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303 ミスフィートvsヒューリック

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 次の日、訓練場にてまさかの対戦が実現した。


「参りました」


 パチパチパチパチ

 拍手をしながら二人の傍まで歩み寄る。


「ミスフィートさんお見事です!ヒューリック、怪我は無いか?」
「ぐぅっ!わ、脇腹の辺りを、鎧・・・、ごと斬り裂かれたかもしれませぬ」
「鎧を脱がすぞ?」


 ヒューリックの鎧を脱がすと、服が血で真っ赤に染まっていた。
 少し傷が深かったので、聖水をぶっかけてから本人にも聖水を飲ませる。


「ふーーーーーっ!これでハッキリしましたな。あのまま戦を続けていても、やはり我らに勝ち目など無かった!」
「身軽さが違うからな!ヒューリックも十分強かったぞ!」
「そう言ってもらえるとは有難い。しかし思った通り、重装備で刀と戦うのは無謀でしたな。昨日ジルと共に刀の鍛錬をしたので薄々感づいてはいたのですが、防御はともかく攻撃が当たらない。此方が先に剣を振ったのに、届く前に刀で脇腹を斬り裂かれてしまいました」
「力の差以前の問題で、剣速に差がありすぎたな。だがヒューリックは元々剣の腕で大名まで上り詰めた男だ。今から毎日刀の鍛錬を積めば、聖帝軍との戦までには刀で戦えるようになるだろう」


 なぜこの対戦が実現したかというと、『あのまま戦を継続していた場合、どういう結末になったのかが知りたい。当時の装備で手合わせしてもらえないでしょうか?』という、ヒューリックからの申し出があったからだ。

 なんせ伊勢の人達はミスフィートさんの実力を全く知らない。自分より強いのかどうかもわからない大名に忠誠を誓うってのは、やはり少し抵抗があると思う。

 なので、この手合わせは一度やる必要があったのだ。

 本当は同じ装備で戦わないと実力は把握し辛いのだけれども、ヒューリックはあの当時のままの状態で、大名同士による一騎打ちを想定した手合わせがしたかった模様。まあ本人が納得するならばそれでいいと思う。


 マジックバッグから、三河で購入した男性用の服を二着取り出す。


「ヒューリック、服がポロボロだし血で汚れてしまったから、そこの部屋でこの服に着替えてくるといい。あとついでなんで、ジルも一緒にこの服に着替えて来てくれ。ちなみに強化済みの服だから、鉄の鎧以上の防御力だぞ。ただそのまま着たら血で汚れてしまうので、このタオルでよく体を拭いてからな」

 それぞれに服と、水で濡らしたタオルを渡す。

「有難うございます!では早速着替えてきまする」
「私の分まで、感謝します!」


 二人が隣の部屋に入って行った。


「ヒューリックの強さはどうでしたか?」
「ジャバルグより力は多少劣るが強かったぞ!刀に慣れてから鎧なしでもう一度戦えば、かなり際どい勝負になるやもしれぬな!」
「ほほう、敵には回したくないですね。あの感じなら裏切る心配は無さそうですが、まだ出会ってからそれほど経っていませんからね。もう味方だからと、あまり気を抜かないよう心掛けて下さい」
「ふむ、まあそうだな。志願兵じゃない配下が増えると、そういう心配をする必要があるのか。支配国が尾張だけの時は本当に平和だったのだがな・・・」


 ホントだよ・・・。
 領土がデカくなればなるほど争いの火種を抱える羽目になる。

 そもそもまだ尾張を開拓しきってないんだよね。なのに聖帝軍とドンパチだぜ?例え勝ったとしても、いや、負ける気は更々無いが、ミスフィート軍はかなりの領土を所有することになるだろう。

 京や堺なんかはたぶん都会だからすでに栄えてる可能性があるけど、それでも十中八九、人々の暮らしは尾張の足元にすら及ばないハズだ。遠くない未来を考えるだけでマジで気が遠くなるわ・・・。


 ヒューリックとジルが着替えから戻って来た。


「おお、似合うじゃないか!」
「ほほお、思った以上に格好良いな」

 ガチャ産の服ではないけれど、文明の発達した三河産の服なのでかなり洗練されている。それでも残念ながら一般の服と同じ付与しか出来ないんだけどね。

 ヒューリックは茶色のズボンに白いシャツと黒いジャケット姿で、ジルはその色違い。ジャケットは同じ黒だけどズボンは紺色だ。

「尾張は服も素晴らしいですな!見た目も洒落ているが着心地も最高ですぞ!」
「こんな良い服を着たのは生まれて初めてです!」

「あ~、それな、実は三河で買った服なんだよ。尾張の服もどんどん質が上がってきてるけど、まだ三河には全然敵わないな」
「なんと!?三河の服でしたか!」
「ひょっとして、三河も尾張並に発展しているのですか!?」
「むしろ尾張よりも一歩先を行ってるぞ。尾張はジャバルグを倒すまで本当に最低最悪な環境だったから、正直スタートラインが悪すぎたな。まあそれでもかなり良くなってきたとは思うが・・・」

 ルーサイアなんて、ほぼ廃墟だったからな!
 よくもまあココまで育ったと思うよ。

「三河までそのような発展を遂げているとは。・・・もしかして伊勢だけが時代遅れなのか!?」
「なんだか悲しくなってきますね・・・」
「いや、それは違うぞ!おそらく殆どの国が伊勢と大差無いだろう。尾張と三河、あと清光領の遠江だけが異常に発達しているだけだ」
「尾張と三河しか知らないが、この国が異常なのは私にもわかるぞ!尾張は全部小烏丸が育てたのだ。あとキヨミツ殿とコテツ殿も天才だな!」
「いや、少なくとも俺は天才なんかではないですよ。生まれが特殊な場所だっただけです。まあ何にせよ、伊勢もミスフィート軍の領地となったからには尾張と同様にガンガン育てます!」


 大変だけどやるしかねえんだ。
 まあ伊勢に居城を移すことだし、少なくとも俺が発展させずにはいられまいて。
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