伯爵夫人はやられた分だけきっちりやり返す

こじまき

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夫の怒りが滑稽でたまりません

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久々に伯爵邸に帰ってきたアーヴィングは、怒りでぷるぷると震えていた。督促状が届いて、私が彼の名前でお金を借りたことに、ようやく気付いたのだろう。

「ベアトリーチェ…!俺の名前で金を借りるだなんて、頭がおかしいのかっ!しかもあんなろくでもない金貸しからっ…!!俺がどんな目に遭ったか…」

執事が「愛人宅にいるところに金貸しがなだれ込み、裸のアーヴィングに返済を迫ったのだ」と耳打ちして、私は慌てて笑みを扇子で隠す。見たいような、彼の裸など見たくはないような。

「私は旦那様がなさったことをそのままお返ししただけですわ。私を連帯保証人にして借金を踏み倒されたではありませんか。借りたお金は自分で返していただきませんと」

彼の身体の震えが激しくなる。

「愛人がいるのも知っているからなっ!このっ…貴婦人の風上にもおけないっ…!!」
「旦那様にも愛人がいらっしゃるでしょう。同じですわ」
「おっ…お前のような女を抱く男の気が知れないっ!どうせ金にものを言わせて囲っているのだろう!」
「お金は渡しておりません。援助を申し出ても彼は拒否しましたので。お金のために好きでもない女と結婚した浅ましい誰かさんとは違って」

アーヴィングは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた。

「金のためではない!祖父がつくった借金で窮地に陥った伯爵家を救うためだっ!」
「お義父様はコツコツ返済を続けておられましたのよ。借金の返済が滞ったのは旦那様が当主になられてから。つまり伯爵家を窮地に陥れたのは旦那様では?」

彼はくるっと背を向ける。

「ただでいられると思うなよっ!」

こんな子どもっぽい脅し文句で、私は怯えて泣き出すとでも思っているのかしら。だとしたら相当馬鹿にされているわ。

「そう言えば旦那様、ひとつだけ」
「なんだっ」
「来週から私、友人のいるファルマス伯爵領に行ってまいります」
「好きにしろっ!ただし俺の金は使うなよ」
「ええ」

あなたのお金なんて、この屋敷には一シリングたりとも落ちていない。

翌週、ファルマスへの出発を前にして、私はいつもボロボロの馬車で何とか快適に走れるようにと整備してくれている御者に「異常はない?」と聞いた。この屋敷の使用人たちは、私が持参金を取り崩して未払いだった給料に充てたことを知って、私を慕ってくれている。

「それが…車軸に異常が。このまま走ると走るほどに馬車が傾いてしまい、今回のご旅程にある山道では、転落の危険性が高くなります」

御者は「整備不足で大変申し訳ございません、奥様。今回のご旅行は修理が終わるまで延期なさるか、馬車を借りて向かわれるのがよろしいかと」と泣きそうな顔で頭を下げる。けれどこれは思った通り。

「いいのよ。ところでこの異常は、もしかして人為的なものではないのかしら?」
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