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69 友情エンド
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クリスタちゃんとレオくんにおやすみ前の読み聞かせをしたあとで、私はアロイスさんの部屋に向かう。
レオくんは「寝ている間にイミテーションの石が取れてしまうんじゃないか」と心配になるくらい、ぎゅうっとネックレスを握りしめて眠りについた。
《僕、こんなに楽しい誕生日は初めて。サティは誕生日を楽しくしてくれる神様だね》
本当に神様だったらよかったのにな。そしたらなんだって自分の思い通りで、こんな思いはせずにいられるだろう。
「でも言うしかない」
私はふっと息を吐き、覚悟を決めて、ドアをノックした。
「陛下、お話があります」
「ああ、待っていた」
アロイスさんは手を振って、侍従さんたちを部屋の外に下がらせる。テーブルの上にはロックグラスとお酒。アロイスさんがお酒をたしなむイメージはなかったので、ついじろじろ見てしまう。
「薬だ。これから心に傷を受けるからな」
つまり彼は、私がこれからどんな話をするのか、わかっている。私はもともとぎゅっと握りしめていた手を、さらにきつく握った。
「プロポーズの話なんですけど」
できるだけ彼を傷つけないように話さないと。だけどアロイスさんはふっと笑った。
「大丈夫だ。どう配慮して告げられても、どうせ傷つく」
彼の瞳はいたずらっぽい色を宿しているけど、悲しそうでもある。
「吐きそうなくらい考えたのに」
「はは。サティ殿は優しいな」
違う、優しいのはアロイスさん。言いやすくしてくれてるんだ。
彼の優しさと切実さに応えられないのが、苦しい。「いつか好きになれるはず」と希望的観測をもって、彼の想いに流されてしまったほうが、私にとっても楽かもしれない。でもこのまま流されてしまうことは、したくない。
彼を愛することを、義務にはしたくないから。
床を見ていたい気持ちを全力で叩きのめして、彼の目を真っすぐ見つめる。
「ごめんなさい。あなたと結婚はできません」
だって、私はレオくんとは違う。
彼は自分の気持ちをはっきりぶつけて、叶わなくて思い切り泣いて、気持ちに区切りをつけて前に進んだ。
だけど私の気持ちは不完全燃焼のまま、マリウスさんに縛りつけられている。だから前に進めない。
「アロイスさんがどうこうじゃなくて、私のせいです。忘れられない人がいるんです。ごめんなさい」
胸が痛い。
異世界転生で国王みたいなハイスぺイケメンにプロポーズされて断るときってさ、「私も好きなんだけど、受け入れちゃったら相手が死ぬ」とかいう事情があるパターンじゃないの。普通にただ「他に好きな人がいる」で断ってるの見たことないんだけど。これはこれでめちゃくちゃ辛いよ。
アロイスさんは一瞬伏し目になって、また私の目を見る。
「わかった。脅すようなことをして悪かったな」
彼の瞳があまりに寂しそうで、私は一歩彼に近づいた。
「あの…!奥さんにはなれないけど、友人としてそばにいさせてくれませんか」
アロイスさんが弱音を吐ける相手が、今は私だけだというのなら、助けたい。熟睡もできずに頑張っている彼を、ひとりぼっちにはしたくない。これは心からの気持ちだ。
「友人、か…」
「はい。疲れたときには肩を貸します」
「肩を貸すというのは…」
アロイスさんは「こうやって?」と、私の肩にあごを乗せる。肩にあごが乗る距離って、つまりは至近距離ね。いい匂いがして、彼の髪が頬に触れて、心臓が急ぎだす。
「うううっ…はい…お望みなら…っ」
「ふっ」
アロイスさんはくつくつ笑う。からかわれたんだと気づいて、私は彼から離れた。
「もう、止めてください!心臓がもたないんですよ!」
「サティ殿が肩を貸すというからだ」
「私はどっちかというと比喩的な意味で言ったわけでですね…!」
「ならばはっきりそう言わないと。サティ殿は優しいから、私のような男につけこまれないか心配だ」
「もう、なに言って…」
私が思わず腕を振り上げる真似をすると、アロイスさんはいたずらっぽい笑顔から、優しい笑顔になった。
「サティ殿のその顔が好きなんだ。照れも怒りも喜びもストレートに表現してくれて、安心できる」
プロポーズを断ったそばから、また「好き」なんて言われて、いいんだか悪いんだか。
「プロポーズしてからずっと、サティ殿は私を見るときに気づまりな…言葉を出したいのに出せないというような顔をしていた。そんな顔が見たかったわけじゃない。無理やりサティ殿を妻にしても、私の好きな顔を見られないなら、意味がない」
「アロイスさん…」
「これからもその顔が見られるのなら、私は友人で我慢しよう」
その言葉をお互いが噛みしめた後で、目を合わせて私たちは小さく頷きあった。
「一緒にコーヒーを飲むのは、”肩を貸す”に入るか?」と聞かれて、私は「もちろん」と答える。そんなことでよければ、いつでも。
「あ、でも遅い時間にコーヒーを飲むと、睡眠の質が落ちるんです。だから遅くとも午後三時、できれば午後二時までにしてくださいね」
アロイスさんはくすっと笑う。
「忙しい国王に対して、なかなかに厳しい条件を課す友人だな」
「守らないと、結局困るのはアロイスさんと私ですから」
「わかった」
好きになってくれた人に、気持ちを返せなかった。胸にはまだ痛みが残る。
だけどこの友情エンドが、きっと正解だ。
レオくんは「寝ている間にイミテーションの石が取れてしまうんじゃないか」と心配になるくらい、ぎゅうっとネックレスを握りしめて眠りについた。
《僕、こんなに楽しい誕生日は初めて。サティは誕生日を楽しくしてくれる神様だね》
本当に神様だったらよかったのにな。そしたらなんだって自分の思い通りで、こんな思いはせずにいられるだろう。
「でも言うしかない」
私はふっと息を吐き、覚悟を決めて、ドアをノックした。
「陛下、お話があります」
「ああ、待っていた」
アロイスさんは手を振って、侍従さんたちを部屋の外に下がらせる。テーブルの上にはロックグラスとお酒。アロイスさんがお酒をたしなむイメージはなかったので、ついじろじろ見てしまう。
「薬だ。これから心に傷を受けるからな」
つまり彼は、私がこれからどんな話をするのか、わかっている。私はもともとぎゅっと握りしめていた手を、さらにきつく握った。
「プロポーズの話なんですけど」
できるだけ彼を傷つけないように話さないと。だけどアロイスさんはふっと笑った。
「大丈夫だ。どう配慮して告げられても、どうせ傷つく」
彼の瞳はいたずらっぽい色を宿しているけど、悲しそうでもある。
「吐きそうなくらい考えたのに」
「はは。サティ殿は優しいな」
違う、優しいのはアロイスさん。言いやすくしてくれてるんだ。
彼の優しさと切実さに応えられないのが、苦しい。「いつか好きになれるはず」と希望的観測をもって、彼の想いに流されてしまったほうが、私にとっても楽かもしれない。でもこのまま流されてしまうことは、したくない。
彼を愛することを、義務にはしたくないから。
床を見ていたい気持ちを全力で叩きのめして、彼の目を真っすぐ見つめる。
「ごめんなさい。あなたと結婚はできません」
だって、私はレオくんとは違う。
彼は自分の気持ちをはっきりぶつけて、叶わなくて思い切り泣いて、気持ちに区切りをつけて前に進んだ。
だけど私の気持ちは不完全燃焼のまま、マリウスさんに縛りつけられている。だから前に進めない。
「アロイスさんがどうこうじゃなくて、私のせいです。忘れられない人がいるんです。ごめんなさい」
胸が痛い。
異世界転生で国王みたいなハイスぺイケメンにプロポーズされて断るときってさ、「私も好きなんだけど、受け入れちゃったら相手が死ぬ」とかいう事情があるパターンじゃないの。普通にただ「他に好きな人がいる」で断ってるの見たことないんだけど。これはこれでめちゃくちゃ辛いよ。
アロイスさんは一瞬伏し目になって、また私の目を見る。
「わかった。脅すようなことをして悪かったな」
彼の瞳があまりに寂しそうで、私は一歩彼に近づいた。
「あの…!奥さんにはなれないけど、友人としてそばにいさせてくれませんか」
アロイスさんが弱音を吐ける相手が、今は私だけだというのなら、助けたい。熟睡もできずに頑張っている彼を、ひとりぼっちにはしたくない。これは心からの気持ちだ。
「友人、か…」
「はい。疲れたときには肩を貸します」
「肩を貸すというのは…」
アロイスさんは「こうやって?」と、私の肩にあごを乗せる。肩にあごが乗る距離って、つまりは至近距離ね。いい匂いがして、彼の髪が頬に触れて、心臓が急ぎだす。
「うううっ…はい…お望みなら…っ」
「ふっ」
アロイスさんはくつくつ笑う。からかわれたんだと気づいて、私は彼から離れた。
「もう、止めてください!心臓がもたないんですよ!」
「サティ殿が肩を貸すというからだ」
「私はどっちかというと比喩的な意味で言ったわけでですね…!」
「ならばはっきりそう言わないと。サティ殿は優しいから、私のような男につけこまれないか心配だ」
「もう、なに言って…」
私が思わず腕を振り上げる真似をすると、アロイスさんはいたずらっぽい笑顔から、優しい笑顔になった。
「サティ殿のその顔が好きなんだ。照れも怒りも喜びもストレートに表現してくれて、安心できる」
プロポーズを断ったそばから、また「好き」なんて言われて、いいんだか悪いんだか。
「プロポーズしてからずっと、サティ殿は私を見るときに気づまりな…言葉を出したいのに出せないというような顔をしていた。そんな顔が見たかったわけじゃない。無理やりサティ殿を妻にしても、私の好きな顔を見られないなら、意味がない」
「アロイスさん…」
「これからもその顔が見られるのなら、私は友人で我慢しよう」
その言葉をお互いが噛みしめた後で、目を合わせて私たちは小さく頷きあった。
「一緒にコーヒーを飲むのは、”肩を貸す”に入るか?」と聞かれて、私は「もちろん」と答える。そんなことでよければ、いつでも。
「あ、でも遅い時間にコーヒーを飲むと、睡眠の質が落ちるんです。だから遅くとも午後三時、できれば午後二時までにしてくださいね」
アロイスさんはくすっと笑う。
「忙しい国王に対して、なかなかに厳しい条件を課す友人だな」
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「わかった」
好きになってくれた人に、気持ちを返せなかった。胸にはまだ痛みが残る。
だけどこの友情エンドが、きっと正解だ。
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