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71 魔道具開発の極意
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私はエルケ。魔法師団研究開発部に所属する水魔法使い。
旧魔法師団の仕事は軍事行動や治安維持だったけれど、テオドール団長は戦闘に不向きな魔法使いにも活躍の場を与えようと、新たに「芸術部」「教育部」「研究開発部」を作った。王太子殿下の生誕祭で活躍したのは芸術部。教育部は魔力をもつ子どもたちに教育活動を行っている。そして研究開発部では魔道具開発を担う。
魔力が弱くても、攻撃的な魔法は使えなくても、魔法使いとして認められ尊重される場が魔法師団にはある。
「私も認めてもらいたい」
そう思って魔道具開発に向き合ってるけど、睡眠を削って考えても、いくつもの機能を高いレベルで組み合わせても、部長にはいつも「使い方が難しすぎて、実用化できない」「使いどころがない」と首を振られる。
私は頑張ってるのに、どうして認めてもらえないの。
「エルケ、今考えてる魔道具に水魔法が必要なの。協力してくれない?」
そんな暇ない。
「無理です。忙しいので」
「はあ…あんたって自分のことしか考えてないの?」
そんなの当然じゃない。
裕福な商家に生まれたのに魔力のせいで家族から疎まれて狭い物置小屋に押し込められて育ち、魔法師団に入ってようやく小屋を出た。もうあそこには戻りたくない。だけどここでもお荷物扱いされたら私は行く場所を失う。
だから早く大きな成果を挙げなきゃ。昼ご飯もお茶休憩もいらない。やらなきゃ。認められなきゃ。
「エルケ、昼休みだぞ」
はっと机から顔を上げると、みんなの憧れテオドール団長。
「暗い顔してるな。悩みがあったら聞くけど」
声をかけてくれて、悩んでるって察してくれた。嬉しい。きっと私の気持ちもわかってくれるはず。だから私は思いの丈をぶつけた。「部長が私の開発した魔道具を認めてくれないのはおかしい」って。
だけど団長は首を振る。
「エルケの企画案を全部見たが、あれじゃ実用化はできない」
「どうしてですかっ!?」
「使う人のことを考えてないだろ。高度だけど使いにくくて…何て言うか、ただ”私がここまでできるのを見てください””すごいって褒めてください”って全力で叫んでるような感じだ」
周囲の音が消える。
それは、あまりに図星だった。私の魔道具は、ただの自己顕示欲と承認欲求の塊だった。恥ずかしくて消えたい。泣きそう。
団長はハンカチを差し出してくれた。「ありがとうございます」と手に取ると温かくて、ほっとする。
「これ…」
普通のハンカチに見えるけど、火魔法が付与されてる。団長が考案したもので、魔法師団が開発した魔道具の中では一番のヒット商品だ。
「ただ温かいってだけの魔道具だ。エルケが考えた魔道具に比べたら、子どものおもちゃだよな」
「正直…はい」
「だけど売れてる。自分でも不思議だったから理由を調べてみたんだよ。そしたら、これを買った理由で一番多かったのは、”寒がりな人にプレゼントしたいから”だった」
団長は少し照れるみたいに笑った。
「びっくりしたよ。俺がこの魔道具の原型になったものを作ったときの気持ちと、一緒だったから」
温かいハンカチの原型は、サティ様のバレッタ。寒がりなサティ様が外仕事で少しでも温かいように、という気持ちで火魔法を付与したバレッタだった。
「サティがいつも持ち歩いてくれて、俺も嬉しかった。ああそれに給湯器もコンロも、サティが喜んでくれた魔法をもとに考えた」
団長が何を言いたいのか、少しずつわかってくる。
「エルケの魔道具開発に関する知識や情熱は、部長も俺も認めてる。だから自分の力を証明するための魔道具を作る必要はないんだ。わかるな?」
私はこくこく頷いた。今度は嬉し涙が溢れてくる。ハンカチがびしょびしょになるけど、濡れたら温度が高くなってすぐ乾くから便利。
「向く方向を変えろ。エルケが大切な人に贈りたい魔道具を考えてみてくれ。たった一人のことを思い浮かべてつくったものが、たくさんの人の心に届くこともあるから」
「…はい」
今までの人生で、「大切な人」なんていなかった。だけど今は…
ーーー
私は研究開発部のみなさんに今までの態度を謝罪し、風魔法使いの先輩に協力してもらって、魔道具を考案した。企画書を読んだ部長が、力強く頷いてくれる。
「これなら実用化できる。掴んだな、エルケ」
「ありがとうございます」
それは、汗を氷に変えて身体を冷やす冷却タオル。
火魔法使いの団長は、熱がりで汗かき。夏は太陽の熱と自分の熱で、しんどそうなことも多かった。そんな団長に、少しでも楽になってほしいから。
冷却タオルは、火魔法使いをはじめとする暑がりな人や炎天下で働く人の必需品になり、温かいハンカチに並ぶヒット商品になった。
団長に「お礼です」とプレゼントしたら気に入ってくれて、彼が冷却タオルを頭にかぶっているのを見るたび、くすぐったい気持ちになる。
「ねえエルケ、あれでしょ?このタオルって団長のために作ったんでしょ?」
「そうですけど…」
「やっぱり」と先輩がしたり顔で笑う。
「はっ…誤解しないでください!団長のためですけど、好きだからとかじゃないですからね!ただお世話になった方っていうだけで、それ以上の意味はなくて…」
「へえー」
「信じてないでしょ!?」
「わかったわかった」
「あ、適当!本当に…」
「わかったって。それよりさ、今考えてる魔道具に水魔法が必要なんだよね」
「協力してくれる?」って聞かれるまでもない。
「協力します!やらせてください!」
旧魔法師団の仕事は軍事行動や治安維持だったけれど、テオドール団長は戦闘に不向きな魔法使いにも活躍の場を与えようと、新たに「芸術部」「教育部」「研究開発部」を作った。王太子殿下の生誕祭で活躍したのは芸術部。教育部は魔力をもつ子どもたちに教育活動を行っている。そして研究開発部では魔道具開発を担う。
魔力が弱くても、攻撃的な魔法は使えなくても、魔法使いとして認められ尊重される場が魔法師団にはある。
「私も認めてもらいたい」
そう思って魔道具開発に向き合ってるけど、睡眠を削って考えても、いくつもの機能を高いレベルで組み合わせても、部長にはいつも「使い方が難しすぎて、実用化できない」「使いどころがない」と首を振られる。
私は頑張ってるのに、どうして認めてもらえないの。
「エルケ、今考えてる魔道具に水魔法が必要なの。協力してくれない?」
そんな暇ない。
「無理です。忙しいので」
「はあ…あんたって自分のことしか考えてないの?」
そんなの当然じゃない。
裕福な商家に生まれたのに魔力のせいで家族から疎まれて狭い物置小屋に押し込められて育ち、魔法師団に入ってようやく小屋を出た。もうあそこには戻りたくない。だけどここでもお荷物扱いされたら私は行く場所を失う。
だから早く大きな成果を挙げなきゃ。昼ご飯もお茶休憩もいらない。やらなきゃ。認められなきゃ。
「エルケ、昼休みだぞ」
はっと机から顔を上げると、みんなの憧れテオドール団長。
「暗い顔してるな。悩みがあったら聞くけど」
声をかけてくれて、悩んでるって察してくれた。嬉しい。きっと私の気持ちもわかってくれるはず。だから私は思いの丈をぶつけた。「部長が私の開発した魔道具を認めてくれないのはおかしい」って。
だけど団長は首を振る。
「エルケの企画案を全部見たが、あれじゃ実用化はできない」
「どうしてですかっ!?」
「使う人のことを考えてないだろ。高度だけど使いにくくて…何て言うか、ただ”私がここまでできるのを見てください””すごいって褒めてください”って全力で叫んでるような感じだ」
周囲の音が消える。
それは、あまりに図星だった。私の魔道具は、ただの自己顕示欲と承認欲求の塊だった。恥ずかしくて消えたい。泣きそう。
団長はハンカチを差し出してくれた。「ありがとうございます」と手に取ると温かくて、ほっとする。
「これ…」
普通のハンカチに見えるけど、火魔法が付与されてる。団長が考案したもので、魔法師団が開発した魔道具の中では一番のヒット商品だ。
「ただ温かいってだけの魔道具だ。エルケが考えた魔道具に比べたら、子どものおもちゃだよな」
「正直…はい」
「だけど売れてる。自分でも不思議だったから理由を調べてみたんだよ。そしたら、これを買った理由で一番多かったのは、”寒がりな人にプレゼントしたいから”だった」
団長は少し照れるみたいに笑った。
「びっくりしたよ。俺がこの魔道具の原型になったものを作ったときの気持ちと、一緒だったから」
温かいハンカチの原型は、サティ様のバレッタ。寒がりなサティ様が外仕事で少しでも温かいように、という気持ちで火魔法を付与したバレッタだった。
「サティがいつも持ち歩いてくれて、俺も嬉しかった。ああそれに給湯器もコンロも、サティが喜んでくれた魔法をもとに考えた」
団長が何を言いたいのか、少しずつわかってくる。
「エルケの魔道具開発に関する知識や情熱は、部長も俺も認めてる。だから自分の力を証明するための魔道具を作る必要はないんだ。わかるな?」
私はこくこく頷いた。今度は嬉し涙が溢れてくる。ハンカチがびしょびしょになるけど、濡れたら温度が高くなってすぐ乾くから便利。
「向く方向を変えろ。エルケが大切な人に贈りたい魔道具を考えてみてくれ。たった一人のことを思い浮かべてつくったものが、たくさんの人の心に届くこともあるから」
「…はい」
今までの人生で、「大切な人」なんていなかった。だけど今は…
ーーー
私は研究開発部のみなさんに今までの態度を謝罪し、風魔法使いの先輩に協力してもらって、魔道具を考案した。企画書を読んだ部長が、力強く頷いてくれる。
「これなら実用化できる。掴んだな、エルケ」
「ありがとうございます」
それは、汗を氷に変えて身体を冷やす冷却タオル。
火魔法使いの団長は、熱がりで汗かき。夏は太陽の熱と自分の熱で、しんどそうなことも多かった。そんな団長に、少しでも楽になってほしいから。
冷却タオルは、火魔法使いをはじめとする暑がりな人や炎天下で働く人の必需品になり、温かいハンカチに並ぶヒット商品になった。
団長に「お礼です」とプレゼントしたら気に入ってくれて、彼が冷却タオルを頭にかぶっているのを見るたび、くすぐったい気持ちになる。
「ねえエルケ、あれでしょ?このタオルって団長のために作ったんでしょ?」
「そうですけど…」
「やっぱり」と先輩がしたり顔で笑う。
「はっ…誤解しないでください!団長のためですけど、好きだからとかじゃないですからね!ただお世話になった方っていうだけで、それ以上の意味はなくて…」
「へえー」
「信じてないでしょ!?」
「わかったわかった」
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「協力します!やらせてください!」
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