたんだ。あのブタは不敬罪で処刑されて家族は牢屋の中。名前は、えっと、何だっけな……」
うーんとこめかみを押さえて考え込むケーレルの発言に、ズキッと頭が痛むと同時に脳内に滑舌の悪い、くぐもった男の子の声が聞こえた。
“醜い血の子め!ハップル公爵家の恥さらしが僕より偉そうにしやがって!何と卑しい、死んでしまえ!”
キンキンと脳内に響き渡る声に両手で押さえながら、俺は記憶を思い出す。遠い親戚の太った同い年の伯爵令息とその取り巻きに毎日毎日服で見えない所を殴られ蹴られ、そのくせあいつらは公爵令息の友達という肩書きをひけらかしていた。俺の髪の色と両親の髪の色は違うのに、俺は確かに母の腹から生まれ父も持っていたハップル家の象徴である濃い紫色の瞳だ。だから虐められていた、殴られ蹴られハブられ。
抵抗するかのような痛みに堪えながら頭を押さえ芋蔓式で記憶を思い出そうとする俺にケーレルは心配そうな声音で声を掛けてきた。
「大丈夫?これからはこの屋敷から出ない方がいいんじゃない、ここなら俺達が守ってあげられるし……。あ、包帯も取りかかってるよ。俺が巻き直してあげる」
「あ、ありがとうございます」
記憶を思い出すのに気が向いてほとんどを聞き流し良く考えもせず返したその返答は明らかなる間違いだった。いくら傷口が塞がりつつあると言っても完全に塞がってはいない、その部分の包帯を巻き直すなんて傷口に近付く口実以外何でも無いだろう。
サァと青ざめる俺に反してうっとりした笑みを浮かべたケーレルが手早く靴を脱いで俺のベッドに上がってきた。初めからそのつもりで来ていたのか、彼はズボンのポケットから包帯を取り出す。
弟が虐められ頭を打って数日寝込んだのに心配では無く己の欲望を優先するのか。いや、分かってはいた。使用人達はああ言っていたが兄達が誰かの心配を心の底からするわけがない、所詮言うとしても上部だけだ。
そんな事を考えている間にも、するりするりと包帯がほどかれていく。はあ、と熱っぽい息が傷口に当たりヒリヒリと痛んだ。ゾワッと全身に鳥肌が立つ。
まずい、食われる。血と肉が目の前にあるんだ。幼い頃に偶然兄がメイドを食らう場面を見てしまった事を思い出し、ざらついた舌で傷口を舐められ尖ったあの歯を突き立てられる自分の姿が鮮明に浮かばれる。
頭の中で警報が鳴り俺は慌てて振り返りケーレルを見た。思ったより近い距離に居た彼に驚いて抗議する事に少し躊躇するが、唾を飲み込んで俺は口を開く。
「っけ、ケーレル兄上、やっぱり自分でやります」
「大丈夫大丈夫、俺達みんな“兄弟だけは手を出さない”。でしょ?あぁヤバい、涎垂れてきた」
恍惚とした表情で口元を自身の手で拭うその姿は色っぽく絵になる。けれど乙女でも無い俺の心臓はときめきでは無く命の危機を感じてドッドッドッと激しく脈だっていた。冷や汗が頬を伝う。
“兄弟だけは手を出さない”は俺達兄弟の唯一の倫理観。けれどそれも本人が耐えているからこそ成り立っている、我慢を止めればいつだって襲う事ができた。だからケーレルがここに居る限り、俺の心に安寧が訪れる事は無い。恐怖で体が硬直している今も、ケーレルは俺を後ろから抱き締め、頭に顔を寄せ匂いを嗅いでいる。もう口実に使った包帯を付けるという目的だって忘れているのだろう。ケーレルの柔らかい髪が頬に触れ場違いにも甘い香りがした。
泣いて乞えば離れるような人では無い、必死で抵抗したらこれまで狙われた人達と同じに結末なる。そうしたら彼にとって俺は“自分の兄弟”から“ただの肉”に成り下がるだろう。
けれど逃れなければどちらにしろ俺の命はない。これまでもこんな状況があったはずだ、その時はどうしていたか。必死で思い出そうと思考を巡らし俺は1つの答えに辿り着いた。
「それよりケーレル兄上、俺って何でこんな怪我したのか知っておられませんか?何故だか思い出せなくて、階段から落ちたとか……、でしたっけ」
そう聞きながら頭に触れると、傷口が塞がり始めているがまだヒリヒリと痛んだ。前世の記憶と今世の記憶がごちゃ混ぜになっている上に頭も打ったからか思考が上手く行かない。
ぼんやりとした頭で思い出そうと眉間に力を入れるのと同時に、ケーレルは俺の言葉を聞いてぎょっと驚いた様子でこちらを見た。
「えっ、覚えてないの?友達の伯爵令息に突き飛ばされて頭を打ったんだよ。それでメイくんは3日も眠っていたんだ。あのブタは不敬罪で処刑されて家族は牢屋の中。名前は、えっと、何だっけな……」
うーんとこめかみを押さえて考え込むケーレルの発言に、ズキッと頭が痛むと同時に脳内に滑舌の悪い、くぐもった男の子の声が聞こえた。
“醜い血の子め!ハップル公爵家の恥さらしが僕より偉そうにしやがって!何と卑しい、死んでしまえ!”
キンキンと脳内に響き渡る声に両手で押さえながら、俺は記憶を思い出す。遠い親戚の太った同い年の伯爵令息とその取り巻きに毎日毎日服で見えない所を殴られ蹴られ、そのくせあいつらは公爵令息の友達という肩書きをひけらかしていた。俺の髪の色と両親の髪の色は違うのに、俺は確かに母の腹から生まれ父も持っていたハップル家の象徴である濃い紫色の瞳だ。だから虐められていた、殴られ蹴られハブられ。
抵抗するかのような痛みに堪えながら頭を押さえ芋蔓式で記憶を思い出そうとする俺にケーレルは心配そうな声音で声を掛けてきた。
「大丈夫?これからはこの屋敷から出ない方がいいんじゃない、ここなら俺達が守ってあげられるし……。あ、包帯も取りかかってるよ。俺が巻き直してあげる」
「あ、ありがとうございます」
記憶を思い出すのに気が向いてほとんどを聞き流し良く考えもせず返したその返答は明らかなる間違いだった。いくら傷口が塞がりつつあると言っても完全に塞がってはいない、その部分の包帯を巻き直すなんて傷口に近付く口実以外何でも無いだろう。
サァと青ざめる俺に反してうっとりした笑みを浮かべたケーレルが手早く靴を脱いで俺のベッドに上がってきた。初めからそのつもりで来ていたのか、彼はズボンのポケットから包帯を取り出す。
弟が虐められ頭を打って数日寝込んだのに心配では無く己の欲望を優先するのか。いや、分かってはいた。使用人達はああ言っていたが兄達が誰かの心配を心の底からするわけがない、所詮言うとしても上部だけだ。
そんな事を考えている間にも、するりするりと包帯がほどかれていく。はあ、と熱っぽい息が傷口に当たりヒリヒリと痛んだ。ゾワッと全身に鳥肌が立つ。
まずい、食われる。血と肉が目の前にあるんだ。幼い頃に偶然兄がメイドを食らう場面を見てしまった事を思い出し、ざらついた舌で傷口を舐められ尖ったあの歯を突き立てられる自分の姿が鮮明に浮かばれる。
頭の中で警報が鳴り俺は慌てて振り返りケーレルを見た。思ったより近い距離に居た彼に驚いて抗議する事に少し躊躇するが、唾を飲み込んで俺は口を開く。
「っけ、ケーレル兄上、やっぱり自分でやります」
「大丈夫大丈夫、俺達みんな“兄弟だけは手を出さない”。でしょ?あぁヤバい、涎垂れてきた」
恍惚とした表情で口元を自身の手で拭うその姿は色っぽく絵になる。けれど乙女でも無い俺の心臓はときめきでは無く命の危機を感じてドッドッドッと激しく脈だっていた。冷や汗が頬を伝う。
“兄弟だけは手を出さない”は俺達兄弟の唯一の倫理観。けれどそれも本人が耐えているからこそ成り立っている、我慢を止めればいつだって襲う事ができた。だからケーレルがここに居る限り、俺の心に安寧が訪れる事は無い。恐怖で体が硬直している今も、ケーレルは俺を後ろから抱き締め、頭に顔を寄せ匂いを嗅いでいる。もう口実に使った包帯を付けるという目的だって忘れているのだろう。ケーレルの柔らかい髪が頬に触れ場違いにも甘い香りがした。
泣いて乞えば離れるような人では無い、必死で抵抗したらこれまで狙われた人達と同じに結末なる。そうしたら彼にとって俺は“自分の兄弟”から“ただの肉”に成り下がるだろう。
けれど逃れなければどちらにしろ俺の命はない。これまでもこんな状況があったはずだ、その時はどうしていたか。必死で思い出そうと思考を巡らし俺は1つの答えに辿り着いた。
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