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第三章 異世界転移の謎を解け!
その頃の元カノ~二度とお姫様になれない私
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私は野口穂波。御米田ユウキ君の……あんまり言いたくないけど元カノよ。
元彼のユウキ君の故郷、もなか村――かつて東北に確かに存在したはずの小さな村は、今や地図から消えて八ヶ月が経過していたわ。
何で消えたのか、理由はまったくわからないとニュースで言っていたっけ。
それなのに、最近になって奇妙な噂が囁かれ始めていた。
「消えたはずの建物が戻ってきてるらしい」
最初にそれを耳にしたときは、ただのデマだろうと思った。
でも、日に日に増えていく証言を前にして、それを単なる噂と片付けることができなくなっていった。
まさか、そんなことが。
でももし、それが本当だったら――
私の心はざわついた。あの人も、戻ってくるんじゃないかって。
そんなとき、新宿で偶然再会した元彼の一人、アキラさんが言っていたの。
『御米田が戻ってくるかもしれない』
その言葉にすがるように、私はすぐに有給を取って、もなか村があった隣町の旅館に部屋を取った。
ちょうど年末で、お正月休み前の数日だけ有給を取れば良かったのも、私の思いつきを後押ししてくれていた。
何の確証もないけれど、ここにいれば何かを掴めるような気がして。
そして今日。
突如として、もなか村が再び現れたと聞いた。
私はいてもたってもいられず、旅館を飛び出し、慌ててタクシーを呼んでもらって村の跡地へと向かった。
タクシーの中で私はひたすら祈っていた。
もなか村に着いても、中へは入れないからタクシーはかなり離れた場所で私を降ろした。
そして、息を切らしながら辿り着いた先には――信じられない光景が広がっていた。
確かにそこにあるはずのなかったものが、目の前に広がっていたのだ。
何回も何回もこの村に来て、この目で何もないことは確認済みだったのに。
まず目に入ったのは、村役場の白い二階建ての建物だったわ。
以前は完全に消失して、瓦礫すら残っていなかったはずのその建物が、霧の中から徐々にその輪郭をはっきりさせていた。
東京の役場とは比べ物にならないくらい小さくて、薄汚れた建物だけど。
そして――
そのエントランスから、一人の青年が姿を現した。黒髪で、目も黒くて、背の高い……
「………………!」
息が止まりそうになる。
御米田ユウキ。
間違いない。私の男だ。
私は駆け寄ろうとした。でも、足がすくんで動けなかった。
「ユウキ君……」
かすれた声で、彼の名を呼ぶ。
胸の奥が苦しくて仕方なかった。
会いたかった。
ずっと、ずっと会いたかった。
……謝りたかった。
どれほど自分が愚かだったか、地面に頭を擦り付けてでも伝えたかった。
でも、どうしようもなく怖かった。
私はかつて、彼を一方的に捨てている。
交際中はとても大事にされていたから、その思い出だけをよすがに、一縷の望みをかけてもなか村へ来て、再会を今果たそうとしていたの。
でも、大丈夫。私たちはきっとまたやり直せる。
私は、霊能者の叔母に念入りにご祈祷してもらった石を持っている。今も巾着に入れて手で握りしめているわ。
もう今度こそ自分から手放すような馬鹿なことはしない……
ユウキ君は、どんな顔をするだろう? 私を見て、どんな言葉をかけるだろう?
だけど――
「あ、あー。すいません、マスコミの方ですか? え、警察? ええっ、公安まで!? 大丈夫、大丈夫です。ちゃんと事情はすべてお話します、お話できますから!」
「……え?」
ユウキ君は私のすぐそばを通り過ぎていった。
それだけじゃない。
待ち構えていたスーツ姿の男たちが彼を取り囲み、何台もの黒い車の一つへと、押し込むように乗せていく。
私は、ただそれを呆然と見つめることしかできなかった。
彼は――私を無視したわけではない。
本当に〝気づかなかった〟のだ。
私は、ただの群衆の一人だった。
「そんな……」
信じられなかった。
付き合っていた頃なら、どんなに人混みに紛れていても、ユウキ君は私を見つけてくれた。
たとえ新宿駅東口の夕方のラッシュ時でも。
たとえ数百、数千人の群衆のいる千葉や大阪のアミューズメントパークの中でも。
彼は迷うことなく、私の名前を呼び、駆け寄ってくれた。そういう人だった。
頼り甲斐があって、とても素敵な、私の……
なのに今は――
「ユウキ君……私のこと、気づかなかった。わ、わからなかった……あ、ああ……あああああ!」
膝から崩れ落ちる。
雪まみれの冷たい地面に手をつく。スカートに土が付いた。でも、そんなことはどうでもよかった。
パキンッ
世界が崩れる音がした。
いや違う。音は握りしめていた小さな巾着の中からした。
巾着を開くと、中に入っていた黒曜石が割れている。叔母が何日も護摩壇の前でご祈祷して念を込めてくれた、再縁のための御守りが……
これが、私とユウキ君の関係が本当の意味で終わった瞬間だった。
彼はもう、私を見ない。
どれだけの人々の中にいても、私を〝特別〟にはしてくれない。
私は、誰よりも素敵な王子様を、自らの手で捨ててしまった。
もう、王子様は私を迎えには――二度と来ない。
※元カノ、存在を認識すらされずエンド ザマァー
元彼のユウキ君の故郷、もなか村――かつて東北に確かに存在したはずの小さな村は、今や地図から消えて八ヶ月が経過していたわ。
何で消えたのか、理由はまったくわからないとニュースで言っていたっけ。
それなのに、最近になって奇妙な噂が囁かれ始めていた。
「消えたはずの建物が戻ってきてるらしい」
最初にそれを耳にしたときは、ただのデマだろうと思った。
でも、日に日に増えていく証言を前にして、それを単なる噂と片付けることができなくなっていった。
まさか、そんなことが。
でももし、それが本当だったら――
私の心はざわついた。あの人も、戻ってくるんじゃないかって。
そんなとき、新宿で偶然再会した元彼の一人、アキラさんが言っていたの。
『御米田が戻ってくるかもしれない』
その言葉にすがるように、私はすぐに有給を取って、もなか村があった隣町の旅館に部屋を取った。
ちょうど年末で、お正月休み前の数日だけ有給を取れば良かったのも、私の思いつきを後押ししてくれていた。
何の確証もないけれど、ここにいれば何かを掴めるような気がして。
そして今日。
突如として、もなか村が再び現れたと聞いた。
私はいてもたってもいられず、旅館を飛び出し、慌ててタクシーを呼んでもらって村の跡地へと向かった。
タクシーの中で私はひたすら祈っていた。
もなか村に着いても、中へは入れないからタクシーはかなり離れた場所で私を降ろした。
そして、息を切らしながら辿り着いた先には――信じられない光景が広がっていた。
確かにそこにあるはずのなかったものが、目の前に広がっていたのだ。
何回も何回もこの村に来て、この目で何もないことは確認済みだったのに。
まず目に入ったのは、村役場の白い二階建ての建物だったわ。
以前は完全に消失して、瓦礫すら残っていなかったはずのその建物が、霧の中から徐々にその輪郭をはっきりさせていた。
東京の役場とは比べ物にならないくらい小さくて、薄汚れた建物だけど。
そして――
そのエントランスから、一人の青年が姿を現した。黒髪で、目も黒くて、背の高い……
「………………!」
息が止まりそうになる。
御米田ユウキ。
間違いない。私の男だ。
私は駆け寄ろうとした。でも、足がすくんで動けなかった。
「ユウキ君……」
かすれた声で、彼の名を呼ぶ。
胸の奥が苦しくて仕方なかった。
会いたかった。
ずっと、ずっと会いたかった。
……謝りたかった。
どれほど自分が愚かだったか、地面に頭を擦り付けてでも伝えたかった。
でも、どうしようもなく怖かった。
私はかつて、彼を一方的に捨てている。
交際中はとても大事にされていたから、その思い出だけをよすがに、一縷の望みをかけてもなか村へ来て、再会を今果たそうとしていたの。
でも、大丈夫。私たちはきっとまたやり直せる。
私は、霊能者の叔母に念入りにご祈祷してもらった石を持っている。今も巾着に入れて手で握りしめているわ。
もう今度こそ自分から手放すような馬鹿なことはしない……
ユウキ君は、どんな顔をするだろう? 私を見て、どんな言葉をかけるだろう?
だけど――
「あ、あー。すいません、マスコミの方ですか? え、警察? ええっ、公安まで!? 大丈夫、大丈夫です。ちゃんと事情はすべてお話します、お話できますから!」
「……え?」
ユウキ君は私のすぐそばを通り過ぎていった。
それだけじゃない。
待ち構えていたスーツ姿の男たちが彼を取り囲み、何台もの黒い車の一つへと、押し込むように乗せていく。
私は、ただそれを呆然と見つめることしかできなかった。
彼は――私を無視したわけではない。
本当に〝気づかなかった〟のだ。
私は、ただの群衆の一人だった。
「そんな……」
信じられなかった。
付き合っていた頃なら、どんなに人混みに紛れていても、ユウキ君は私を見つけてくれた。
たとえ新宿駅東口の夕方のラッシュ時でも。
たとえ数百、数千人の群衆のいる千葉や大阪のアミューズメントパークの中でも。
彼は迷うことなく、私の名前を呼び、駆け寄ってくれた。そういう人だった。
頼り甲斐があって、とても素敵な、私の……
なのに今は――
「ユウキ君……私のこと、気づかなかった。わ、わからなかった……あ、ああ……あああああ!」
膝から崩れ落ちる。
雪まみれの冷たい地面に手をつく。スカートに土が付いた。でも、そんなことはどうでもよかった。
パキンッ
世界が崩れる音がした。
いや違う。音は握りしめていた小さな巾着の中からした。
巾着を開くと、中に入っていた黒曜石が割れている。叔母が何日も護摩壇の前でご祈祷して念を込めてくれた、再縁のための御守りが……
これが、私とユウキ君の関係が本当の意味で終わった瞬間だった。
彼はもう、私を見ない。
どれだけの人々の中にいても、私を〝特別〟にはしてくれない。
私は、誰よりも素敵な王子様を、自らの手で捨ててしまった。
もう、王子様は私を迎えには――二度と来ない。
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