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第三章

小神殿での会合(3)

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 しばらく考えるように指を組んだまま、彼はツォンフェンへと視線を向ける。

「ツォンフェン。魔石の品質について、どう見ている?」

 ツォンフェンは腕を組み、魔石を一瞥すると、低く冷静な声で答えた。

「……比類なき品質ですね」

 ゆっくりとした口調だったが、その言葉には確信が込められていた。

「市場に出せば、王侯貴族や魔法士たちがこぞって買い求めるでしょう」

 一拍置き、彼は続けた。

「ですが、原石だけの販売はすすめられない――どころか、危険です。再結晶化に関しても、他領には秘匿しておいた方がいいでしょう」

 視線をカイルへ戻しながら、ツォンフェンは慎重に言葉を選ぶ。

「それよりも、再結晶化した魔石を活用する手段を確立するべきです。それができれば、ライグリッサの経済そのものを大きく動かすことになります」

 ツォンフェンの言葉が落ちると、室内の空気が変わった。

 緊張感の中に、わずかに――期待の色が混じっている。

 カイルは、しばらく沈黙した後、一つ頷くとゆっくりとヒューへと視線を向けた。その鋭い眼差しが、まるで答えを確かめるかのように彼を射抜く。

「ヒュー。お前には設計図を描いてもらったな?」

 低く抑えられた声には、確信と重みがあった。

「ええ、確かに。ツォンフェンから頼まれたわ」

 ヒューは腕を組みながら、満足げに頷く。その表情には、自分の仕事に対する誇りが滲んでいた。

 カイルは微かに口元を上げると、今度はフィリルへと目を向ける。

「フィリル。お前に設計図を渡したな?」

 フィリルは小さく息を吸い、静かに頷いた。

「はい。父に託しました。そして――仕上がったのが」

 彼女の視線が、そっとコーデリアの胸元へと向けられる。

「コーデリア様が今、身に着けていらっしゃるペンダントです」

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、一同の視線が一斉にコーデリアの胸元へと集まった。

「えっ……?」

 まるで時間が止まったようだった。

 コーデリアは驚きに目を瞬かせながら、自らの胸元に手を伸ばす。

(つまり……このペンダントは……)

 ツォンフェンが魔石を選び、

 ヒューがデザインを起こし、

 フィリルの父が細工を施し完成させた。

「これが、再結晶化された魔石で作ったペンダント……?」

 呆然と呟く彼女の声をかき消すように、ヒューが突然歓声を上げた。

「うわああ、すごい! 設計図のまんま……それどころか、それ以上の出来栄えよ! あたしったら、どうして気づかなかったのかしら!?」

 弾けるような興奮。

 ヒューは目を輝かせ、目にもとまらぬ速さでコーデリアに駆け寄る。その勢いはまるで猛獣が獲物に飛びかかるようだった。

「ちょっと! よく見せてちょうだい! こっちの方で!!」

 勢いに気圧され、コーデリアは思わず身を引く。

「カイル様!」

 突然、切迫した声が小神殿の静寂を切り裂いた。

 荒い息遣いとともに、騎士団の男が駆け込んでくる。その表情には焦りと緊張が浮かんでいた。

「魔獣です!」

 場が、一瞬で凍りついた。
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