婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

3.鮭の人の暗躍~彼が飯マズコーヒーを飲ませたのは

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「まだ予想に過ぎぬ。ひとまず数日、様子を見ようではないか」

 などと呑気なことを言っていたら、鮭の人は本当に飯マズコーヒーを容疑者や囚人たちの取り調べ時の自白剤代わりに用いたらしい。

 数日後、「自供率は驚異の百パーセントを記録しました」と自慢げに鮭の人が報告に来た。
 古書店の食堂で、今回はカズンが淹れた美味しいコーヒーを飲みながら、アイシャたちは何とも反応に困った。

 今回はアイシャ、トオン、カズン、それにユーグレンの四人での出迎えだ。
 ここでの報告は既に神人ピアディには済ませているという。主に聖女のアイシャの意見を確認してから、帰りにルシウス邸に寄ってルシウスにも報告しに行くそうだ。
 鮭の人は大変フットワークが軽い。一国の宰相様とは思えないほど軽い。

「どんなに黙秘を貫こうとしても、大抵即時、強情な容疑者でも三日で陥落ですよ。すごいですよね、トオン君の飯マズコーヒー」
「ヨシュアさん。アイシャのほうに取調官たちから『もうやめてあげて……』と訴えが来てるんですが」

 鮭の人が来る前に、法務部から聖女アイシャの世話役として連絡を受けていたトオンだ。

 恐る恐る伝えると、宰相様たる鮭の人はにっこり笑って椅子に座りながら長い脚を伸ばし、爪先で床、正確には足元にある自分のリンクを叩いた。

 そこからポーンと大人の男性の頭くらいの、小型サイズの麻の袋が飛び出してくる。

 そのまま宙で鮭の人がキャッチすると、ざらっという音がした。袋の印字やその音からすると中身はコーヒー豆のようだ。一キロぐらいだろうか。

 袋をそのままトオンに放ってきた。また飯マズコーヒーを粉にしろということらしい。

「相手は罪人ですよ? じっくり時間をかけて取り調べもいいけど、『素直に白状しないと毎日これを飲ませるぞ』って圧かけたほうが早いです」
「トラウマ級の飯マズ強要は人権侵害にならないか?」
「それが今回に限っては、そうでもないんですよねえ」

 鮭の人は思案げな様子でかすかに微笑んでいる。同じ麗しの顔でも、叔父のルシウスとはやはり趣が違う。まったく異なる表情をしている。
 ルシウスの笑顔は頼もしいが、鮭の人が笑うと最近ちょっとアイシャもトオンもドキッと心臓が跳ねる。ドキッというかビクッというか。



 ゴリ、ゴリ……ゴリ……

 トオンがミルでコーヒー豆を挽く音をBGMにして、話を聞いた。

 神人ピアディに宰相に任命された後、鮭の人は旧カーナ王国内の政官財ありとあらゆる領域をくまなくチェックしたそうだ。
 王家の聖女に関する非人道的な対応を除けば、優良な国家運営を行っていた旧王国を。

「この国、何せ規模が小さいですから。実はそんなに重犯罪者って数はいなかったんですよ」
「そうなの!?」
「ええ。元々、特に死刑を求刑されるほどの重罪人は年に数人程度だったみたいですね。なのでピアディ様が仰るように、重罪人の処罰や処遇はお任せしても差し支えはなさそうです」

 こうなると死刑の代替案問題を提起したユーグレンの面目は潰れたも同然だが、必要な議論だったことは間違いない。

「あの。それで本当に、トオンのコーヒーを容疑者たちに飲ませたの? 本当に?」

 アイシャが心配そうに訊ねると、間違いなくその通りです、と鮭の人は頷いた。

「取調官からの陳情もあったのだけど、できたらこれ以上はやめてほしいの」
「どうしてです? アイシャ様」

 じーっと、鮭の人が虹彩に銀の花が咲いた 湖面の水色ティールカラーの瞳で探るように見つめてくる。
 普通の女子なら照れて頬を染めているだろうが、生憎と麗しの顔には既にルシウスや神人ジューアで慣れている。

「だってね、あのトオンのコーヒーは私が旧王城でクーツ王太子の婚約者だった頃に食べさせられた混ざり物や腐った材料が使われていた料理よりひどい味なの。およそ人間の口にするものではないわ。だから」
「ええ。だからいいんじゃないですか。だって」

 理由を告げた鮭の人に、アイシャたちは愕然とすることになった。

「だって、トオン君のコーヒーを飲ませたのは、そのアイシャ様に汚物のような食事を食べさせた者たちですから」

 旧王国時に聖女アイシャを虐げた罪で収監された者たちだという。

 その数は十三名。主にアイシャ付きの侍女や周辺警護の騎士たち、一部の官僚、それに料理を汚すことに手を貸した厨房の料理人たちが含まれる。





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