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70 お飾り団長の苦悩
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「殿下の生誕祭の魔法ショー、見たか?」
「もちろん!素敵だったわ。団長が新しいショーのアイデアを募集していたから、私も何か提案してみたいな。火魔法で夜空に絵を描くなんてどうかしら?」
「すごいアイデアだ。俺は水を氷の像に変化させるショーを考えてるんだけど、どう思う?」
「絶対に人気になるわ。水魔法と風魔法を組み合わせるの?」
魔法師団に向かう道で、楽しそうに話しながら歩く若者とすれ違う。「王城に魔法使いが増えてきましたね」とイヴォンさんが振り返った。彼女が言う通り魔法師団の団員数は順調に増えていて、最近も宿舎を拡張していた。
「団員が増えてテオドール団長はお忙しいのでしょうか。最近はお食事に来られませんね」
「そうかもしれませんね。あ、もしかしてイヴォンさんもテオくんのファンですか?」
イヴォンさんが「いえ、私は…!」と顔を赤くした。テオくんって実はファンが多くて、私にも「団長に渡していただけませんか」と手紙がたくさん届く。テオくんは「処分してくれ」というけど、勝手に処分なんてできず、こうやってたまに届けに行っているのだ。
「あ、いたいた」
テオくんは運動場でベンチに腰を下ろしていた。「テオくん、また手紙を預かったの。私では処分できないから受け取って」と、言い慣れたセリフで声をかける。
だけど「処分してくれって言ったろ。何回言ったらわかるんだよ」というお決まりのセリフが帰ってこない。頭にかぶったタオル。その下に見える目は、運動場で訓練する魔法使いさんたちをぼんやりと見つめている。
「どうしたの?」
私はテオくんの隣に腰を下ろす。場所とタオルもあいまって、なんだか「三年生最後の試合に負けてしまったサッカー部のエース」とマネージャーみたい。学生時代、こういうの憧れたな。
テオくんは私を横目で見て、悩んだ末に「俺はただの飾りだ」と呟いた。
そうか。卓越した魔法の能力ゆえに抜擢されたが、あまりに若い団長。実際にはお飾りと化しているのか。団長だからと危険で負担の大きな仕事が降りかかってくるのも心配だけど、有名無実というのもまた、辛いものなのだろう。
「事務的なことは副団長がやってくれてて、俺はチェックだけ。それに団員はみんな優秀でそれぞれに成果を挙げてる。俺は大きな方針を決めたり、訓練を見てアドバイスしたり、各部を見回って相談に乗ったり、騎士団といざこざがあったら仲裁しにいったり、財務大臣から予算を取ってきたりするだけなんだ」
私は「大丈夫、最初はみんなそうだよ。ゆっくり身につけていけばいいんだよ」とテオくんの背中を優しくさすろうした手を止めた。
むしろ殴っていい?
「控えめに言って、最高のしごでき上司じゃんか」
「適当なこと言うなよ。全部誰にでもできる仕事ばっかだ」
「…できるかあ!」
方針決定とかトラブル対応とか予算獲得とか、めちゃくちゃ高度だっつの。ほとんどやったことないから知らんけど。トラブル時の保護者対応はやったことあるけど、メモを燃やして失踪したいくらい追い詰められたし。それを「誰にでもできる仕事」と言ってしまうあたり、おぬし、実はとんでもないハイスぺだな?
「団員さんをリスペクトシテ仕事を任せて、だけど困ったときには力を貸してくれて、お金もとってくるんでしょ。最高じゃん。私だったらテオくんみたいな上司の下で働きたいけど」
イヴォンさんもぶんぶんと頷いてくれる。
自慢じゃないけど、私は生まれてこのかたぺーぺー。学生時代の部活でもゼミでも幹部とかやったことなくて、職場では直属の後輩すらいなかった。ぺーぺーオブぺーぺーの私が言うんだから間違いない。信じよ。
「それにさっき魔法使いさんとすれ違ったけど、楽しそうに魔法の話をしてたよ。そんなの、ちょっと前までは考えられなかったことじゃん。魔力持ちとして差別されて隠れるようにして暮らしてた人たちが、テオくんに出会って魔法師団に入りたいって思って、日の光を浴びて生きられるようになったの」
テオくんは目を見開いて頬を染めたあとで、ふいっと私から目を逸らした。逸らした視線の先には、真剣な表情で訓練に励む団員たちがいる。
「サティだけの意見だろ」
「信じられないなら、他の人にも聞いてみれば?」
私は「すいませーん!」と訓練中の皆さんに呼びかけた。
「おい!いきなり何…!?」
「みなさーん!テオくんは団長にふさわしいと思いますかー?」
「言うまでもありません」「団長が魔法師団を復活させてくださったおかげで、居場所と生きがいができました」「いつも相談に乗ってくださり、ありがとうございます」という答えが、風魔法に乗って返ってくる。
「私もそう思います、団長」
振り返ると光魔法使い(旧聖人)の副団長さんがいる。聖人っぽいというかなんというか、穏やかな雰囲気のおじさんだ。
「騎士団と折衝するときや陛下に報告するときなど、恥ずかしながら私などは気が弱くてろくに意見も伝えられませんでした。けれど団長はお若いのに堂々と意見を述べられて、騎士団からの理不尽な要求はひと睨みでねじ伏せられて…尊敬しております」
副団長さんは両手でテオくんの手を握った。
「あなた様は、決して飾りなどではございません。私の、そして皆のよりどころなのです」
「あ、ありがと…」
テオくんの声がいつもより少し高く震えて、赤い瞳が潤んでいた。
「お伝えするまでもなくご理解いただけていると思っておりましたが、ご存じなかったとは。これからは折に触れてお伝えさせていただきますね」
「それはやめてくれ。は、恥ずかしいから…」
ーーー
帰り道、イヴォンさんはひたすらに悶えていた。
「あんな表情を見せられたら、ますます団長のファンになってしまいますわ。ずるいですわ、最強の火魔法使いなのに母性本能をくすぐってくるなんて…ああっ、今すぐ同志たちに、私が見た光景を余すところなく伝えたい…っ」
「やっぱりファンだったんじゃないですか」
しかもかなり強火の。
「あ」
「もちろん!素敵だったわ。団長が新しいショーのアイデアを募集していたから、私も何か提案してみたいな。火魔法で夜空に絵を描くなんてどうかしら?」
「すごいアイデアだ。俺は水を氷の像に変化させるショーを考えてるんだけど、どう思う?」
「絶対に人気になるわ。水魔法と風魔法を組み合わせるの?」
魔法師団に向かう道で、楽しそうに話しながら歩く若者とすれ違う。「王城に魔法使いが増えてきましたね」とイヴォンさんが振り返った。彼女が言う通り魔法師団の団員数は順調に増えていて、最近も宿舎を拡張していた。
「団員が増えてテオドール団長はお忙しいのでしょうか。最近はお食事に来られませんね」
「そうかもしれませんね。あ、もしかしてイヴォンさんもテオくんのファンですか?」
イヴォンさんが「いえ、私は…!」と顔を赤くした。テオくんって実はファンが多くて、私にも「団長に渡していただけませんか」と手紙がたくさん届く。テオくんは「処分してくれ」というけど、勝手に処分なんてできず、こうやってたまに届けに行っているのだ。
「あ、いたいた」
テオくんは運動場でベンチに腰を下ろしていた。「テオくん、また手紙を預かったの。私では処分できないから受け取って」と、言い慣れたセリフで声をかける。
だけど「処分してくれって言ったろ。何回言ったらわかるんだよ」というお決まりのセリフが帰ってこない。頭にかぶったタオル。その下に見える目は、運動場で訓練する魔法使いさんたちをぼんやりと見つめている。
「どうしたの?」
私はテオくんの隣に腰を下ろす。場所とタオルもあいまって、なんだか「三年生最後の試合に負けてしまったサッカー部のエース」とマネージャーみたい。学生時代、こういうの憧れたな。
テオくんは私を横目で見て、悩んだ末に「俺はただの飾りだ」と呟いた。
そうか。卓越した魔法の能力ゆえに抜擢されたが、あまりに若い団長。実際にはお飾りと化しているのか。団長だからと危険で負担の大きな仕事が降りかかってくるのも心配だけど、有名無実というのもまた、辛いものなのだろう。
「事務的なことは副団長がやってくれてて、俺はチェックだけ。それに団員はみんな優秀でそれぞれに成果を挙げてる。俺は大きな方針を決めたり、訓練を見てアドバイスしたり、各部を見回って相談に乗ったり、騎士団といざこざがあったら仲裁しにいったり、財務大臣から予算を取ってきたりするだけなんだ」
私は「大丈夫、最初はみんなそうだよ。ゆっくり身につけていけばいいんだよ」とテオくんの背中を優しくさすろうした手を止めた。
むしろ殴っていい?
「控えめに言って、最高のしごでき上司じゃんか」
「適当なこと言うなよ。全部誰にでもできる仕事ばっかだ」
「…できるかあ!」
方針決定とかトラブル対応とか予算獲得とか、めちゃくちゃ高度だっつの。ほとんどやったことないから知らんけど。トラブル時の保護者対応はやったことあるけど、メモを燃やして失踪したいくらい追い詰められたし。それを「誰にでもできる仕事」と言ってしまうあたり、おぬし、実はとんでもないハイスぺだな?
「団員さんをリスペクトシテ仕事を任せて、だけど困ったときには力を貸してくれて、お金もとってくるんでしょ。最高じゃん。私だったらテオくんみたいな上司の下で働きたいけど」
イヴォンさんもぶんぶんと頷いてくれる。
自慢じゃないけど、私は生まれてこのかたぺーぺー。学生時代の部活でもゼミでも幹部とかやったことなくて、職場では直属の後輩すらいなかった。ぺーぺーオブぺーぺーの私が言うんだから間違いない。信じよ。
「それにさっき魔法使いさんとすれ違ったけど、楽しそうに魔法の話をしてたよ。そんなの、ちょっと前までは考えられなかったことじゃん。魔力持ちとして差別されて隠れるようにして暮らしてた人たちが、テオくんに出会って魔法師団に入りたいって思って、日の光を浴びて生きられるようになったの」
テオくんは目を見開いて頬を染めたあとで、ふいっと私から目を逸らした。逸らした視線の先には、真剣な表情で訓練に励む団員たちがいる。
「サティだけの意見だろ」
「信じられないなら、他の人にも聞いてみれば?」
私は「すいませーん!」と訓練中の皆さんに呼びかけた。
「おい!いきなり何…!?」
「みなさーん!テオくんは団長にふさわしいと思いますかー?」
「言うまでもありません」「団長が魔法師団を復活させてくださったおかげで、居場所と生きがいができました」「いつも相談に乗ってくださり、ありがとうございます」という答えが、風魔法に乗って返ってくる。
「私もそう思います、団長」
振り返ると光魔法使い(旧聖人)の副団長さんがいる。聖人っぽいというかなんというか、穏やかな雰囲気のおじさんだ。
「騎士団と折衝するときや陛下に報告するときなど、恥ずかしながら私などは気が弱くてろくに意見も伝えられませんでした。けれど団長はお若いのに堂々と意見を述べられて、騎士団からの理不尽な要求はひと睨みでねじ伏せられて…尊敬しております」
副団長さんは両手でテオくんの手を握った。
「あなた様は、決して飾りなどではございません。私の、そして皆のよりどころなのです」
「あ、ありがと…」
テオくんの声がいつもより少し高く震えて、赤い瞳が潤んでいた。
「お伝えするまでもなくご理解いただけていると思っておりましたが、ご存じなかったとは。これからは折に触れてお伝えさせていただきますね」
「それはやめてくれ。は、恥ずかしいから…」
ーーー
帰り道、イヴォンさんはひたすらに悶えていた。
「あんな表情を見せられたら、ますます団長のファンになってしまいますわ。ずるいですわ、最強の火魔法使いなのに母性本能をくすぐってくるなんて…ああっ、今すぐ同志たちに、私が見た光景を余すところなく伝えたい…っ」
「やっぱりファンだったんじゃないですか」
しかもかなり強火の。
「あ」
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