伯爵夫人はやられた分だけきっちりやり返す

こじまき

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葬られる前に葬ってやります

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結論から言って、御者が丁寧に調べたところ、思った通りに馬車の異常は人為的だった。伯爵邸の馬車に近づけるのは使用人か主人だけ。

使用人たちがみな私のことを慕っているとするなら、犯人は必然的にアーヴィングとなる。

「彼が私を殺そうとしているのなら、葬られる前に葬らないとね」

わざわざ「ファルマス伯爵領に行く」という予定を知らせて、彼が「馬車の事故に見せかけて私を殺せるかもしれない」と思うように仕向けたのは、私かもしれない。けれどそれに乗って行動を起こしてしまったのは彼だ。

「殺したい」と思っているだけなら害はない。けれど、行動には行動でお返しを。

ここが王族や官僚にも金を貸し、王宮の財務官僚とも懇意にしている父のコネの使いどころ。

私は「一度お願いを聞いてくれたら、あとは何も言わない」と父に頼み、アーヴィングに王宮財務官の職を用意した。王宮財務官になるのは狭き門だから、アーヴィングは鼻高々だ。

という情報は、コネを使わず正攻法で試験を受け、狭き門を首席合格で突破して王宮財務官になったハリスが教えてくれた。

「ハリス、アーヴィングを見張っていてね。彼は絶対に手を出すわ」
「ああ」

借金で首が回らなくなり、質の悪い金貸しに追いかけ回されている彼。王宮財務官は高給取りの部類だが、借金の利率が高すぎるから、給料だけで足りるわけがない。

彼はきっと、国庫に手を出す。

今か今かと待っていると、ようやくアーヴィングが国庫に手を付けたという知らせが届いた。実際にお金を持ち出す前に、ハリスが彼を押さえつけて、近衛兵に引き渡したと。

父はアーヴィングのクズっぷりに呆れて私とアーヴィングの離婚を許可し、私はサマーズ男爵令嬢に戻った。

男爵邸の私室で紅茶を飲みながら、慣れ親しんだ芳醇な香りに微笑む。

「美味しいわ。いい気分で飲むから余計に」
「そうだね」

私の向かいにはハリス。

彼はアーヴィングの不正に気づいて阻止した功績で二階級特進。アーヴィングを無理やり財務官にした父は、信用を取り戻すためには清廉潔白なハリスを娘婿にするのが得策と踏み、私と彼の結婚を認めた。

「君が来てくれるのだから、タウンハウスを改修したいな。あまりにボロボロで、あんなところに君を迎えるのは気が引けるよ」
「ゆっくりやりましょう。見栄を張る必要はないわ。人間の誇りは、そんなところには宿らないもの」
「そうだね」

私の誇りは、理不尽を我慢しないこと。やられたら、やられただけやり返すこと。

ハリスの誇りは、現状を諦めないこと。目標に向かってひたむきに努力を続けること。

誇りと言えば、「ボルトン伯爵」としての誇りにこだわっていたアーヴィングは、今ごろ牢の中で、誇りでも噛んで飢えをしのいでいる頃かしら。

私はくすっと笑って、もう一杯紅茶を淹れた。
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