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65 私もずるい
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「言わないでくれ」
震える声。
「私を安心させて休ませてくれる人は、サティ殿しかいない」
いつかマグダレーナ先生もそう言っていた。
国王としてろくに職務に打ち込んで、いつも緊張して熟睡もできなくて。そんな人にそんなこと言われたら、何も言えなくなる。
「どうか猶予をくれ。いつかサティ殿の気持ちが変わるかもしれない。私にも可能性を残してくれ」
救いを求めてすがってくる人を切り捨てる強さは、私にはない。
私の弱さにつけこんでくるアロイスさんはずるい。だけど私はもっとずるい。彼のことを愛しているわけじゃないくせに、嫌われたくもない。他の人を想いながら、彼の手を振りほどこうとしない。「もしかしたら好きになれるかも」って、自分すら騙そうとしてる。
「…わかりました」
そう言うほかに、どう言ったらいいのかわからなかった。
「ありがとう」
お礼を言われる資格なんてない。
食事したのかしてないのかわからないままに自分の部屋に帰って見回したら、部屋にあるすべてのものは、アロイスさんが用意してくれたものだった。
今日贈られたドレスとペリドットも、クローゼットに並ぶドレスも、毎日変わる花瓶の花も、手仕事の彫刻が美しい家具たちも。窓から遠くの山が見える広くて明るいこの部屋そのものも、全部彼の気持ちだったんだと気づいて、泣きたくなる。
何の下心もなしに、ド田舎の平民を王城に連れてきて、こんな待遇を与えてくれるはずなんてなかったんだ。鈍感すぎる、私。
「もらうだけもらって返せないなんて、最っ低」
喉が詰まって、痛い。でも嘘をついたまま彼の気持ちが冷めることを願うのはもっと最低。すでに最低なのにもっと最低とか、日本語おかしいけど。
「やっぱりちゃんと断らないと…っ」
部屋を出ようとしたとき、「サティ!」と大きな声がして、部屋の扉が開いた。宝石みたいにキラキラした、可愛い目が二対。不思議なブラウントルマリンと、透き通ったピンクアメジスト。
私はとっさに「先生の笑顔」を顔に貼り付けて、「どうしたの?」と聞いた。二人に変な顔は見せたくない。
「せーの」と二人が息を合わせる。
「サティ、お誕生日おめでとう!!」
「あ…ありがとう」
二人は左右から抱きしめてくれる。
何も知らない二人に誕生日を祝ってもらって、罪悪感を中和する私は、ますます最低。でも今だけお願い。
「誕生日プレゼント作ったの!」と、クリスタちゃんはワゴンを指さした。カバーのかかった大きなお皿が乗っている。
「サティ、びっくりするかなぁ」と顔を見合わせて、私よりわくわくしている二人。告白なんてなかったかのように、「幼馴染の友達」として仲良くやっているのが微笑ましい。
「見ていいの?」
「うん!早く開けてみて!」
「早く早く!」
何が出てくるか大方予想はつきながらも、私は「何だろう?」と芝居がかった声をあげ、そうっとカバーを持ち上げる。
いちごの乗ったホールケーキがお目見え。
「美味しそうなケーキ!二人が作ってくれたの?」
「そう!二人で!クリームをぐるぐるしたの!ほら、ここのクリームはクリスタが絞ったんだよ!サティがクリーム好きだから、いっぱい絞ったからね」
「僕はここのクリームをきれいに伸ばしたの。ちょっとムラになっちゃったけど…あといちごも乗せたよ」
「上手に作れたね。すごく嬉しい、本当にありがとう」
「ろうそくももらってきたよ!」と、クリスタちゃんが二十五本のろうそくを見せる。
ここはきっと百円ショップの「2」と「5」の形をしたろうそくが活躍するシーン。「ちょっと多いんじゃ…」と言いかけたけど、「クリスタの誕生日にサティがしてくれたみたいにやりたい」と言われて、私は言葉を飲み込んだ。
ケーキに所狭しとろうそくが立てられる。ろうそくが多すぎて「バランスよく刺す」とか言っていられない。苦労しながら刺し終えたらぱちんとろうそくに火がつく。振り返ると、ドアにテオくんがもたれかかっていた。
「テオくん、来てくれたんだ」
団長就任以来距離ができてしまったように感じていたけれど、こうやってお祝いに来てくれて嬉しい。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
私は「子どもたちが幸せになりますように」と願って、五回くらいに分けて二十五本のろうそくをふうっと吹き消す。するとまたぱちんと音がして、全部のろうそくがまたついた。
「へ…?」と私が目を丸くすると、「ふっ」とテオくんが笑って、クリスタちゃんとレオくんは「またついちゃった」とけらけら笑う。
「サティのことだから、どうせ俺たちのことだけ願ったんだろ。自分のこともちゃんと願えよ」
いつの間にそんなかっこいいことが言えるようになったの。山に棲む暗殺一家の奥方様のように、ぷるぷる震えながら感激していいですか。
「…ありがと」
私は「アロイスさんに正直な気持ちを話す勇気をください」と願って、今度はそうっとろうそくを消す。願いを込めた息と一緒に、憂鬱な気持ちが身体の外へ出ていった。
言えそうな気がする。
「サティ、美味しいっ?」
「うん。今まで食べたケーキの中で一番美味しいよ。ありがとう」
レオくんとクリスタちゃんはまた顔を見合わせてにこっとし、「大成功」と手をぱちんと合わせた。
「…本当にありがとね」
ありがとう、私の宝物たち。
震える声。
「私を安心させて休ませてくれる人は、サティ殿しかいない」
いつかマグダレーナ先生もそう言っていた。
国王としてろくに職務に打ち込んで、いつも緊張して熟睡もできなくて。そんな人にそんなこと言われたら、何も言えなくなる。
「どうか猶予をくれ。いつかサティ殿の気持ちが変わるかもしれない。私にも可能性を残してくれ」
救いを求めてすがってくる人を切り捨てる強さは、私にはない。
私の弱さにつけこんでくるアロイスさんはずるい。だけど私はもっとずるい。彼のことを愛しているわけじゃないくせに、嫌われたくもない。他の人を想いながら、彼の手を振りほどこうとしない。「もしかしたら好きになれるかも」って、自分すら騙そうとしてる。
「…わかりました」
そう言うほかに、どう言ったらいいのかわからなかった。
「ありがとう」
お礼を言われる資格なんてない。
食事したのかしてないのかわからないままに自分の部屋に帰って見回したら、部屋にあるすべてのものは、アロイスさんが用意してくれたものだった。
今日贈られたドレスとペリドットも、クローゼットに並ぶドレスも、毎日変わる花瓶の花も、手仕事の彫刻が美しい家具たちも。窓から遠くの山が見える広くて明るいこの部屋そのものも、全部彼の気持ちだったんだと気づいて、泣きたくなる。
何の下心もなしに、ド田舎の平民を王城に連れてきて、こんな待遇を与えてくれるはずなんてなかったんだ。鈍感すぎる、私。
「もらうだけもらって返せないなんて、最っ低」
喉が詰まって、痛い。でも嘘をついたまま彼の気持ちが冷めることを願うのはもっと最低。すでに最低なのにもっと最低とか、日本語おかしいけど。
「やっぱりちゃんと断らないと…っ」
部屋を出ようとしたとき、「サティ!」と大きな声がして、部屋の扉が開いた。宝石みたいにキラキラした、可愛い目が二対。不思議なブラウントルマリンと、透き通ったピンクアメジスト。
私はとっさに「先生の笑顔」を顔に貼り付けて、「どうしたの?」と聞いた。二人に変な顔は見せたくない。
「せーの」と二人が息を合わせる。
「サティ、お誕生日おめでとう!!」
「あ…ありがとう」
二人は左右から抱きしめてくれる。
何も知らない二人に誕生日を祝ってもらって、罪悪感を中和する私は、ますます最低。でも今だけお願い。
「誕生日プレゼント作ったの!」と、クリスタちゃんはワゴンを指さした。カバーのかかった大きなお皿が乗っている。
「サティ、びっくりするかなぁ」と顔を見合わせて、私よりわくわくしている二人。告白なんてなかったかのように、「幼馴染の友達」として仲良くやっているのが微笑ましい。
「見ていいの?」
「うん!早く開けてみて!」
「早く早く!」
何が出てくるか大方予想はつきながらも、私は「何だろう?」と芝居がかった声をあげ、そうっとカバーを持ち上げる。
いちごの乗ったホールケーキがお目見え。
「美味しそうなケーキ!二人が作ってくれたの?」
「そう!二人で!クリームをぐるぐるしたの!ほら、ここのクリームはクリスタが絞ったんだよ!サティがクリーム好きだから、いっぱい絞ったからね」
「僕はここのクリームをきれいに伸ばしたの。ちょっとムラになっちゃったけど…あといちごも乗せたよ」
「上手に作れたね。すごく嬉しい、本当にありがとう」
「ろうそくももらってきたよ!」と、クリスタちゃんが二十五本のろうそくを見せる。
ここはきっと百円ショップの「2」と「5」の形をしたろうそくが活躍するシーン。「ちょっと多いんじゃ…」と言いかけたけど、「クリスタの誕生日にサティがしてくれたみたいにやりたい」と言われて、私は言葉を飲み込んだ。
ケーキに所狭しとろうそくが立てられる。ろうそくが多すぎて「バランスよく刺す」とか言っていられない。苦労しながら刺し終えたらぱちんとろうそくに火がつく。振り返ると、ドアにテオくんがもたれかかっていた。
「テオくん、来てくれたんだ」
団長就任以来距離ができてしまったように感じていたけれど、こうやってお祝いに来てくれて嬉しい。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
私は「子どもたちが幸せになりますように」と願って、五回くらいに分けて二十五本のろうそくをふうっと吹き消す。するとまたぱちんと音がして、全部のろうそくがまたついた。
「へ…?」と私が目を丸くすると、「ふっ」とテオくんが笑って、クリスタちゃんとレオくんは「またついちゃった」とけらけら笑う。
「サティのことだから、どうせ俺たちのことだけ願ったんだろ。自分のこともちゃんと願えよ」
いつの間にそんなかっこいいことが言えるようになったの。山に棲む暗殺一家の奥方様のように、ぷるぷる震えながら感激していいですか。
「…ありがと」
私は「アロイスさんに正直な気持ちを話す勇気をください」と願って、今度はそうっとろうそくを消す。願いを込めた息と一緒に、憂鬱な気持ちが身体の外へ出ていった。
言えそうな気がする。
「サティ、美味しいっ?」
「うん。今まで食べたケーキの中で一番美味しいよ。ありがとう」
レオくんとクリスタちゃんはまた顔を見合わせてにこっとし、「大成功」と手をぱちんと合わせた。
「…本当にありがとね」
ありがとう、私の宝物たち。
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