異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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79 助けに来てくれたのは

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「勝てなくてもやるの!」

私は「いいとこのお嬢さん」が相手だと思って油断している男に、思い切り足を振り上げる。

そんな私が履いているのは、見ているだけで外反母趾になりそうなくらいつま先の尖ったハイヒール。イヴォンさんが選んでくれたものだ。

《私、こういうのは履きなれていなくて…いつものフラットシューズじゃだめですか?》

《せっかくのお出かけですもの、ぜひドレスと揃いで作られた靴をお召しになってくださいませ。馬車移動がほとんどで、ウィンドウショッピングのときくらいしか歩きませんし》

そう押し切られて「やっぱりちょっと痛いし歩きにくいんだけど」と思いつつ履いてた靴だけど、今はイヴォンさんに感謝だ。

「凶器として使えるからね!」

私は男の急所にハイヒールをお見舞いし、声もなくうずくまる男を荷台に残し、エルマちゃんを「おまたせ」と抱き上げて飛び降りる。

でも、ここからどうする?

森に逃げ込んだ子どもたちはきっとばらばらになっていて、どこにいるかわからない。力を使い果たしたエルマちゃんを置いて子どもたちを探すのは危ない。そもそも子どもたちを全員見つけたところで、王都まで無事に帰れるかどうか。

「転生者ひとりで誘拐事件を解決するのは、難しすぎる」

そう呟いた瞬間に、「このアマが…!!」とポニーテールを引っ張られた。

「ぐっ…」
「俺の俺が使い物にならなくなったらどうしてくれんだ!」
「それは自業自得でしょ!」
「こんの…あ、熱っ!?」

エルマちゃんが力を振り絞って男の腕に火傷を負わせ、手が離れた瞬間に私は走る。でもハイヒールじゃ走りにくい。あっけなくドレスにつまずいて転んで、エルマちゃんを抱きしめるしかできない。

「くそが…本気で怒ったからな」

ああ、もうだめかもしれない。

エルマちゃんは頑張ってみんなと私と助けようとしてくれてるのに、大人である私が彼女を守れないなんて。

「ごめんね、エルマちゃん」

なんで私には子どもを守る力がないの。嫌だ、こんなの。なんでもっとチートじゃなかったの。

「サティ、伏せろ!」

誰?どこから?

考えてる暇なんかない。私はとっさにエルマちゃんに覆いかぶさって伏せる。シュンと何かが横を通り過ぎる音がして悲鳴が聞こえて、怖々目を開けたら、馬車は燃え盛り、男は火に炙られて転げまわっていた。

テオくんがクロから飛び降りるのが、スローモーションみたいに映る。

助かった。助けに来てくれた。魔法師団長テオくんが。

心の奥底で「マリウスさんじゃないけど」なんて思ってしまうのが申し訳ない。

テオくんは熱い手で、私の顔を触って確認した。

「ケガは?」
「大丈夫」

テオくんの赤い目が、ビリビリのドレスに止まる。

「なんでドレスが破かれてる?」

彼の顔が険しくなって、男を取り巻いている炎が勢いを増す。

「あの男に何かされたか?」
「目印を残そうと思って自分で破いたの。こ、殺さないで」

男の周りから炎が消えた。

子どもを攫って売りさばくだなんて最悪だし死んで当然だって思うけど、「テオくんに殺させたくはない」と思ってしまうのは我が儘だろうか。

「私は大丈夫だからこの子を見てあげて。あとね、森の中にもう一人の人攫いと、逃げてる子どもたちが十一人いるの。子どもたちを探して助けないと」

テオくんは「団長!クロ!いくら何でも飛ぶのが早すぎますよ」と息を切らせて空を飛んできた風魔法使いさんに、「森の中を捜索しろ。大人は捕らえて子どもは保護だ」とシンプルな指示をした。「大人は生きてても死んででも構わない」って補足したのが物騒すぎるけど、聞こえないふりをする。

ああテオくん、いつの間にそんな冷たい言葉をさらっと口に出せるようになったの。山に棲んでる暗殺一家のママみたいに震えてしまうわ。

「魔力を使い切って疲れてるんです」と説明してエルマちゃんを魔法使いさんに預け、テオくんに手をとってもらって立ち上がる。

「い…っ!?」

左の足首がびっくりするくらい痛い。こけたときに捻挫したんだろう。アドレナリンが出てて気づいてなかっただけで、気づいてしまったらめちゃくちゃ痛い。捻挫って、捻挫したことがない人が想像してる百倍くらい痛いからね。

「うおおぅ…」
「腫れてるな」
「うん。ああああ…ちょ、ちょっと待ってね」

「できるだけ痛くなく歩くコツ」を見つけるまで、動きたくない。

「悪いんだけど左側を支えてもらっていい?って、ふわ…っ!?」

テオくんが私を抱き上げた。いわゆる「姫抱っこ」ってやつ。捻挫したら患部を心臓より高く上げなきゃなので、理に適っている。けれど。

「大丈夫?重くない?」
「軽すぎるくらいだ」

「軽すぎるくらい」って言葉が強がりに聞こえないくらいにがっしりしてて、私を抱き上げても息ひとつ切らさずに平然としてる。いつの間に。

しかもこのシチュエーションってもう、ヒーローがヒロインを助けに来てくれたばりの感じ。

じゃあもう一人の旦那様候補ってテオくんなの?

いやいや待て、冷静になれ。十歳も年下の男の子だってば。いきなり旦那様候補にしちゃうとか吊り橋候補がすぎるし、今の年齢だと普通に犯罪。

「クロ、城まで急ぎで頼む」

私ははっと我に返る。こんな煩悩にまみれてる場合じゃない。

「待って!子どもたちは…」
「大丈夫だ。魔法師団は優秀だから全員探し出して王都まで連れ帰るよ」
「それだけじゃだめなの。元の生活に戻してもまた同じことが起こる。だから全員私のところに連れてきてほしくて…」

テオくんが捜索担当の魔法使いさんに目をやる。

「了解しました」

「頼んだ」というテオくんの言葉と同時に、クロは地面を蹴った。
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