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80 テオくんの本音
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クロに乗りながら、テオくんは私を支えてくれる。胸板硬いし、後ろから抱え込むように回されて手綱を取っている腕も太い。まだ十五歳だけど、それでも小屋にいたときとは明らかに違う。
彼は確実に大人の階段を上っている。
「テオくん、ごめんね」
「何が?悪いのはあの人攫いだろ」
「そうじゃなくて、弟扱いしてたこと」
あなたは魔法師団の団長で、レイデンバーン最強の火魔法使い。正直私よりずっと逞しいし、頼れる。子ども扱いが嫌になるのは当然だよ。それなのに子ども側に引き止めようとした私が悪い。
「テオくんが誕生日を祝いに来てくれて、なんとなく仲直りしたみたいな感じになってたけど、ちゃんと謝れてなかったじゃない?」
私は身をよじって振り返り、テオくんの赤い目を見る。子どもたちに散々教えてきたとおり、相手の目を見て謝らないとね。
「本気で嫌がってるって思ってなくてごめん。魔法師団のことも反対してごめん。今は心から応援してるし、過去はやり直せないけど反省してるし、レオくんやクリスタちゃんに対しては同じことを繰り返さない。それにこれからはテオくんのことも弟扱いしないから、許してほしいの」
「そのことか」
テオくんはふっと息を吐いた。
「弟扱いが嫌だったのは、サティが思ってるような理由からじゃない。だからサティが謝る必要はない」
私が思っている理由以外に、どんな理由があると?
聞いていいものなのだろうか。無言の時間が流れる。
「前向いてくれ。顔見たままじゃ言えない」
私が前を向くと、テオくんはふっと息を吐いた。
「サティと出会って初めて知ったことが、いっぱいある。乾いてるベッドで寝られて、温かい飯がおかわりできる生活があるんだってこと。熱を出したらりんご粥が出てきて、夜は何度も熱が下がってるか確認してもらえるってこと。それが心配してもらえるってことで、心配してくれるのは家族として愛してくれてるからだってこと」
そうだよ、私はあなたを愛してる。それに愛されていることも知っていてほしかった。
私の気持ちはちゃんと伝わってた。泣きそう。
「部屋を片付けろだの、ハンカチ忘れるなだの、学校からの手紙はその日にうちに出せだのって小言言われるのはうっとうしいけど、それも家族だからなんだって」
「うん…」
「だけど家族とか弟とかじゃ、満足できなくなったんだ」
私たち二人を囲む空気が一気に湿度を増したように感じる。
「サティに男として見られたいって思うようになったんだ。魔法師団で手に入れたかったのは、男としてサティの隣に立つ資格だよ」
つまり彼は私を女性として見ていて、弟と姉ではなく男性と女性として向き合いたいと思っていて、そのために魔法師団に入ったの?
十歳も年下の男の子が、私なんかのために、そんな大きな決断をしたの?
私は無神経にもその気持ちに気付いてなかったばかりか、気持ちを知った今でも応えられないっていうのに。
「テオくん…」
名前を呼んではみるけど、なんて続けたらいいんだろう。また告白を断らないといけない。
それも「どーでもいい相手」なんかじゃない、家族みたいに大切な相手からの告白を。
辛い。でも保留にはできない。宙ぶらりんにしたらお互いにもっと辛いってわかるから。
「私ね…」
「わかってる。マリウスおじさんのことが好きなんだよな」
「うん、応えられなくてごめんね。ってなんで知ってるの!?」
思わず身をよじったら、ぐらりとバランスを崩す。
「危ないって」
落ちそうになったのを、テオくんとクロの連係プレーで元に戻してくれた。
「レオとクリスタに聞いたよ。サティがマリウスおじさんのために陛下のプロポーズを断ったって言いながら、大泣きしてたって」
あまりに事実すぎる。
「…まだ前に進めそうにないの。だから気持ちには答えられない。ごめん」
「いいんだ。それに今は魔法師団で他にやりたいこともできたからな」
「やりたいこと?」
「仲間たちが自分らしく生きる道を見つける手伝い」
すっかり低くなって落ちついた彼の声。
「素敵だね」
テオくんはクロのうえできゅっと私との距離をつめた。私は身を硬くする。彼の体温に包まれて、自分の体温も上がってくるのがわかる。
「テ、オくん…!?」
「危ないから」
「ひ…っ!?」
クロが急に旋回して、私はテオくんに支えてもらって何とか姿勢を維持する。
ただただ、ほんとに危なかっただけだった。上空の逃げられない空間で距離を縮められそうになってると誤解した自分が恥ずかしい。
「あ、ありがと」
王城が見えてきた。イヴォンさんが泣きながら手を振っているのが見えて、私も「イヴォンさーん!」と手を振り返す。
「イヴォンが全速力で走って魔法師団に連絡してくれて、早めに捜索を開始できた。マグダレーナは海のルートを追ってるが、知らせを受けたらすぐに帰ってくるだろう」
「せっかくのお出かけだったのに、ものすごく迷惑かけちゃった」
二人の貴重な有給休暇をめちゃくちゃにしちゃって、謝らないとな。
「サティ」
「うん?」
「…いや、やっぱりいい」
「俺はずっと待ってる」という呟きが、クロが地上に降り立つ音にかき消された。
彼は確実に大人の階段を上っている。
「テオくん、ごめんね」
「何が?悪いのはあの人攫いだろ」
「そうじゃなくて、弟扱いしてたこと」
あなたは魔法師団の団長で、レイデンバーン最強の火魔法使い。正直私よりずっと逞しいし、頼れる。子ども扱いが嫌になるのは当然だよ。それなのに子ども側に引き止めようとした私が悪い。
「テオくんが誕生日を祝いに来てくれて、なんとなく仲直りしたみたいな感じになってたけど、ちゃんと謝れてなかったじゃない?」
私は身をよじって振り返り、テオくんの赤い目を見る。子どもたちに散々教えてきたとおり、相手の目を見て謝らないとね。
「本気で嫌がってるって思ってなくてごめん。魔法師団のことも反対してごめん。今は心から応援してるし、過去はやり直せないけど反省してるし、レオくんやクリスタちゃんに対しては同じことを繰り返さない。それにこれからはテオくんのことも弟扱いしないから、許してほしいの」
「そのことか」
テオくんはふっと息を吐いた。
「弟扱いが嫌だったのは、サティが思ってるような理由からじゃない。だからサティが謝る必要はない」
私が思っている理由以外に、どんな理由があると?
聞いていいものなのだろうか。無言の時間が流れる。
「前向いてくれ。顔見たままじゃ言えない」
私が前を向くと、テオくんはふっと息を吐いた。
「サティと出会って初めて知ったことが、いっぱいある。乾いてるベッドで寝られて、温かい飯がおかわりできる生活があるんだってこと。熱を出したらりんご粥が出てきて、夜は何度も熱が下がってるか確認してもらえるってこと。それが心配してもらえるってことで、心配してくれるのは家族として愛してくれてるからだってこと」
そうだよ、私はあなたを愛してる。それに愛されていることも知っていてほしかった。
私の気持ちはちゃんと伝わってた。泣きそう。
「部屋を片付けろだの、ハンカチ忘れるなだの、学校からの手紙はその日にうちに出せだのって小言言われるのはうっとうしいけど、それも家族だからなんだって」
「うん…」
「だけど家族とか弟とかじゃ、満足できなくなったんだ」
私たち二人を囲む空気が一気に湿度を増したように感じる。
「サティに男として見られたいって思うようになったんだ。魔法師団で手に入れたかったのは、男としてサティの隣に立つ資格だよ」
つまり彼は私を女性として見ていて、弟と姉ではなく男性と女性として向き合いたいと思っていて、そのために魔法師団に入ったの?
十歳も年下の男の子が、私なんかのために、そんな大きな決断をしたの?
私は無神経にもその気持ちに気付いてなかったばかりか、気持ちを知った今でも応えられないっていうのに。
「テオくん…」
名前を呼んではみるけど、なんて続けたらいいんだろう。また告白を断らないといけない。
それも「どーでもいい相手」なんかじゃない、家族みたいに大切な相手からの告白を。
辛い。でも保留にはできない。宙ぶらりんにしたらお互いにもっと辛いってわかるから。
「私ね…」
「わかってる。マリウスおじさんのことが好きなんだよな」
「うん、応えられなくてごめんね。ってなんで知ってるの!?」
思わず身をよじったら、ぐらりとバランスを崩す。
「危ないって」
落ちそうになったのを、テオくんとクロの連係プレーで元に戻してくれた。
「レオとクリスタに聞いたよ。サティがマリウスおじさんのために陛下のプロポーズを断ったって言いながら、大泣きしてたって」
あまりに事実すぎる。
「…まだ前に進めそうにないの。だから気持ちには答えられない。ごめん」
「いいんだ。それに今は魔法師団で他にやりたいこともできたからな」
「やりたいこと?」
「仲間たちが自分らしく生きる道を見つける手伝い」
すっかり低くなって落ちついた彼の声。
「素敵だね」
テオくんはクロのうえできゅっと私との距離をつめた。私は身を硬くする。彼の体温に包まれて、自分の体温も上がってくるのがわかる。
「テ、オくん…!?」
「危ないから」
「ひ…っ!?」
クロが急に旋回して、私はテオくんに支えてもらって何とか姿勢を維持する。
ただただ、ほんとに危なかっただけだった。上空の逃げられない空間で距離を縮められそうになってると誤解した自分が恥ずかしい。
「あ、ありがと」
王城が見えてきた。イヴォンさんが泣きながら手を振っているのが見えて、私も「イヴォンさーん!」と手を振り返す。
「イヴォンが全速力で走って魔法師団に連絡してくれて、早めに捜索を開始できた。マグダレーナは海のルートを追ってるが、知らせを受けたらすぐに帰ってくるだろう」
「せっかくのお出かけだったのに、ものすごく迷惑かけちゃった」
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