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63 プリンづくり
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パジャマパーティーの翌日、女子二人は重い目をこすりながら起きてきた。楽しかった昨日の代償だ。だけどしっかり朝ご飯を食べて、今日も一日元気に頑張りましょう。
子どもたちが授業を受けている間に、私は厨房でプリンづくりの打ち合わせ。って言っても、スペースを借りて材料と道具を用意するくらいなんだけど。
そしてちくちく手縫いした特製のお揃いエプロンと三角巾も添えて。ミシンがないから時間がかかったけど、お揃いのエプロン&三角巾で並ぶ三人とか、可愛い予感しかなくて頑張れた。想像だけですでに胸が痛い。
「サティ!授業終わったよ!」
子どもたちが元気に厨房にお目見え。
「はーい。じゃあお待ちかねのプリンづくりを始めますか。まずは準備ね。エプロンと三角巾をして、手もきれいに洗いますよ」
「はい!」
三人のエプロンと三角巾に無事私が悶絶したあと、レオくんはカラメル、ロゼマリアちゃんとクリスタちゃんは卵液づくりに挑む。
レオくんの横にはパウロスさんについてもらい、私は女子ズと卵液づくり。
「まずは卵を割るよ。お手本を見せるから、よく見ててね」
卵を作業台で叩いてひびを入れ、親指で横に力を入れて割る。慣れてしまえば何でもない作業だけど、これが子どもにとっては難しい。力加減がわからないからだ。
とはいえクリスタちゃんは小屋で何回かお手伝いしてくれたことがあったから、そつなくこなす。
「できた!殻が入っちゃったけど」
「できたね!殻を取り除けばOKだよ」
さあ、ロゼマリアちゃんは?
コツコツ。コツコツコツ。なかなかひびが入らない。
「もうちょっと強くやっても大丈夫だよ」
「かしこまりました」
グシャッ…
「あ、ちょっと強すぎたね。もう一回やってみよ」
「かしこまりました」
コツコツ。コツコツコツ。グシャッ…
ロゼマリアちゃんの目に、じんわりと涙が浮かんでくる。
「こんなこともできないなんて…」
「誰でも最初はそうだよ」
「そうだよ!クリスタも小屋にいたとき全然上手にできなくて、サティにすっごく怒られて、サティがバーンってお皿をテーブルに置いて、それで部屋に隠れちゃったの!」
「ぐぬっ…」
今は落ち込んでいるロゼマリアちゃんを私が励ますターン。なのになぜ私がダメージを負っているのか。ファクト攻撃は容赦ない。
「クリスタちゃん、その話は…」
「だって本当のことだもん」
「そうだね…あのときはごめんね」
「いいよ、仲直りしたもんね」
「…はい、本当にすみませんでした」
できればもう言わないでもらっていいでしょうか。
でも思い返せば、言い訳になるけど、あのときはおばあちゃんが亡くなった直後で、本当に余裕がなかった。でも今は違う。どれだけ失敗してもいいから、ロゼマリアちゃんを優しく見守りたい。
環境が変わると、自分がここまで優しくいられることに驚く。ひとえにレオくんの横で「そうです殿下、お上手です」と声をかけ続けるパウロスさんや、はらはらしながら見守ってくれている厨房スタッフの皆さんのおかげだ。
「ロゼマリアちゃん、きっとできるからもう一回やってみよ?自信がなかったら、私と一緒にやってもいいし」
「いいえ、ひとりでやりますわ」
「よし、その意気だ」
なんと緊張感のある卵割り。失敗したら命でも取られるんかっていうくらい、全神経を集中させている。ロゼマリアちゃんだけではなく、見守っている全員が。
コンコン。
「よし、ひびはOK」
「はい」
親指をひびに添えて、関節と関節を合わせて引っ張る。パカリ。卵は無事ボウルへ落ちた。
「わ、殻も入らなかったよ。完璧」
パチパチパチとレオくんが拍手して、ロゼマリアちゃんは頬を赤くする。
「殿下、よそ見は厳禁です!ほら、茶色くなってきておりますよ!」
「あわわわ、本当だ!次は何だっけ、パウロス?」
「慌てずに、鍋を持ってカラメルを型へ…」
「うわ、じゅうっていう!熱いよパウロス!?」
「ええ、カラメルですから」
わたわたしているレオくんを見て、また卵を見て、ロゼマリアちゃんは嬉しそうに笑った。
「やりましたわ」
「うん、やったね」
卵を上手に割る。たったそれだけのこと。
だけど今までにやったことのないことを成し遂げた。それに失敗にめげずに挑戦した。すごいことだ。
「美味しいですわ」
誇らしげに、美味しそうに。
「そうだね」
その日食べたプリンは、ロゼマリアちゃんにとって、人生で一番美味しいプリンだったんじゃないかな。
ーーー
数日後シルヴァーナ公爵夫人がロゼマリアちゃんを迎えに来たとき、クリスタちゃんとロゼマリアちゃんは今生の別れのように「寂しい」と泣いた。
「明後日にはママ友会でまた一緒に遊べるよ」
「でも寂しいの!」
「私もですわ。もっと一緒に遊びたかったのに…」
「ロゼマリア、僕は…?」
迎えに来たシルヴァーナ公爵夫人は「驚きましたわ」と呟いた。
「クリスタ様とすっかり仲良くなって」
「ええ」
「だって秘密をシェアする仲だもん!」とクリスタちゃんが呟き、ロゼマリアちゃんが頷く。
「お母様にも教えてほしいわ」
「だめですわ、二人だけの秘密ですもの」
「あら、お母様は仲間外れね」
「だってお母様は親友ではなくて、お母様ですもの」
「嬉しいような、ほんの少し寂しいような」と夫人は肩をすくめた。こうやって少しずつ、子どもたちは親に見えない内面を育てて、親元を離れる準備をしていく。
「ですね」
子どもたちが授業を受けている間に、私は厨房でプリンづくりの打ち合わせ。って言っても、スペースを借りて材料と道具を用意するくらいなんだけど。
そしてちくちく手縫いした特製のお揃いエプロンと三角巾も添えて。ミシンがないから時間がかかったけど、お揃いのエプロン&三角巾で並ぶ三人とか、可愛い予感しかなくて頑張れた。想像だけですでに胸が痛い。
「サティ!授業終わったよ!」
子どもたちが元気に厨房にお目見え。
「はーい。じゃあお待ちかねのプリンづくりを始めますか。まずは準備ね。エプロンと三角巾をして、手もきれいに洗いますよ」
「はい!」
三人のエプロンと三角巾に無事私が悶絶したあと、レオくんはカラメル、ロゼマリアちゃんとクリスタちゃんは卵液づくりに挑む。
レオくんの横にはパウロスさんについてもらい、私は女子ズと卵液づくり。
「まずは卵を割るよ。お手本を見せるから、よく見ててね」
卵を作業台で叩いてひびを入れ、親指で横に力を入れて割る。慣れてしまえば何でもない作業だけど、これが子どもにとっては難しい。力加減がわからないからだ。
とはいえクリスタちゃんは小屋で何回かお手伝いしてくれたことがあったから、そつなくこなす。
「できた!殻が入っちゃったけど」
「できたね!殻を取り除けばOKだよ」
さあ、ロゼマリアちゃんは?
コツコツ。コツコツコツ。なかなかひびが入らない。
「もうちょっと強くやっても大丈夫だよ」
「かしこまりました」
グシャッ…
「あ、ちょっと強すぎたね。もう一回やってみよ」
「かしこまりました」
コツコツ。コツコツコツ。グシャッ…
ロゼマリアちゃんの目に、じんわりと涙が浮かんでくる。
「こんなこともできないなんて…」
「誰でも最初はそうだよ」
「そうだよ!クリスタも小屋にいたとき全然上手にできなくて、サティにすっごく怒られて、サティがバーンってお皿をテーブルに置いて、それで部屋に隠れちゃったの!」
「ぐぬっ…」
今は落ち込んでいるロゼマリアちゃんを私が励ますターン。なのになぜ私がダメージを負っているのか。ファクト攻撃は容赦ない。
「クリスタちゃん、その話は…」
「だって本当のことだもん」
「そうだね…あのときはごめんね」
「いいよ、仲直りしたもんね」
「…はい、本当にすみませんでした」
できればもう言わないでもらっていいでしょうか。
でも思い返せば、言い訳になるけど、あのときはおばあちゃんが亡くなった直後で、本当に余裕がなかった。でも今は違う。どれだけ失敗してもいいから、ロゼマリアちゃんを優しく見守りたい。
環境が変わると、自分がここまで優しくいられることに驚く。ひとえにレオくんの横で「そうです殿下、お上手です」と声をかけ続けるパウロスさんや、はらはらしながら見守ってくれている厨房スタッフの皆さんのおかげだ。
「ロゼマリアちゃん、きっとできるからもう一回やってみよ?自信がなかったら、私と一緒にやってもいいし」
「いいえ、ひとりでやりますわ」
「よし、その意気だ」
なんと緊張感のある卵割り。失敗したら命でも取られるんかっていうくらい、全神経を集中させている。ロゼマリアちゃんだけではなく、見守っている全員が。
コンコン。
「よし、ひびはOK」
「はい」
親指をひびに添えて、関節と関節を合わせて引っ張る。パカリ。卵は無事ボウルへ落ちた。
「わ、殻も入らなかったよ。完璧」
パチパチパチとレオくんが拍手して、ロゼマリアちゃんは頬を赤くする。
「殿下、よそ見は厳禁です!ほら、茶色くなってきておりますよ!」
「あわわわ、本当だ!次は何だっけ、パウロス?」
「慌てずに、鍋を持ってカラメルを型へ…」
「うわ、じゅうっていう!熱いよパウロス!?」
「ええ、カラメルですから」
わたわたしているレオくんを見て、また卵を見て、ロゼマリアちゃんは嬉しそうに笑った。
「やりましたわ」
「うん、やったね」
卵を上手に割る。たったそれだけのこと。
だけど今までにやったことのないことを成し遂げた。それに失敗にめげずに挑戦した。すごいことだ。
「美味しいですわ」
誇らしげに、美味しそうに。
「そうだね」
その日食べたプリンは、ロゼマリアちゃんにとって、人生で一番美味しいプリンだったんじゃないかな。
ーーー
数日後シルヴァーナ公爵夫人がロゼマリアちゃんを迎えに来たとき、クリスタちゃんとロゼマリアちゃんは今生の別れのように「寂しい」と泣いた。
「明後日にはママ友会でまた一緒に遊べるよ」
「でも寂しいの!」
「私もですわ。もっと一緒に遊びたかったのに…」
「ロゼマリア、僕は…?」
迎えに来たシルヴァーナ公爵夫人は「驚きましたわ」と呟いた。
「クリスタ様とすっかり仲良くなって」
「ええ」
「だって秘密をシェアする仲だもん!」とクリスタちゃんが呟き、ロゼマリアちゃんが頷く。
「お母様にも教えてほしいわ」
「だめですわ、二人だけの秘密ですもの」
「あら、お母様は仲間外れね」
「だってお母様は親友ではなくて、お母様ですもの」
「嬉しいような、ほんの少し寂しいような」と夫人は肩をすくめた。こうやって少しずつ、子どもたちは親に見えない内面を育てて、親元を離れる準備をしていく。
「ですね」
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