【完結】年齢詐称にご用心!悪徳凄腕占い師の人生最後の恋占い

雲井咲穂(くもいさほ)

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6話

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 エリーゼは自分の手をフランツの大きく骨ばった手から逃げるように引っこ抜くと、椅子から立ち上がってじりじりと後ずさりし始める。

 フランツは静かに椅子から立ち上がると、一歩、また一歩とエリーゼに間合いを詰めていく。歩く度に粗末な小屋の床が音を立てて鳴る。

 狭い室内で逃げ場がなく、とうとう背中に本棚が迫る距離まで追い詰められたエリーゼは、にこやかに笑みを浮かべているのに獲物を狩る獣のような鋭い光を瞳に浮かべているフランツが怖くてたまらない。

 ついに、あと一歩というところに迫った時、エリーゼは観念して両手を突き出して空間を作りぎゅっと目を瞑るとまくし立てた。

「ご、ごめんなさいごめんなさい!!トットトウセロなんて言ってごめんなさいいいいいい!!老婆に扮して貴族から法外に巻き上げてごめんなさいいいいい。でも占いは本当に生業としてちゃんと真剣にやっていて、そこは嘘なんてついてないんです!!」

「エリーゼ」

 フランツの声がエリーゼのすぐ頭上でかかり、手が伸ばされる気配がしてさらに身を固く縮めた。が、首を絞められて殺されるのだと思っていたエリーゼは、予想外の方向に体が動いて目を丸くした。

 体が暖かく包み込まれ、あやすように背中に手が添えられる。

「え」
「君を探していたのは、罪に問うためではなくて、話をしたかったから。子供を助けて、貴族に立ち向かう女性の瞳が強く心惹かれたから。誰もが目を背けてしてこなかったことを、たった一人、ただ君だけが向き合っていた事実を知って、私は君にトットトウセロと言われても仕方がない生き方をしていたんだと、はじめて気が付いた。私は、君に会いたかったんだ」

 抱きしめられる格好のまま、訳も分からず頭の上から静かな声が降ってくる。

「調べていくうちに、直接会いたいという気持ちが抑えられず、女公爵に仲介を依頼して騙すようなことをして申し訳なかった。知れば知るほど、会ってみたかったんだ」

 エリーゼが目をぱちくりさせていると、フランツは少しだけ腕の力を緩めて自虐的にほほ笑む。訳が分からないと、情報を整理できていない状態の十七歳ほどの年齢の少女を困惑させている自分が情けなくて、フランツは長く細い溜息を吐いた。

「ひとまず、調べてもどうしてもわからなかったことが一つだけあるんだけど」

 当惑するようなフランツの声に、頭が混乱してかき混ぜられたまま、エリーゼはつられるように視線を上げた。青玉の瞳が、困ったようにエリーゼに注がれる。

「君の、本当の名前は?占いではわからなかったんだ」


***
 これより三年後のことである。

 国民の困窮に平民であるにもかかわらず、自らの身の危険を厭うことなく救いの手を差し伸べた聖女、エリーゼ・フォン・ユルヴェイユはその功績を認められ、女公爵の養女となる。

 そして翌年、のちに名君として歴史に名を遺すフランツ・ツヴァイス・ウル・ド・ウェルディーク・リア・アステマルの人生の伴侶として永く語り継がれる存在となるのだが、それはまた別のお話である。


(Fin)
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