43 / 84
43 ママ友会
しおりを挟む
「サティ様、本日のお召し物はこちらでございます」
マグダレーナ先生とイヴォンさんが部屋に運んでくれたドレスに、私は「わ」と目を丸くした。
いつもは外遊びしやすいように締め付けが少なく、汚れても目立ちにくい色の濃いドレスを着てるけど、今日のドレスは全く違う。
水色を貴重にした、軽やかだけど軽すぎない印象のドレス。嫌味にならない程度に宝石も縫い付けられている。
「高そう…」
「ええ、控えめに申し上げて大変高価です。本日はサティ様風に申しますと”ママ友会”でございますから、貴婦人の前でサティ様のご威光を示す必要がございますので」
そう。今日は貴族の奥様&息子くんたちとのママ友会。
レオくんが王城に帰ってきたことで、彼と同年代の子どもをもつ貴族たちは「我が子を王太子殿下の側近に」あるいは「将来の王妃に」と盛り上がっている。
アロイスさんから「家柄である程度選抜したので、レオの側に置くに足りるかをサティ殿の目でも見てくれ」と頼まれたので、今日は側近候補になっている男の子たちを招き、レオくんと遊んでもらうことにしたのだ。
「威光なんてどう頑張っても出せないんですけど」
「馬子にも衣裳です。サティ様からは出なくても、ドレスから威光が出ます」
「先生、はっきり言いますね」
でも嫌な気はしない。過度に期待されるほうが、気が重い。私が「気を軽くしてくれて、ありがとうございます」とお礼を言うと、先生はほんの少し口角を上げた。
イヴォンさんが私の黒髪を緩やかなシニヨンに結い上げ、仕上げにスターサファイアをあしらった繊細なバレッタを飾ってくれる。そしたら見事、「国王と王太子からの信頼厚い養育係」の完成だ。
「お似合いです」
「…そうですね」
自分でも素直にそう思ってしまうくらい、意外なほどよく似合っている。
「先生が見立ててくださったんですよね?ありがとうございます」
「お礼でしたら陛下に」
「陛下が?」
養育係である私が貴婦人たちから馬鹿にされちゃいけないと思って、アロイスさんが気をつかってくれたんだろう。ありがたい。
「サティ、すっごくきれい」と自己肯定感を高めてくれるレオくんと手を繋いで、花が咲き乱れる庭にしつらえられた、ママ友会の会場へ。
私たちが庭に出ると、すでに集合していた貴婦人&貴族令息たちはすっと立ち上がってお辞儀をした。全員姿勢がよくて、しかもそれが付け焼刃じゃないことがわかる。
こんなナチュラルボーン・ノーブルな人たちに、ナチュラルボーン・庶民な私がどうやって接しろと言うんだ。珍獣が神獣の縄張りに迷い込んだ感がすごいんだが。
思わず身体を硬くしたら、レオくんが手をきゅっと握り直してくれた。私は彼に「ありがと」と笑いかけてすうっと息を吸い、彼女たちに声をかける。
「来てくださってありがとうございます。どうかかしこまらないでください。このお茶会はテストではありません。ただ子どもたちが仲良くなってくれる機会にしたいんです」
決して悪い挨拶じゃなかったと思うけど、「ありがとうございます、サティ様」と、絶対ありがたく思っていない声で答えが返ってくる。貴婦人たちにとって、私は格下も格下なのだから仕方ないけれど。
「養育係のサティ?なんぼのもんじゃい」という心の声が聞こえそう。
俯きそうになった瞬間に、アロイスさんの「養育係はサティ殿の思うとおりにやってくれればいい。責任はサティ殿を任命した私にあるから」という声が蘇って、私は顔を上げた。
そうだよ。私は貴婦人じゃないし、なれもしない。それをわかってて連れてきたのはアロイスさんだ。だったら「ノーブル系ママさん」に怖気づいて、自分を曲げる必要なんてない。
私はパチンと手を合わせ、できるだけ明るい声を出した。そう、保育園の先生らしく。
「というわけなので、子どもたちは自由に遊ばせましょう!」
貴婦人たちは「どういうこと?」と顔を見合わせる。子どもの賢さやマナーをアピールする気満々でやって来たお茶会で、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
「レオくん、みんなに遊具の使い方を教えてあげて」
「わかった」
「危ないことはしちゃだめで、使いたい子が何人かいたら順番だからね」
「わかってるよ。いつもクリスタと順番に使ってるもん」
レオくんがみんなに「遊ぼう」と声をかけると、子どもたちはそれぞれに母親の顔色を伺い、「早く行きなさい」「くれぐれも王太子殿下に失礼のないように」などと促されて、遊び場に出た。
ママ友会のテーブルがしつらえられている隣には、アロイスさんに頼んで作ってもらった遊び場があって、ブランコ、鉄棒、滑り台が完備されている。
「砂場には人生が詰まっている」という園長先生の言葉を思い出し、砂場も設置。「砂場用にカップやスコップがほしい」とお願いしたら銀の道具が出てきたときは驚愕したけど、プラスチックという便利な素材がないから仕方ない。前の世界からプリンのカップとかお弁当箱とか持ってこられたらよかったのに。
子どもたちが遊び始めたのを確認して、私は貴婦人の皆さんとお茶を囲む。
「まずは自己紹介させてください。レオンハルト王太子殿下の養育係としてまいりました、ベルント伯爵家のサティ・キムラ・フォン・ベルントです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、もとはベルント伯爵領のりんご農家です」
「平民風情が」という冷たい視線が、扇子の奥から私を刺す。
ひときわ華やかな貴婦人が、ぱちりと扇子を閉じた。
マグダレーナ先生とイヴォンさんが部屋に運んでくれたドレスに、私は「わ」と目を丸くした。
いつもは外遊びしやすいように締め付けが少なく、汚れても目立ちにくい色の濃いドレスを着てるけど、今日のドレスは全く違う。
水色を貴重にした、軽やかだけど軽すぎない印象のドレス。嫌味にならない程度に宝石も縫い付けられている。
「高そう…」
「ええ、控えめに申し上げて大変高価です。本日はサティ様風に申しますと”ママ友会”でございますから、貴婦人の前でサティ様のご威光を示す必要がございますので」
そう。今日は貴族の奥様&息子くんたちとのママ友会。
レオくんが王城に帰ってきたことで、彼と同年代の子どもをもつ貴族たちは「我が子を王太子殿下の側近に」あるいは「将来の王妃に」と盛り上がっている。
アロイスさんから「家柄である程度選抜したので、レオの側に置くに足りるかをサティ殿の目でも見てくれ」と頼まれたので、今日は側近候補になっている男の子たちを招き、レオくんと遊んでもらうことにしたのだ。
「威光なんてどう頑張っても出せないんですけど」
「馬子にも衣裳です。サティ様からは出なくても、ドレスから威光が出ます」
「先生、はっきり言いますね」
でも嫌な気はしない。過度に期待されるほうが、気が重い。私が「気を軽くしてくれて、ありがとうございます」とお礼を言うと、先生はほんの少し口角を上げた。
イヴォンさんが私の黒髪を緩やかなシニヨンに結い上げ、仕上げにスターサファイアをあしらった繊細なバレッタを飾ってくれる。そしたら見事、「国王と王太子からの信頼厚い養育係」の完成だ。
「お似合いです」
「…そうですね」
自分でも素直にそう思ってしまうくらい、意外なほどよく似合っている。
「先生が見立ててくださったんですよね?ありがとうございます」
「お礼でしたら陛下に」
「陛下が?」
養育係である私が貴婦人たちから馬鹿にされちゃいけないと思って、アロイスさんが気をつかってくれたんだろう。ありがたい。
「サティ、すっごくきれい」と自己肯定感を高めてくれるレオくんと手を繋いで、花が咲き乱れる庭にしつらえられた、ママ友会の会場へ。
私たちが庭に出ると、すでに集合していた貴婦人&貴族令息たちはすっと立ち上がってお辞儀をした。全員姿勢がよくて、しかもそれが付け焼刃じゃないことがわかる。
こんなナチュラルボーン・ノーブルな人たちに、ナチュラルボーン・庶民な私がどうやって接しろと言うんだ。珍獣が神獣の縄張りに迷い込んだ感がすごいんだが。
思わず身体を硬くしたら、レオくんが手をきゅっと握り直してくれた。私は彼に「ありがと」と笑いかけてすうっと息を吸い、彼女たちに声をかける。
「来てくださってありがとうございます。どうかかしこまらないでください。このお茶会はテストではありません。ただ子どもたちが仲良くなってくれる機会にしたいんです」
決して悪い挨拶じゃなかったと思うけど、「ありがとうございます、サティ様」と、絶対ありがたく思っていない声で答えが返ってくる。貴婦人たちにとって、私は格下も格下なのだから仕方ないけれど。
「養育係のサティ?なんぼのもんじゃい」という心の声が聞こえそう。
俯きそうになった瞬間に、アロイスさんの「養育係はサティ殿の思うとおりにやってくれればいい。責任はサティ殿を任命した私にあるから」という声が蘇って、私は顔を上げた。
そうだよ。私は貴婦人じゃないし、なれもしない。それをわかってて連れてきたのはアロイスさんだ。だったら「ノーブル系ママさん」に怖気づいて、自分を曲げる必要なんてない。
私はパチンと手を合わせ、できるだけ明るい声を出した。そう、保育園の先生らしく。
「というわけなので、子どもたちは自由に遊ばせましょう!」
貴婦人たちは「どういうこと?」と顔を見合わせる。子どもの賢さやマナーをアピールする気満々でやって来たお茶会で、そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
「レオくん、みんなに遊具の使い方を教えてあげて」
「わかった」
「危ないことはしちゃだめで、使いたい子が何人かいたら順番だからね」
「わかってるよ。いつもクリスタと順番に使ってるもん」
レオくんがみんなに「遊ぼう」と声をかけると、子どもたちはそれぞれに母親の顔色を伺い、「早く行きなさい」「くれぐれも王太子殿下に失礼のないように」などと促されて、遊び場に出た。
ママ友会のテーブルがしつらえられている隣には、アロイスさんに頼んで作ってもらった遊び場があって、ブランコ、鉄棒、滑り台が完備されている。
「砂場には人生が詰まっている」という園長先生の言葉を思い出し、砂場も設置。「砂場用にカップやスコップがほしい」とお願いしたら銀の道具が出てきたときは驚愕したけど、プラスチックという便利な素材がないから仕方ない。前の世界からプリンのカップとかお弁当箱とか持ってこられたらよかったのに。
子どもたちが遊び始めたのを確認して、私は貴婦人の皆さんとお茶を囲む。
「まずは自己紹介させてください。レオンハルト王太子殿下の養育係としてまいりました、ベルント伯爵家のサティ・キムラ・フォン・ベルントです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、もとはベルント伯爵領のりんご農家です」
「平民風情が」という冷たい視線が、扇子の奥から私を刺す。
ひときわ華やかな貴婦人が、ぱちりと扇子を閉じた。
65
あなたにおすすめの小説
追放された地味探索者、実は隠された伝説級スキルの持ち主でした~気付いたら無自覚に最強ハーレムを築いていた件~
fuwamofu
ファンタジー
地味で目立たない探索者アレンは、仲間に「足手まとい」と罵られパーティを追放された。だが実は彼のスキル【探索眼】は、古代英雄の力を見抜く唯一の能力だった!
鉱山の奥で偶然出会った少女を救ったことから、運命が動き出す。
魔王軍、古代遺跡、神々の争い——すべての鍵を握るのは「ただの探索者」だった男。彼は気付かぬうちに、世界を救い、そして多くの少女たちの心をつかんでいく。
地味だけど最強、無自覚だけどモテまくり。これは世界を変えた謙虚な英雄の物語である。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~
八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか)
平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。
明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。
その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。
しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!
966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」
最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。
この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。
錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる