32 / 32
32 エピローグ
しおりを挟む
平民の暴動を見せつけられた「平民に国政に参加してもらうことがアズミアにとってプラスになる」という私の提案に、渋々ながら頷くしかなかった。
もちろん無理強いすれば、ひずみが生まれる。
私は公の場でも、私的な会合でも、何度も何度も説明し、少しずつ「表面的な賛同者」ではなく心から理解してくれる人を増やしていく。
王政を維持しつつ、平民でも能力ある者が政府の要職に就けるよう制度を整え、国王直下の諮問機関として、福祉・商業・工業などいくつかの分野に分かれた平民委員会を設置した。
初めて平民出身の商務副大臣が就任し、委員会も始動したときには、私の二十一歳の誕生日が間近に迫っていた。
「ようやくここまで…」
(王妃としてやるべきこと、王妃にしかできないことは、一区切りがついたわ)
そして二十一歳の誕生日、私は国王執務室の前にいた。
「入れ」
「国王陛下にご挨拶申し上げます」
「どうしても、俺から去るのか」
その声には、かつて見たことのない不安と寂しさが混じっている。
捨てられる子猫のような瞳。
「”はい”でもあり、”いいえ”でもあります」
「どういう意味だ」
「妻ではなくなりますが、臣下としてお支えします」
パリス様は苦笑する。
「残酷だな」
「その道を選ばれたのは陛下です」
「…そうだな。君は何度も、二人で一緒にいられる道に誘ってくれたのに」
ふっと彼の顔から笑みが消えた。
「臣下としての君は手放したくない。だから俺も…変われるよう努力するよ。大きな代償を払って、ようやくわかった」
「ええ、陛下」
パリス様は書類を差し出した。
教会から届いた離婚の許可書。
私はほっと胸をなでおろす。
「それからこれが、君の爵位だ」
「ありがとうございます」
「本当にここでいいのか。土地が瘦せていて、目立った産業もない領地だ」
「ええ、だからこそです。他の人には任せられません」
「…そうだな」
私は婚約指輪を外す。
幼いパリス様からいただいた、ピンクダイヤモンド。政策を進めるために宝石を売り払ったときも、これだけは売れなかった。
彼への情が残り続けていたから。
けれど、外すときが来たのだ。
「持っていてくれないか」
「もう私には必要ないものです」
左手の薬指は、開けておく必要があるから。新しい人生のために。
「そうか。新しい指輪があるんだな」
「ええ」
「幸せを祈ってる」
「ありがとうございます、陛下」
夫婦の寝室を出ると、レオナルドが待っていた。
「おかえり、奥さん」
「行きましょう。仕事は山積みよ」
私は深呼吸し、少し笑みを浮かべる。
(これからの人生、全力で生きるわ。でもこれからは、ひとりじゃない)
もちろん無理強いすれば、ひずみが生まれる。
私は公の場でも、私的な会合でも、何度も何度も説明し、少しずつ「表面的な賛同者」ではなく心から理解してくれる人を増やしていく。
王政を維持しつつ、平民でも能力ある者が政府の要職に就けるよう制度を整え、国王直下の諮問機関として、福祉・商業・工業などいくつかの分野に分かれた平民委員会を設置した。
初めて平民出身の商務副大臣が就任し、委員会も始動したときには、私の二十一歳の誕生日が間近に迫っていた。
「ようやくここまで…」
(王妃としてやるべきこと、王妃にしかできないことは、一区切りがついたわ)
そして二十一歳の誕生日、私は国王執務室の前にいた。
「入れ」
「国王陛下にご挨拶申し上げます」
「どうしても、俺から去るのか」
その声には、かつて見たことのない不安と寂しさが混じっている。
捨てられる子猫のような瞳。
「”はい”でもあり、”いいえ”でもあります」
「どういう意味だ」
「妻ではなくなりますが、臣下としてお支えします」
パリス様は苦笑する。
「残酷だな」
「その道を選ばれたのは陛下です」
「…そうだな。君は何度も、二人で一緒にいられる道に誘ってくれたのに」
ふっと彼の顔から笑みが消えた。
「臣下としての君は手放したくない。だから俺も…変われるよう努力するよ。大きな代償を払って、ようやくわかった」
「ええ、陛下」
パリス様は書類を差し出した。
教会から届いた離婚の許可書。
私はほっと胸をなでおろす。
「それからこれが、君の爵位だ」
「ありがとうございます」
「本当にここでいいのか。土地が瘦せていて、目立った産業もない領地だ」
「ええ、だからこそです。他の人には任せられません」
「…そうだな」
私は婚約指輪を外す。
幼いパリス様からいただいた、ピンクダイヤモンド。政策を進めるために宝石を売り払ったときも、これだけは売れなかった。
彼への情が残り続けていたから。
けれど、外すときが来たのだ。
「持っていてくれないか」
「もう私には必要ないものです」
左手の薬指は、開けておく必要があるから。新しい人生のために。
「そうか。新しい指輪があるんだな」
「ええ」
「幸せを祈ってる」
「ありがとうございます、陛下」
夫婦の寝室を出ると、レオナルドが待っていた。
「おかえり、奥さん」
「行きましょう。仕事は山積みよ」
私は深呼吸し、少し笑みを浮かべる。
(これからの人生、全力で生きるわ。でもこれからは、ひとりじゃない)
67
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幸福なる侯爵夫人のお話
重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。
初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。
最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。
あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こっちが好き♥バリスパリスアホスとのハッピーエンドは主人公が人良すぎて、理解に苦しんだわー
どっちも読んでいただいたんですね!
嬉しすぎる!ありがとうございます♡