勇者かける

青空びすた

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×双子の弟・前編

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 世界に災いの満ちるとき、勇者が誕生する。
 そんな伝説のある村に僕らは産まれた。双子は吉兆とされるこの国で、兄と弟は愛されてすくすく育った。兄であるサニーは活発で野山を駆け回るのが好きだった。弟の僕、レイニーはそんな兄と一緒にいたくて、よく彼の背中を追いかけていた。元気な兄と内気な弟。どちらも個性だと村の人たちは暖かく見守ってくれていた。

 僕らが7歳の頃に転機が訪れる。村に冒険者がやってきたのだ。
 目的は近くの森に出没するようになったモンスターの退治。村人総出で資金を集めギルドに依頼したところ、彼らが村に来てくれた。
 サニーは目を輝かせ彼らの後ろをちょこちょこ追いかけていた。そんな兄に連れられて僕も彼らを追いかけた。サニーは彼らから剣術や火の起こし方、動物の捌き方、食べてもいい草の見分け方といった冒険者に必須の知識を学び夢を見つけたようだった。
 僕は、彼が離れていってしまうような気がしてとても怖かった。


ーーそして、僕らが10歳の頃。サニーは村を飛び出していった。


 痛む体を横たえながらぼんやりと昔のことを思い出す。走馬灯ってやつか、なんて浅い呼吸でぼんやり考える。元気に飛び出していった兄は、どこかで冒険者をやっているらしく本当に時々手紙が届く。そんな生活ももう3年。どこかで元気にやっててくれればそれでいい。
 霞む視界と息をするたびに痛む肺から目を背けて、片割れのことを想う。
「死んだのか?」
「殺してない」
「息はある」
「なら急ぎ儀式を」
 今日は嫌な予感がしてたんだ。お隣で飼ってた羊は逃げ出すし、妹たちは母さんでも手がつけられないくらい泣くし、父さんは薪割り中に斧を壊すし、村の入口には、黒い外套の変な男たちが立っているし。
 たぶん自分はあの男たちに攫われたのだろう。微かに聞こえた儀式の意味はわからないけれど、僕にとって全く良くないことなのは間違いない。

 やがて乱暴にガタイのいい男に担ぎ上げられて、丸い部屋へ連れてこられた。その中央に無造作に捨て置かれる。新たな痛みに呻くが部屋の壁に沿うように並んだローブの人物たちは気にも止めていないようだ。
 ぶつぶつと長ったらしい詠唱の途中から床がどす黒い色に発光しだした。まさに闇そのもののようなそれが形作ったのは巨大な顔。男にも女にも見えるソレの瞼は閉じられているが、絶えず闇色の涙を流し続けている。
 醜悪なそれに身の毛がよだつ。なんだ、あいつらは何をしようとしているんだ。
「原初の神、混沌の主よ」
「我らの悲願、そのための供物を」
「どうかお納めください。哀しきお方よ」
「そして世界に終焉を」
 だめだ、と思った。
 何がどうなって世界を滅ぼすとか、ふざけたことを言っているのか知らないが、絶対にだめだと思った。そんなことさせてたまるか。この世界には、父も母も妹たちも、そして大切な片割れだって存在してるんだ。
 ぽっかりと、醜悪な顔が口を開く。その奥には何もないみたいに見えるのに、様々なものが渦巻いている。僕をここまで連れてきた男が、その口の中に僕を運ぶ。なにか見えないもので縛られた身体は少しも抵抗ができない。
 必死に考える。脳みそは動いてる。考えろ、僕にできる最大の抵抗を。

『いいかい? これは最初の勇者様が残してくださった魔法だよ』

 それを教えてくれたのは誰だっただろう。村の者なら誰でも使える、けれどみんなが使わない魔法。神と呼ばれたモノの口が閉じる寸前に、ありったけの魔力で発動した。
「『絶対防御 ツァイト・ゲ・フェングニス』」
 自分と、周りにある物の時間を止める魔法。自分を救うものが現れるまで全てを止める魔法は、裏を返せば解けない可能性のある諸刃の剣だ。
「サニー。本当はもう一度会いたかった」
 少しずつ凍りついていく時間の中で、僕は最後まで愛しい彼のことを考えていた。
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