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第三章 異世界転移の謎を解け!
その頃、日本では~八十神、元カノと遭遇する2
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それぞれコーヒーと紅茶を注文して、さっそく僕のほうから話に入った。
「鈴木君に少し聞いたんだけど……あ、鈴木君ってわかる? 御米田と同じ営業部の後輩で」
「知ってるわ。あの子にも私、話を聞いてもらってて……」
「………………」
鈴木君に恋愛相談とか。相手を間違え過ぎだろうに。
夏に異世界の件で一度浅草に集まってから、母親の件で揉めている鈴木君は顔を合わせるたび憔悴している。
異世界より自分のことで手一杯のようだった。
にしても、野口穂波をどうするか。
このまま誤魔化すのも簡単だと思った。
だが、と胸元に手を当てた。
銀のチェーンに通したアダマンタイト原石のペンダントがそこにはある。
彼女も問題の多い人物だが、僕と御米田の確執に巻き込んでしまった負い目はやはり、あった。
「その、君にも悪いことをしたと思ってて」
「あ、それはもういいの。気にしてない。代わりに私、ユウキ君と再構築したくて」
「再構築? 御米田と?」
一方的に別れた謝罪をしようとした僕をスルーして、とんでもないことを言い出した。
これだけ世間で『もなか村消失事件』が大騒ぎになっているのに、何を言ってるんだ?
「鈴木君に教えてもらって、ネットの掲示板にも書き込んでみたの。ユウキ君本人から返信があったわ。まだ私にもチャンスがあるかもって」
いや……ないだろ。無理だろ。
その掲示板なら僕も読んだ。過去ログの途中に、執拗にスレ主のイッチ御米田に『元カノのこと』を質問していた人物が確かにいた。
この女だったか……本人かよ。
それからコーヒーが冷めるまで彼女の話を聞いたが、どうも僕の話をあまり聞いていないようだ。
本人は聞いてるつもりで、「うん、それでね」「でもね」とすぐ自分の話に戻して、自分のことだけを一方的に繰り返している。
これは堂々巡りだ。
僕は話の隙間を見つけて、言うべきことだけ言っておくことにした。
「僕は御米田から君を奪ったことや、社内の成果を奪ったことに本当に悪いことをしたと思ってる。また会うことがあったらあいつに土下座してでも謝りたい。君はどうなんだ?」
「えっ? わ、私は」
この女と御米田の破局は、御米田が退職した後もしばらく社内で話題になっていた。
まあ僕とのこともなんだが、『将来性がなさそうだから』と御米田の嫌だったところをあれこれ周りの人間に吹聴する姿を僕も何回か見ている。
特に、田舎が本当にど田舎で何もないところなのに、帰省のたびに誘ってきてすごく嫌だったことなどをだ。
……いつも昼に牛丼食ってて嫌気がさした、はまあ……若い女性には無理だったかもだが……
あいつ、好き嫌いがないし一番時短で食べられるからと、会社近くの牛丼屋チェーン店を日替わりする昼飯ルーティンだったもんな。
まだ覚えてるぞ、牛丼大盛り汁だく豚汁付きの紅生姜増し増し。気分によって温玉を付けてたな……
「仲直りして、また恋人に戻りたい。今度は結婚も前向きに考えたいなって……」
いや、無理だろ。ほんと無理だろ。
喉元まで出かかったが堪えた。諦めろと余計なことを言って、ならばあなたと、などとこちらに矛先が向いたら堪らないからな。
元勤め先からすると、御米田ユウキという男は肝心なことを周りに相談しない男で、それが逆にリーダーシップを感じさせていた、との評価だったらしい。
上司たちはせめて辞める前に一度相談して欲しかった、と残念そうだった。
反面、この元カノは自分のことばかり考えているし、会話もそうだ。相手の話を基本的に聞いていない。
結婚前に破綻して良かったんじゃないか?
ピコン!
テーブルに置いていたスマホが鳴る。
御米田の父親ゲンキさんからのメッセージだ。次に異世界研究会の集まりをいつにするか、確認したいらしい。
「ちょっとごめん、返信させて」
いつでもOKです、と返信をフリック入力して送信しながら、ふと思いついたことを口に出した。
「再縁したいとは言うけど。御米田は異世界にいるっていうじゃないか。どうやって会うつもりだい?」
「そうなのよね……それが問題で。叔母に頼んでまた会えるようにご祈祷してもらってるんだけど」
「ご祈祷?」
何だそれは初耳だ。
聞き出してみると、実家青森の近くに住んでいる叔母が霊能者らしい。願望成就にご利益のある護符や祈祷が得意だという。
なるほど。僕や御米田と付き合う力を、そこから得ていたか。
……いや、僕や御米田の側の力を〝下げて〟その隙を狙ったのか。
そう考えると、この女と関わってるとき、僕や御米田がおかしかった理由に説明がつく。
「穂波ちゃん。御米田がもし異世界から戻ってくるとしたら、東京じゃないよ」
「え?」
「ほら、村ごと無くなったっていう〝もなか村〟さ。東北の」
だから御米田が元住んでたアパートに来たって何もならない、と言おうとしたんだが、彼女は違う受け取り方をしたようだ。
「わ、私、行って来ます、もなか村へ!」
「……は?」
慌てて立ち上がり、素早くコートを着込んで野口穂波は帰っていった。
……お茶代も払わずに。
「……あの女は、なかったな」
お茶代といっても大した金額じゃないし、デートなら僕がいつも支払ってきた。
だが、もう別れた女から、当たり前のように伝票を置いていかれると面白くない。
その後、鈴木君情報によると、野口穂波は有休を申請して本当にもなか村へと向かったそうだ。
ちょうど十二月下旬で仕事納め寸前で、すぐ冬休みに入る。このまま年末年始を現地で過ごすようだ。
とはいえ現地は侵入禁止措置が取られているから村には入れない。
隣町の旅館に陣取って、毎日タクシーで近づけるところまでもなか村を確認してるらしい。
……無茶苦茶な行動力だ。
会えるものなら会ってみろ、だ。
☆ ☆ ☆
それから年末に一度、異世界研究会の四人でまた集まって忘年会をみどり社長が開いてくれた。
正月はゲンキさんもみどり社長も挨拶回りで忙しいそうで、次の集まりは仕事始まりの翌週頃からと話してあった。
ところが年が明けても、一月の中旬に入っても次の予定が決まらず、特に鈴木君との連絡が取れなくなってしまった。
ゲンキさんに確認しても「今はまだ話せない」と曖昧な返事ばかりが続いた。
まさか本当に異世界転移してしまったのか? とやきもきしていたら、辞めた会社で仲が良かった先輩からメッセージが来た。
『八十神さん、落ち着いて聞いてね
あなたと仲が良かった鈴木君、ご家族とトラブルを起こして警察沙汰になったの
一応伝えておきますね』
そんなに仲が良かった覚えはないが、ひとまず続きを読む。
『年明けすぐに会社近くの銀座で!
ニュースにもなってるから確認してみて』
「!?」
近所のコンビニに来ていた僕は、ホットコーヒーを買って店先ですぐネットニュースを開いた。
検索、〝銀座〟〝トラブル〟〝警察沙汰〟……いくつかワードを変えて、鈴木君のものと思われる記事を見つけた。
『資産家親子、遺産で揉める?
~銀座のお騒がせ騒動に観光客の反応は』
横浜出身の資産家の娘(無職)が遺産を巡って息子とトラブルを起こし、殺害未遂で母親の方が現行犯逮捕されたとの記事だった。
場所は銀座。人通りの多いところだから通行人に通報されたらしい。
息子の名前はないが、逮捕された母親は名前と写真があった。
――浜那珂はるみ。ゲンキさんと鈴木君から聞いていた、鈴木君の母親の名前だ。間違いない。
「!?」
戦慄して、持っていたスマホやコーヒーの紙コップを落としそうになった。
五十手前の「これが殺人未遂の犯人?」と首を傾げるほど品のある外見のほっそりした女性だった。見た目だけならもろに上流層の人間である。
だが驚いたのはそこじゃない。
「なんで……母上が、ここに」
八十神アキラのじゃない。京都に住んでる母ではない。
鈴木君の母親と思しき人物は、異世界の僕の本体、ジオライドの母親に髪と目の色以外は瓜二つだったのだ。
王や勇者に庇われ更生する前のジオライドを歪めた女だ。それが鈴木君の……ということは勇者の前世カズアキ君の母親だった……?
どういうことだ? そんな情報は資料になかったはずだ。
何より今、鈴木君はどうなっている?
ネットニュースの記事の日付と時刻は二時間ほど前。会社の人はこれを知ってすぐメッセージをくれていたようだ。
なら鈴木君を気にかけているゲンキさんも間違いなく知っているはず。
どういうことだ? この世界は王とジオライドが行った夢見の世界のはずだ。勇者の前世が生きていた〝過去〟のはず。
情報が足りない。まずは鈴木君に連絡を入れて探りを入れるのが先だな。
→王様チート剣から現れたのは、まさかの人物……
※御米田、牛丼テイクアウト時は紅生姜の小袋どっさり持ち帰るタイプと見た。店員に顔覚えられて「たくさん入れときますね~」とかサービスされてたと思う……
「鈴木君に少し聞いたんだけど……あ、鈴木君ってわかる? 御米田と同じ営業部の後輩で」
「知ってるわ。あの子にも私、話を聞いてもらってて……」
「………………」
鈴木君に恋愛相談とか。相手を間違え過ぎだろうに。
夏に異世界の件で一度浅草に集まってから、母親の件で揉めている鈴木君は顔を合わせるたび憔悴している。
異世界より自分のことで手一杯のようだった。
にしても、野口穂波をどうするか。
このまま誤魔化すのも簡単だと思った。
だが、と胸元に手を当てた。
銀のチェーンに通したアダマンタイト原石のペンダントがそこにはある。
彼女も問題の多い人物だが、僕と御米田の確執に巻き込んでしまった負い目はやはり、あった。
「その、君にも悪いことをしたと思ってて」
「あ、それはもういいの。気にしてない。代わりに私、ユウキ君と再構築したくて」
「再構築? 御米田と?」
一方的に別れた謝罪をしようとした僕をスルーして、とんでもないことを言い出した。
これだけ世間で『もなか村消失事件』が大騒ぎになっているのに、何を言ってるんだ?
「鈴木君に教えてもらって、ネットの掲示板にも書き込んでみたの。ユウキ君本人から返信があったわ。まだ私にもチャンスがあるかもって」
いや……ないだろ。無理だろ。
その掲示板なら僕も読んだ。過去ログの途中に、執拗にスレ主のイッチ御米田に『元カノのこと』を質問していた人物が確かにいた。
この女だったか……本人かよ。
それからコーヒーが冷めるまで彼女の話を聞いたが、どうも僕の話をあまり聞いていないようだ。
本人は聞いてるつもりで、「うん、それでね」「でもね」とすぐ自分の話に戻して、自分のことだけを一方的に繰り返している。
これは堂々巡りだ。
僕は話の隙間を見つけて、言うべきことだけ言っておくことにした。
「僕は御米田から君を奪ったことや、社内の成果を奪ったことに本当に悪いことをしたと思ってる。また会うことがあったらあいつに土下座してでも謝りたい。君はどうなんだ?」
「えっ? わ、私は」
この女と御米田の破局は、御米田が退職した後もしばらく社内で話題になっていた。
まあ僕とのこともなんだが、『将来性がなさそうだから』と御米田の嫌だったところをあれこれ周りの人間に吹聴する姿を僕も何回か見ている。
特に、田舎が本当にど田舎で何もないところなのに、帰省のたびに誘ってきてすごく嫌だったことなどをだ。
……いつも昼に牛丼食ってて嫌気がさした、はまあ……若い女性には無理だったかもだが……
あいつ、好き嫌いがないし一番時短で食べられるからと、会社近くの牛丼屋チェーン店を日替わりする昼飯ルーティンだったもんな。
まだ覚えてるぞ、牛丼大盛り汁だく豚汁付きの紅生姜増し増し。気分によって温玉を付けてたな……
「仲直りして、また恋人に戻りたい。今度は結婚も前向きに考えたいなって……」
いや、無理だろ。ほんと無理だろ。
喉元まで出かかったが堪えた。諦めろと余計なことを言って、ならばあなたと、などとこちらに矛先が向いたら堪らないからな。
元勤め先からすると、御米田ユウキという男は肝心なことを周りに相談しない男で、それが逆にリーダーシップを感じさせていた、との評価だったらしい。
上司たちはせめて辞める前に一度相談して欲しかった、と残念そうだった。
反面、この元カノは自分のことばかり考えているし、会話もそうだ。相手の話を基本的に聞いていない。
結婚前に破綻して良かったんじゃないか?
ピコン!
テーブルに置いていたスマホが鳴る。
御米田の父親ゲンキさんからのメッセージだ。次に異世界研究会の集まりをいつにするか、確認したいらしい。
「ちょっとごめん、返信させて」
いつでもOKです、と返信をフリック入力して送信しながら、ふと思いついたことを口に出した。
「再縁したいとは言うけど。御米田は異世界にいるっていうじゃないか。どうやって会うつもりだい?」
「そうなのよね……それが問題で。叔母に頼んでまた会えるようにご祈祷してもらってるんだけど」
「ご祈祷?」
何だそれは初耳だ。
聞き出してみると、実家青森の近くに住んでいる叔母が霊能者らしい。願望成就にご利益のある護符や祈祷が得意だという。
なるほど。僕や御米田と付き合う力を、そこから得ていたか。
……いや、僕や御米田の側の力を〝下げて〟その隙を狙ったのか。
そう考えると、この女と関わってるとき、僕や御米田がおかしかった理由に説明がつく。
「穂波ちゃん。御米田がもし異世界から戻ってくるとしたら、東京じゃないよ」
「え?」
「ほら、村ごと無くなったっていう〝もなか村〟さ。東北の」
だから御米田が元住んでたアパートに来たって何もならない、と言おうとしたんだが、彼女は違う受け取り方をしたようだ。
「わ、私、行って来ます、もなか村へ!」
「……は?」
慌てて立ち上がり、素早くコートを着込んで野口穂波は帰っていった。
……お茶代も払わずに。
「……あの女は、なかったな」
お茶代といっても大した金額じゃないし、デートなら僕がいつも支払ってきた。
だが、もう別れた女から、当たり前のように伝票を置いていかれると面白くない。
その後、鈴木君情報によると、野口穂波は有休を申請して本当にもなか村へと向かったそうだ。
ちょうど十二月下旬で仕事納め寸前で、すぐ冬休みに入る。このまま年末年始を現地で過ごすようだ。
とはいえ現地は侵入禁止措置が取られているから村には入れない。
隣町の旅館に陣取って、毎日タクシーで近づけるところまでもなか村を確認してるらしい。
……無茶苦茶な行動力だ。
会えるものなら会ってみろ、だ。
☆ ☆ ☆
それから年末に一度、異世界研究会の四人でまた集まって忘年会をみどり社長が開いてくれた。
正月はゲンキさんもみどり社長も挨拶回りで忙しいそうで、次の集まりは仕事始まりの翌週頃からと話してあった。
ところが年が明けても、一月の中旬に入っても次の予定が決まらず、特に鈴木君との連絡が取れなくなってしまった。
ゲンキさんに確認しても「今はまだ話せない」と曖昧な返事ばかりが続いた。
まさか本当に異世界転移してしまったのか? とやきもきしていたら、辞めた会社で仲が良かった先輩からメッセージが来た。
『八十神さん、落ち着いて聞いてね
あなたと仲が良かった鈴木君、ご家族とトラブルを起こして警察沙汰になったの
一応伝えておきますね』
そんなに仲が良かった覚えはないが、ひとまず続きを読む。
『年明けすぐに会社近くの銀座で!
ニュースにもなってるから確認してみて』
「!?」
近所のコンビニに来ていた僕は、ホットコーヒーを買って店先ですぐネットニュースを開いた。
検索、〝銀座〟〝トラブル〟〝警察沙汰〟……いくつかワードを変えて、鈴木君のものと思われる記事を見つけた。
『資産家親子、遺産で揉める?
~銀座のお騒がせ騒動に観光客の反応は』
横浜出身の資産家の娘(無職)が遺産を巡って息子とトラブルを起こし、殺害未遂で母親の方が現行犯逮捕されたとの記事だった。
場所は銀座。人通りの多いところだから通行人に通報されたらしい。
息子の名前はないが、逮捕された母親は名前と写真があった。
――浜那珂はるみ。ゲンキさんと鈴木君から聞いていた、鈴木君の母親の名前だ。間違いない。
「!?」
戦慄して、持っていたスマホやコーヒーの紙コップを落としそうになった。
五十手前の「これが殺人未遂の犯人?」と首を傾げるほど品のある外見のほっそりした女性だった。見た目だけならもろに上流層の人間である。
だが驚いたのはそこじゃない。
「なんで……母上が、ここに」
八十神アキラのじゃない。京都に住んでる母ではない。
鈴木君の母親と思しき人物は、異世界の僕の本体、ジオライドの母親に髪と目の色以外は瓜二つだったのだ。
王や勇者に庇われ更生する前のジオライドを歪めた女だ。それが鈴木君の……ということは勇者の前世カズアキ君の母親だった……?
どういうことだ? そんな情報は資料になかったはずだ。
何より今、鈴木君はどうなっている?
ネットニュースの記事の日付と時刻は二時間ほど前。会社の人はこれを知ってすぐメッセージをくれていたようだ。
なら鈴木君を気にかけているゲンキさんも間違いなく知っているはず。
どういうことだ? この世界は王とジオライドが行った夢見の世界のはずだ。勇者の前世が生きていた〝過去〟のはず。
情報が足りない。まずは鈴木君に連絡を入れて探りを入れるのが先だな。
→王様チート剣から現れたのは、まさかの人物……
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