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第二章 お師匠様がやってきた
お師匠様、間が悪すぎます!
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二度目の後悔は、その兄カイルが妻ブリジットを亡くして年数が経った頃、同じ名前の男爵家出身の、連れ子がいる後妻を迎えたことを阻止しなかったことだ。
兄は優秀だが捻くれた性格で、何かと損することの多い男だった。
それでも、そんな自分と結婚してくれた最初の妻を大事にしていて、早くに亡くしてしまったことでずっと落ち込んだ様子を見せていた。
そうしてあるとき、兄が連れてきた女が亡妻と同じ名前のブリジットだったことで、ルシウスや一族の者たちは形ばかり反対して、結局は再婚を認めた。
しかしこれが大きな間違いで、後妻とその連れ子は後にリースト家の乗っ取りを目論み、当時の当主だったルシウスの兄カイルを毒殺した。
その息子の、ルシウスの甥っ子をも監禁、毒殺しようと魔の手を伸ばし、いよいよ命の危機という頃に幼馴染みのカズンによって救出されている。
リースト家は魔法樹脂の使い手の一族である。
当主や一族の重要人物は、その身に危険が迫ると魔法樹脂の術式が自動発動し、仮死状態で透明な樹脂の中に保存される。
そうして、遅効性の毒のせいで落馬し、首の骨を折って倒れた姿勢のまま魔法樹脂の中に封印された兄の姿を見たときほど、ルシウスを絶望させたものはなかった。
肉体はまだ完全には死んでいなくて、ギリギリで生きている。
だが首の骨がぽっきり折れていて、落馬したその瞬間にとっくに魂が本人の肉体を離れてしまっている。
これではいくらルシウスが聖なる魔力持ちの聖者であっても、どうにもならない。
この世界で死者蘇生の術はまだ誰も完成させていない。
肉体の欠損をある程度までなら修復できるエリクサーを使っても、兄はもう戻っては来なかった。
三度目の後悔は、五年前、カズンが故郷を出奔する前後まで遡る。
最愛の兄を亡くした後、ルシウスにとって最も大事な存在は、アイシャやトオンたちが“鮭の人”と呼んでいる、兄カイルの忘れ形見ともいえる甥っ子ヨシュアだった。
その甥っ子と喧嘩をしてしまって気まずくて、一緒に故郷アケロニア王国の王都に戻るところを、一人自分だけ領地に残ってしまったことがあった。
そうしたら、カズンの父親が襲撃されて殺害され、カズンや甥っ子まで巻き込まれた大惨事に発展した。
たまたま現地にいた師匠の魔術師フリーダヤがルシウスを迎えに来てくれなかったら、本当に間に合わず甥っ子まで失うところだった。
その上、ようやく現場に駆けつけたときにはすべてが終わりかけていて、カズンはそのまま父親の仇を追って出奔してしまった。
たった一人で、ろくな資金も物資も持たずに。
甥っ子にはすぐにカズンを追ってくれと頼まれたが、できない。
ルシウスにとって最も大事な人間は甥っ子だ。その彼の幼馴染みで、ルシウスも幼い頃から可愛がっているからカズンももちろん大事だが、一番ではない。
(あれも相当に恨まれた……)
兄と同じ銀の花咲く湖面の水色の瞳で、憎悪を込めて睨まれるとルシウスとて堪える。
後に、そのことを兄の生前から兄弟揃って世話になっていた故郷の女王陛下に愚痴ると、
『お前の世界は相変わらず狭すぎる』
と嘆息されてしまったのだった。
探していたふたりはすぐに町の中央にある噴水広場で見つかったのだが、しかし。
「アイシャ! トオン!」
ふたりは噴水前のベンチに座って寄り添って、いや見つめ合ってとても距離が近かった。
というより、顔と顔がくっつきそうなほど。
「あ」
さすがにルシウスは気づいた。
己が恋人たちの時間を邪魔する野暮をやらかしてしまったことに。
「す、済まぬ。私は戻るから、お前たちはごゆっくり」
「「できるかー!!!」」
「だよな……本当に済まない」
ああ、やはり酒は飲んでも飲まれるな。
断酒は無理でも酒量は減らそう、とまた心の中の亡き兄に誓うルシウスだった。
『お前、できないことホイホイ誓うのやめたら?』
兄が呆れたように呟く声が聞こえた気がした。
--
こうして本作の貴重な恋愛成分は更に減っていくのであるorz
兄は優秀だが捻くれた性格で、何かと損することの多い男だった。
それでも、そんな自分と結婚してくれた最初の妻を大事にしていて、早くに亡くしてしまったことでずっと落ち込んだ様子を見せていた。
そうしてあるとき、兄が連れてきた女が亡妻と同じ名前のブリジットだったことで、ルシウスや一族の者たちは形ばかり反対して、結局は再婚を認めた。
しかしこれが大きな間違いで、後妻とその連れ子は後にリースト家の乗っ取りを目論み、当時の当主だったルシウスの兄カイルを毒殺した。
その息子の、ルシウスの甥っ子をも監禁、毒殺しようと魔の手を伸ばし、いよいよ命の危機という頃に幼馴染みのカズンによって救出されている。
リースト家は魔法樹脂の使い手の一族である。
当主や一族の重要人物は、その身に危険が迫ると魔法樹脂の術式が自動発動し、仮死状態で透明な樹脂の中に保存される。
そうして、遅効性の毒のせいで落馬し、首の骨を折って倒れた姿勢のまま魔法樹脂の中に封印された兄の姿を見たときほど、ルシウスを絶望させたものはなかった。
肉体はまだ完全には死んでいなくて、ギリギリで生きている。
だが首の骨がぽっきり折れていて、落馬したその瞬間にとっくに魂が本人の肉体を離れてしまっている。
これではいくらルシウスが聖なる魔力持ちの聖者であっても、どうにもならない。
この世界で死者蘇生の術はまだ誰も完成させていない。
肉体の欠損をある程度までなら修復できるエリクサーを使っても、兄はもう戻っては来なかった。
三度目の後悔は、五年前、カズンが故郷を出奔する前後まで遡る。
最愛の兄を亡くした後、ルシウスにとって最も大事な存在は、アイシャやトオンたちが“鮭の人”と呼んでいる、兄カイルの忘れ形見ともいえる甥っ子ヨシュアだった。
その甥っ子と喧嘩をしてしまって気まずくて、一緒に故郷アケロニア王国の王都に戻るところを、一人自分だけ領地に残ってしまったことがあった。
そうしたら、カズンの父親が襲撃されて殺害され、カズンや甥っ子まで巻き込まれた大惨事に発展した。
たまたま現地にいた師匠の魔術師フリーダヤがルシウスを迎えに来てくれなかったら、本当に間に合わず甥っ子まで失うところだった。
その上、ようやく現場に駆けつけたときにはすべてが終わりかけていて、カズンはそのまま父親の仇を追って出奔してしまった。
たった一人で、ろくな資金も物資も持たずに。
甥っ子にはすぐにカズンを追ってくれと頼まれたが、できない。
ルシウスにとって最も大事な人間は甥っ子だ。その彼の幼馴染みで、ルシウスも幼い頃から可愛がっているからカズンももちろん大事だが、一番ではない。
(あれも相当に恨まれた……)
兄と同じ銀の花咲く湖面の水色の瞳で、憎悪を込めて睨まれるとルシウスとて堪える。
後に、そのことを兄の生前から兄弟揃って世話になっていた故郷の女王陛下に愚痴ると、
『お前の世界は相変わらず狭すぎる』
と嘆息されてしまったのだった。
探していたふたりはすぐに町の中央にある噴水広場で見つかったのだが、しかし。
「アイシャ! トオン!」
ふたりは噴水前のベンチに座って寄り添って、いや見つめ合ってとても距離が近かった。
というより、顔と顔がくっつきそうなほど。
「あ」
さすがにルシウスは気づいた。
己が恋人たちの時間を邪魔する野暮をやらかしてしまったことに。
「す、済まぬ。私は戻るから、お前たちはごゆっくり」
「「できるかー!!!」」
「だよな……本当に済まない」
ああ、やはり酒は飲んでも飲まれるな。
断酒は無理でも酒量は減らそう、とまた心の中の亡き兄に誓うルシウスだった。
『お前、できないことホイホイ誓うのやめたら?』
兄が呆れたように呟く声が聞こえた気がした。
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こうして本作の貴重な恋愛成分は更に減っていくのであるorz
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