異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

文字の大きさ
42 / 84

42 無防備な彼

しおりを挟む
「コーヒーはサティ殿と飲むのがいいんだ」
「…そうですか」

保護者さんに心を許してもらえるのはありがたい。

気分が良くなった私は、すっとアロイスさんのほうにお皿を押した。

「良かったらこちらもどうぞ」
「これは?」
「ドーナツです。マグダレーナ先生の手前、私はフォークとナイフで食べてますが、正式な食べ方は手づかみです」
「そうか。ならば手でいただこう」

アロイスさんは「美味い。コーヒーと合うな」と言いながら、ぱくぱくっとドーナツを平らげる。「手を拭くものをもらってきますね」と席を立って戻ってきたら、アロイスさんは座ったまま寝息を立てていた。

「ええ!?今の今まで喋ってたのに?」

給食後の三歳児さんでも、もう少し粘るのに。

「それにしてもビジュがいいな。寝顔にも隙がない」

だけど濃い金色がさらりとかかる目の下には、クマがこんにちは。国王になったんだもん。寝る暇すらないくらいのかもしれないし、プレッシャーでうまく眠れてないのかもしれない。

「こんなに疲れてる人に…レオくんのこと、厳しく言い過ぎたかな」

「陛下が眠ってしまわれたので、ブランケットをお願いできますか」と頼むと、マグダレーナ先生は目を丸くした。

「陛下が寝たですって!?」

そんなに驚くこと?人間だもん、そりゃ寝ますよ。

「サティ様、まさか薬でも盛ったのですか?」
「なっ…!?そんなことするわけないじゃないですか!」

マグダレーナ先生は「そうよね、陛下なら飲み物に混ぜられた毒に気付かないはずもないし…」とぶつぶつ言っている。

「けれどやはり、国王陛下が人前で寝るなどありえません。陛下は第三王子時代に戦場の最前線にいることが多かったので警戒心が野生動物並みで、人前で無防備な姿をさらされることなどないのです」
「じゃあ”あれ”は狸寝入りなんですかね?」

マグダレーナ先生は「あれ」こと「座ったまま寝ているアロイスさん」を見、彼の顔の前で手をひらひらと振り、ますます目を丸くした。

「明日は雪が降るかもしれない。上着と毛布を出しておかないと凍死…!!」
「うん…とりあえずブランケットお願いできます?」
「…かしこまりました」

私がブランケットを受け取ってそっとアロイスさんにかけると、マグダレーナ先生はまた小さく声をあげた。

「寝ているときに触れられても起きないなんて」
「ぐっすり寝てたら、ブランケットをかけられるくらいで起きることはないと思いますけど」
「普通の人間でしたらそうでしょうけれど、陛下は普通ではないので。サティ様には相当気を許しているということですわ」
「そうなんですかね…?」

とりあえず、ぐっすり眠れるのがアロイスさんにとって珍しいことなら、すぐ起こすのはもったいない。しばらくここで寝てもらうことにする。

アロイスさんが寝ている横で、私はブルーノ先生が貸してくれた歴史の本を読む。異世界の歴史書は、ファンタジー小説を読んでいるみたい。つまりはこれは勉強ではなく娯楽。

ページが擦れる音と、「創造神さんには妹がいたんだ」とかいう私の呟きと、アロイスさんの穏やかな寝息だけが優しく流れていく。

どれくらい時間が経っただろう。忍者のようにするすると現れたマグダレーナ先生が「陛下は次の予定があるそうです。侍従が迎えに来ました」と私に耳打ちした。

気持ちよさそうに寝ているところ申し訳ないけど、私はアロイスさんに小声で呼びかける。

「アロ…陛下、起きてください」
「…」
「陛下、次の予定があるそうですよ」
「…」

起きない。

彼の肩を揺すろうとしたら、マグダレーナ先生が「危ない」と私を制した。先生が「陛下」とアロイスさんの肩にちょっと触れたら、次の瞬間にはアロイスさんはマグダレーナ先生を床に押し倒していた。

動体視力が追いつかない。

アロイスさんは荒い息を吐きながら、床にうつぶせになったマグダレーナ先生の背中を膝で押さえつけ、彼女の腕をねじり上げている。つまり「目にも止まらぬ早さで、先生の手を掴んで、彼女をうつぶせにして床に押し倒した」ということになる。

「マグダレーナ、何してる?」
「陛下に押さえつけられております。どうかお手をお放しください。手首が折れます」
「私に触れるからだ」

アロイスさんは服と息を整えながら、「私は寝ていたのか?珍しいな」と、すっと立ち上がった。

マグダレーナ先生も「珍しいどころか、人前でお眠りになるなど、私が知る限りでは初めてです」と、手首をさすりながら起き上がる。

「妙にすっきりする」というアロイスさんに、私は戸惑いながら「コーヒーを飲んでから短時間昼寝すると、頭がすっきりするので。パワーナップっていうライフハックのひとつで…」と説明した。海外ドラマの潜入工作員みたいな戦闘能力を見せつけられた直後に、そんなのんきな説明してるのも、意味わかんないけど。

「そうか。やはりコーヒーは最高の飲み物だな」

「はあ、そうですね…」なんて間抜けな返事をする私に、「また飲みに来る」と言い残して、アロイスさんは足取り軽く去って行った。

「先生、手首は大丈夫ですか?かなりひねられていたように見えましたけど…」
「このくらいなら慣れているので何ともありません。ご心配に感謝いたします、サティ様」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放された地味探索者、実は隠された伝説級スキルの持ち主でした~気付いたら無自覚に最強ハーレムを築いていた件~

fuwamofu
ファンタジー
地味で目立たない探索者アレンは、仲間に「足手まとい」と罵られパーティを追放された。だが実は彼のスキル【探索眼】は、古代英雄の力を見抜く唯一の能力だった! 鉱山の奥で偶然出会った少女を救ったことから、運命が動き出す。 魔王軍、古代遺跡、神々の争い——すべての鍵を握るのは「ただの探索者」だった男。彼は気付かぬうちに、世界を救い、そして多くの少女たちの心をつかんでいく。 地味だけど最強、無自覚だけどモテまくり。これは世界を変えた謙虚な英雄の物語である。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜

あいみ
ファンタジー
亡き祖父母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。 困っている人がいればすぐに駆け付ける。 人が良すぎると周りからはよく怒られていた。 「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」 それは口癖。 最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。 偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。 両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。 優しく手を差し伸べられる存在になりたい。 変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。 目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。 そのはずだった。 不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……? 人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...