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夫が愛人のところに入り浸っています
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夫はほとんど屋敷に帰ってこない。執事のイーデンによると、愛人のところに入り浸っているらしい。私の信用を使って金を借り、その金を愛人につぎこんでいるのだろう。
どうしようもないクズ。
けれど遠慮しなくていいという意味では、やりやすいのかもしれない。彼が家庭の外に恋人をもっているのなら、私が同じことをしても文句は言えないのだから。
それにしても彼の愛人が一人で良かった。二人以上の愛人をもつ気はないから。
私は伯爵家に残されていたボロボロの馬車に乗って、ヴァーノン子爵ハリスのタウンハウスへ向かう。相変わらずボロボロのタウンハウス。
「ああ、ベアトリーチェ…!」
「ハリス」
彼は私をぎゅうっと強く抱きしめてくれる。私の愛する人。愛しいハリス。
母親同士の仲が良く、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。容姿端麗で竹を割ったような性格の彼を好きになるのに、時間はかからなかった。
清い関係でいたし、アーヴィングに嫁ぐことが決まってからは連絡すら取っていなかったけれど、もう遠慮はいらない。それがこんなに嬉しいなんて。
「離婚はできないのか?」
「お父様からは、色よい返事はもらえなかったわ。私が彼の子どもを生んで爵位を継ぐよう期待しているのでしょうね。旦那様は私と離婚すれば持参金を失って借金が戻ってくるから、離婚はしないでしょうし」
ハリスはため息をつきかけて、その息をのみ込んだ。
「”私にもっと地位と力があれば”と嘆く暇があるなら、地位と力を得るためにもっと努力しなければ」
彼らしい。
「実は、ようやく父と兄が作った借金を返し終わったんだ。領地経営の改善目途も立ったから、近々王宮財務官の仕事に応募するつもりだ。試験は難しいけれど、必ず突破してみせるよ」
貧乏貴族に生まれても、家族に恵まれなくても、身分や生まれのせいにしない。現状に絶望せず、よりよい自分になれるように努力を惜しまない。
彼のこういうところが好きなのだ。
ハリスはそっと私の手にキスをくれる。
「ボルトン伯爵家と同じくらいの利益をもたらせると、君の父上の認めてもらえるようになる。待っていてくれ」
「ええ」
ハリスは「いいか?」と聞いて、私は頷く。初めてもらう彼からの口づけは、とてもとても甘かった。
どうしようもないクズ。
けれど遠慮しなくていいという意味では、やりやすいのかもしれない。彼が家庭の外に恋人をもっているのなら、私が同じことをしても文句は言えないのだから。
それにしても彼の愛人が一人で良かった。二人以上の愛人をもつ気はないから。
私は伯爵家に残されていたボロボロの馬車に乗って、ヴァーノン子爵ハリスのタウンハウスへ向かう。相変わらずボロボロのタウンハウス。
「ああ、ベアトリーチェ…!」
「ハリス」
彼は私をぎゅうっと強く抱きしめてくれる。私の愛する人。愛しいハリス。
母親同士の仲が良く、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。容姿端麗で竹を割ったような性格の彼を好きになるのに、時間はかからなかった。
清い関係でいたし、アーヴィングに嫁ぐことが決まってからは連絡すら取っていなかったけれど、もう遠慮はいらない。それがこんなに嬉しいなんて。
「離婚はできないのか?」
「お父様からは、色よい返事はもらえなかったわ。私が彼の子どもを生んで爵位を継ぐよう期待しているのでしょうね。旦那様は私と離婚すれば持参金を失って借金が戻ってくるから、離婚はしないでしょうし」
ハリスはため息をつきかけて、その息をのみ込んだ。
「”私にもっと地位と力があれば”と嘆く暇があるなら、地位と力を得るためにもっと努力しなければ」
彼らしい。
「実は、ようやく父と兄が作った借金を返し終わったんだ。領地経営の改善目途も立ったから、近々王宮財務官の仕事に応募するつもりだ。試験は難しいけれど、必ず突破してみせるよ」
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ハリスはそっと私の手にキスをくれる。
「ボルトン伯爵家と同じくらいの利益をもたらせると、君の父上の認めてもらえるようになる。待っていてくれ」
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