4 / 5
夫の怒りが滑稽でたまりません
しおりを挟む
久々に伯爵邸に帰ってきたアーヴィングは、怒りでぷるぷると震えていた。督促状が届いて、私が彼の名前でお金を借りたことに、ようやく気付いたのだろう。
「ベアトリーチェ…!俺の名前で金を借りるだなんて、頭がおかしいのかっ!しかもあんなろくでもない金貸しからっ…!!俺がどんな目に遭ったか…」
執事が「愛人宅にいるところに金貸しがなだれ込み、裸のアーヴィングに返済を迫ったのだ」と耳打ちして、私は慌てて笑みを扇子で隠す。見たいような、彼の裸など見たくはないような。
「私は旦那様がなさったことをそのままお返ししただけですわ。私を連帯保証人にして借金を踏み倒されたではありませんか。借りたお金は自分で返していただきませんと」
彼の身体の震えが激しくなる。
「愛人がいるのも知っているからなっ!このっ…貴婦人の風上にもおけないっ…!!」
「旦那様にも愛人がいらっしゃるでしょう。同じですわ」
「おっ…お前のような女を抱く男の気が知れないっ!どうせ金にものを言わせて囲っているのだろう!」
「お金は渡しておりません。援助を申し出ても彼は拒否しましたので。お金のために好きでもない女と結婚した浅ましい誰かさんとは違って」
アーヴィングは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた。
「金のためではない!祖父がつくった借金で窮地に陥った伯爵家を救うためだっ!」
「お義父様はコツコツ返済を続けておられましたのよ。借金の返済が滞ったのは旦那様が当主になられてから。つまり伯爵家を窮地に陥れたのは旦那様では?」
彼はくるっと背を向ける。
「ただでいられると思うなよっ!」
こんな子どもっぽい脅し文句で、私は怯えて泣き出すとでも思っているのかしら。だとしたら相当馬鹿にされているわ。
「そう言えば旦那様、ひとつだけ」
「なんだっ」
「来週から私、友人のいるファルマス伯爵領に行ってまいります」
「好きにしろっ!ただし俺の金は使うなよ」
「ええ」
あなたのお金なんて、この屋敷には一シリングたりとも落ちていない。
翌週、ファルマスへの出発を前にして、私はいつもボロボロの馬車で何とか快適に走れるようにと整備してくれている御者に「異常はない?」と聞いた。この屋敷の使用人たちは、私が持参金を取り崩して未払いだった給料に充てたことを知って、私を慕ってくれている。
「それが…車軸に異常が。このまま走ると走るほどに馬車が傾いてしまい、今回のご旅程にある山道では、転落の危険性が高くなります」
御者は「整備不足で大変申し訳ございません、奥様。今回のご旅行は修理が終わるまで延期なさるか、馬車を借りて向かわれるのがよろしいかと」と泣きそうな顔で頭を下げる。けれどこれは思った通り。
「いいのよ。ところでこの異常は、もしかして人為的なものではないのかしら?」
「ベアトリーチェ…!俺の名前で金を借りるだなんて、頭がおかしいのかっ!しかもあんなろくでもない金貸しからっ…!!俺がどんな目に遭ったか…」
執事が「愛人宅にいるところに金貸しがなだれ込み、裸のアーヴィングに返済を迫ったのだ」と耳打ちして、私は慌てて笑みを扇子で隠す。見たいような、彼の裸など見たくはないような。
「私は旦那様がなさったことをそのままお返ししただけですわ。私を連帯保証人にして借金を踏み倒されたではありませんか。借りたお金は自分で返していただきませんと」
彼の身体の震えが激しくなる。
「愛人がいるのも知っているからなっ!このっ…貴婦人の風上にもおけないっ…!!」
「旦那様にも愛人がいらっしゃるでしょう。同じですわ」
「おっ…お前のような女を抱く男の気が知れないっ!どうせ金にものを言わせて囲っているのだろう!」
「お金は渡しておりません。援助を申し出ても彼は拒否しましたので。お金のために好きでもない女と結婚した浅ましい誰かさんとは違って」
アーヴィングは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせた。
「金のためではない!祖父がつくった借金で窮地に陥った伯爵家を救うためだっ!」
「お義父様はコツコツ返済を続けておられましたのよ。借金の返済が滞ったのは旦那様が当主になられてから。つまり伯爵家を窮地に陥れたのは旦那様では?」
彼はくるっと背を向ける。
「ただでいられると思うなよっ!」
こんな子どもっぽい脅し文句で、私は怯えて泣き出すとでも思っているのかしら。だとしたら相当馬鹿にされているわ。
「そう言えば旦那様、ひとつだけ」
「なんだっ」
「来週から私、友人のいるファルマス伯爵領に行ってまいります」
「好きにしろっ!ただし俺の金は使うなよ」
「ええ」
あなたのお金なんて、この屋敷には一シリングたりとも落ちていない。
翌週、ファルマスへの出発を前にして、私はいつもボロボロの馬車で何とか快適に走れるようにと整備してくれている御者に「異常はない?」と聞いた。この屋敷の使用人たちは、私が持参金を取り崩して未払いだった給料に充てたことを知って、私を慕ってくれている。
「それが…車軸に異常が。このまま走ると走るほどに馬車が傾いてしまい、今回のご旅程にある山道では、転落の危険性が高くなります」
御者は「整備不足で大変申し訳ございません、奥様。今回のご旅行は修理が終わるまで延期なさるか、馬車を借りて向かわれるのがよろしいかと」と泣きそうな顔で頭を下げる。けれどこれは思った通り。
「いいのよ。ところでこの異常は、もしかして人為的なものではないのかしら?」
38
あなたにおすすめの小説
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
(完)悪役令嬢は惚れ薬を使って婚約解消させました
青空一夏
恋愛
私は、ソフィア・ローズ公爵令嬢。容姿が、いかにも悪役令嬢なだけで、普通の令嬢と中身は少しも変わらない。見た目で誤解される損なタイプだった。
けれど大好きなロミオ様だけは理解してくれていた。私達は婚約するはずだった。が、翌日、王太子は心変わりした。レティシア・パリセ男爵令嬢と真実の愛で結ばれていると言った。
私は、それでもロミオ様が諦められない・・・・・・
心変わりした恋人を取り戻そうとする女の子のお話(予定)
※不定期更新です(´,,•ω•,,`)◝
最後のスチルを完成させたら、詰んだんですけど
mios
恋愛
「これでスチルコンプリートだね?」
愛しのジークフリート殿下に微笑まれ、顔色を変えたヒロイン、モニカ。
「え?スチル?え?」
「今日この日この瞬間が最後のスチルなのだろう?ヒロインとしての感想はいかがかな?」
6話完結+番外編1話
王太子殿下の拗らせ婚約破棄は、婚約者に全部お見通しです
星乃朔夜
恋愛
王太子殿下が突然の“婚約破棄宣言”。
しかし公爵令嬢アリシアの返答は、殿下の想像の斜め上だった。
すれ違いからはじまる、恋に不器用な王太子と
すべてお見通しの婚約者の、甘くて可愛い一幕。
【短編】男爵令嬢のマネをして「で〜んかっ♡」と侯爵令嬢が婚約者の王子に呼びかけた結果
あまぞらりゅう
恋愛
「で〜んかっ♡」
シャルロッテ侯爵令嬢は婚約者であるエドゥアルト王子をローゼ男爵令嬢に奪われてしまった。
下位貴族に無様に敗北した惨めな彼女が起死回生を賭けて起こした行動は……?
★他サイト様にも投稿しています!
★2022.8.9小説家になろう様にて日間総合1位を頂きました! ありがとうございます!!
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
いつか彼女を手に入れる日まで〜after story〜
月山 歩
恋愛
幼い頃から相思相愛の婚約者がいる私は、医師で侯爵の父が、令嬢に毒を盛ったと疑われて、捕らえられたことから、婚約者と結婚できないかもしれない危機に直面する。私はどうなってしまうの?
「いつかあなたを手に入れる日まで」のその後のお話です。単独でもわかる内容になっていますが、できればそちらから読んでいただけると、より理解していただけると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる