異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

文字の大きさ
71 / 84

70 お飾り団長の苦悩

しおりを挟む
「殿下の生誕祭の魔法ショー、見たか?」
「もちろん!素敵だったわ。団長が新しいショーのアイデアを募集していたから、私も何か提案してみたいな。火魔法で夜空に絵を描くなんてどうかしら?」
「すごいアイデアだ。俺は水を氷の像に変化させるショーを考えてるんだけど、どう思う?」
「絶対に人気になるわ。水魔法と風魔法を組み合わせるの?」

魔法師団に向かう道で、楽しそうに話しながら歩く若者とすれ違う。「王城に魔法使いが増えてきましたね」とイヴォンさんが振り返った。彼女が言う通り魔法師団の団員数は順調に増えていて、最近も宿舎を拡張していた。

「団員が増えてテオドール団長はお忙しいのでしょうか。最近はお食事に来られませんね」
「そうかもしれませんね。あ、もしかしてイヴォンさんもテオくんのファンですか?」

イヴォンさんが「いえ、私は…!」と顔を赤くした。テオくんって実はファンが多くて、私にも「団長に渡していただけませんか」と手紙がたくさん届く。テオくんは「処分してくれ」というけど、勝手に処分なんてできず、こうやってたまに届けに行っているのだ。

「あ、いたいた」

テオくんは運動場でベンチに腰を下ろしていた。「テオくん、また手紙を預かったの。私では処分できないから受け取って」と、言い慣れたセリフで声をかける。

だけど「処分してくれって言ったろ。何回言ったらわかるんだよ」というお決まりのセリフが帰ってこない。頭にかぶったタオル。その下に見える目は、運動場で訓練する魔法使いさんたちをぼんやりと見つめている。

「どうしたの?」

私はテオくんの隣に腰を下ろす。場所とタオルもあいまって、なんだか「三年生最後の試合に負けてしまったサッカー部のエース」とマネージャーみたい。学生時代、こういうの憧れたな。

テオくんは私を横目で見て、悩んだ末に「俺はただの飾りだ」と呟いた。

そうか。卓越した魔法の能力ゆえに抜擢されたが、あまりに若い団長。実際にはお飾りと化しているのか。団長だからと危険で負担の大きな仕事が降りかかってくるのも心配だけど、有名無実というのもまた、辛いものなのだろう。

「事務的なことは副団長がやってくれてて、俺はチェックだけ。それに団員はみんな優秀でそれぞれに成果を挙げてる。俺は大きな方針を決めたり、訓練を見てアドバイスしたり、各部を見回って相談に乗ったり、騎士団といざこざがあったら仲裁しにいったり、財務大臣から予算を取ってきたりするだけなんだ」

私は「大丈夫、最初はみんなそうだよ。ゆっくり身につけていけばいいんだよ」とテオくんの背中を優しくさすろうした手を止めた。

むしろ殴っていい?

「控えめに言って、最高のしごでき上司じゃんか」
「適当なこと言うなよ。全部誰にでもできる仕事ばっかだ」
「…できるかあ!」

方針決定とかトラブル対応とか予算獲得とか、めちゃくちゃ高度だっつの。ほとんどやったことないから知らんけど。トラブル時の保護者対応はやったことあるけど、メモを燃やして失踪したいくらい追い詰められたし。それを「誰にでもできる仕事」と言ってしまうあたり、おぬし、実はとんでもないハイスぺだな?

「団員さんをリスペクトシテ仕事を任せて、だけど困ったときには力を貸してくれて、お金もとってくるんでしょ。最高じゃん。私だったらテオくんみたいな上司の下で働きたいけど」

イヴォンさんもぶんぶんと頷いてくれる。

自慢じゃないけど、私は生まれてこのかたぺーぺー。学生時代の部活でもゼミでも幹部とかやったことなくて、職場では直属の後輩すらいなかった。ぺーぺーオブぺーぺーの私が言うんだから間違いない。信じよ。

「それにさっき魔法使いさんとすれ違ったけど、楽しそうに魔法の話をしてたよ。そんなの、ちょっと前までは考えられなかったことじゃん。魔力持ちとして差別されて隠れるようにして暮らしてた人たちが、テオくんに出会って魔法師団に入りたいって思って、日の光を浴びて生きられるようになったの」

テオくんは目を見開いて頬を染めたあとで、ふいっと私から目を逸らした。逸らした視線の先には、真剣な表情で訓練に励む団員たちがいる。

「サティだけの意見だろ」
「信じられないなら、他の人にも聞いてみれば?」

私は「すいませーん!」と訓練中の皆さんに呼びかけた。

「おい!いきなり何…!?」
「みなさーん!テオくんは団長にふさわしいと思いますかー?」

「言うまでもありません」「団長が魔法師団を復活させてくださったおかげで、居場所と生きがいができました」「いつも相談に乗ってくださり、ありがとうございます」という答えが、風魔法に乗って返ってくる。

「私もそう思います、団長」

振り返ると光魔法使い(旧聖人)の副団長さんがいる。聖人っぽいというかなんというか、穏やかな雰囲気のおじさんだ。

「騎士団と折衝するときや陛下に報告するときなど、恥ずかしながら私などは気が弱くてろくに意見も伝えられませんでした。けれど団長はお若いのに堂々と意見を述べられて、騎士団からの理不尽な要求はひと睨みでねじ伏せられて…尊敬しております」

副団長さんは両手でテオくんの手を握った。

「あなた様は、決して飾りなどではございません。私の、そして皆のよりどころなのです」
「あ、ありがと…」

テオくんの声がいつもより少し高く震えて、赤い瞳が潤んでいた。

「お伝えするまでもなくご理解いただけていると思っておりましたが、ご存じなかったとは。これからは折に触れてお伝えさせていただきますね」
「それはやめてくれ。は、恥ずかしいから…」

ーーー

帰り道、イヴォンさんはひたすらに悶えていた。

「あんな表情を見せられたら、ますます団長のファンになってしまいますわ。ずるいですわ、最強の火魔法使いなのに母性本能をくすぐってくるなんて…ああっ、今すぐ同志たちに、私が見た光景を余すところなく伝えたい…っ」
「やっぱりファンだったんじゃないですか」

しかもかなり強火の。

「あ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放された地味探索者、実は隠された伝説級スキルの持ち主でした~気付いたら無自覚に最強ハーレムを築いていた件~

fuwamofu
ファンタジー
地味で目立たない探索者アレンは、仲間に「足手まとい」と罵られパーティを追放された。だが実は彼のスキル【探索眼】は、古代英雄の力を見抜く唯一の能力だった! 鉱山の奥で偶然出会った少女を救ったことから、運命が動き出す。 魔王軍、古代遺跡、神々の争い——すべての鍵を握るのは「ただの探索者」だった男。彼は気付かぬうちに、世界を救い、そして多くの少女たちの心をつかんでいく。 地味だけど最強、無自覚だけどモテまくり。これは世界を変えた謙虚な英雄の物語である。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

俺とエルフとお猫様 ~現代と異世界を行き来できる俺は、現代道具で異世界をもふもふネコと無双する!~

八神 凪
ファンタジー
義理の両親が亡くなり、財産を受け継いだ永村 住考(えいむら すみたか) 平凡な会社員だった彼は、財産を譲り受けた際にアパート経営を継ぐため会社を辞めた。 明日から自由な時間をどう過ごすか考え、犬を飼おうと考えていた矢先に、命を終えた猫と子ネコを発見する。 その日の夜、飛び起きるほどの大地震が起こるも町は平和そのものであった。 しかし、彼の家の裏庭がとんでもないことになる――

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

処理中です...