14 / 39
×双子の弟・後編
しおりを挟む
凍りついた体が春の息吹で解けていく。
はじめに溶け出したのは思考。完全に止まっていた時間は考えることまで氷にしてしまったから、魔法を使ったのがつい先程のようだ。
逆回しのように魔法が解ける。もしかして失敗したのだろうか。考え出した頭は余計なことまで思い巡らせる。
前を向くと閉じかけていた混沌から外の光が見えた。外側からこじ開けられるように光はどんどん大きくなる。
思わず左手を延ばす。目があった誰かは驚いて僕の手を掴んだ。
助かるんだ。身体は相変わらず痛くて動かない。声もまだちゃんとは出せない。けれどどうしょうもなく安堵して、目からはだらだら涙がこぼれた。
引っ張り出された体をそのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。サラリと揺れる髪色はどこかで見たことがあるような気がする。
のろのろと左手を動かしてその髪をくしゃりと撫でる。息を吸い込めば落ち着く匂い。思わず顔を擦り寄せる。
「感動の再会はあとにしろ、解けるぞ!」
「勇者様、彼をこちらに!」
誰かが叫んでいる。僕が勇者と呼ばれる彼の邪魔になっていることはわかりきってるから、髪を梳く手を止めて、右手で彼を押し返した。
酷く傷ついたような表情のその人。僕と同じ色の瞳に目を合わせて笑いかける。彼は大人なのに僕よりも泣いていた。
声はまだ戻らない。けれど僕らに言葉はいらない。
彼は一つ頷くと僕を近くにいた仲間に預け闇色の顔に向き直った。いつの間にかその手には光り輝く剣が握られている。
「ここは危険です。行きましょう」
仲間の男が僕を抱えて戦場を離脱する。建物の外は、見たこともない森の中だった。
(助かったんだ、よかった。本当に、よかった……)
再び涙が溢れ出した。僕を抱えた男の人は慰めるように頭を撫でてくれる。なんだか安心してしまって、意識がゆっくりと落ちていった。
左手を握られるぬくもり、閉じた瞼の向こうに感じるお日様の光、身体を包み込む羽のように軽い布団の感触。そんなものを感じながら僕の意識は浮上した。よほど疲れていたのか夢も見なかったように思う。
繋いだ手に力を込める。強く握り返されて喜びが胸を満たす。ゆっくり目を開けば、そこには僕を引っ張り出した男性がいた。20歳前後だろうか。彼は涙でぐしゃぐしゃになったまま、僕に抱きついてきた。着替えもしていないようで、服には何かがこびりついている。
「よかっ……、れい……」
彼は泣きながら何かを言おうとしたが、結局は嗚咽に消えた。右手で彼の頭をよしよしと撫でながら部屋の中を見る。近くにはあの時の彼の仲間が立っていた。
「あれから丸一日、ずっとあんたにくっついてたんだ。そろそろ着替えくらいしろって言ってやってくれ」
「あの、ありが」
「礼なら、俺より先にそいつにな」
男は朗らかに笑うと部屋の外に出ていった。僕は悩んで、しがみついてくる彼をぎゅうぎゅう抱き返す。びっくりしたのか、彼の涙は止まった。
「助けに来てくれてありがとう」
「レイニー……」
また泣きそうになりながら、それでも微笑んでくれる彼。大きくなってもそんなところは変わっていないらしい。
「サニー、大好き」
そう告げればびっくりしたように目を見開いて、僕の瞳をじっと見てきた。逸らさないように僕も見つめ返す。
「俺のこと、わかるの?」
「わかるよ。僕の半身、大好きなサニー」
「レイニー……っ! 10年も、待たせてごめん…
…」
サニーのぬくもりを感じながらそんなに経ったのか、なんて苦笑する。結局彼は僕を離さず、様子を見に来た魔法使いらしい女の子に叱られて、しぶしぶ着替えに行った。
僕らは今、村に戻るための旅をしている。父と母は息災かと聞けば、元気にやっていると教えてくれた。それでも心配をかけてしまったから心がチクリと痛む。
「レイニー。世界を救ってくれてありがとう」
「何言ってるの? 勇者はサニーだろ」
「俺とレイニーは二人でひとつだから。それにレイニーがいなきゃ、この世界は終わってる」
僕が呑み込まれかけたアレは混沌の"なりそこない"だった。復活のために勇者の村の子どもを欲していたらしい。僕が時間を止めたから、対抗策を準備できたと言っていた。それに10年もかかってしまったと、話しながらとても落ち込んでいたけれど。
あの日から僕らはずっと一部を触れ合わせている。流石にトイレは遠慮したけど、家族だからと風呂に入るのは押し切られてしまった。見た目は随分差ができてしまったが、僕らはずっと仲のいい双子だ。
「レイニー」
「ん?」
「大好き」
そう言ってサニーは僕に口づけた。家族で兄弟で双子だけれど、想いが大きくなりすぎた彼は僕に愛を囁く。家族愛はもともと持ってて、その他の愛情も傾け始めた彼は、僕のことを一生手放す気はないらしい。
僕も大概片割れに甘いな、なんて笑いながら、何度も降ってくる唇を受け入れた。
はじめに溶け出したのは思考。完全に止まっていた時間は考えることまで氷にしてしまったから、魔法を使ったのがつい先程のようだ。
逆回しのように魔法が解ける。もしかして失敗したのだろうか。考え出した頭は余計なことまで思い巡らせる。
前を向くと閉じかけていた混沌から外の光が見えた。外側からこじ開けられるように光はどんどん大きくなる。
思わず左手を延ばす。目があった誰かは驚いて僕の手を掴んだ。
助かるんだ。身体は相変わらず痛くて動かない。声もまだちゃんとは出せない。けれどどうしょうもなく安堵して、目からはだらだら涙がこぼれた。
引っ張り出された体をそのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。サラリと揺れる髪色はどこかで見たことがあるような気がする。
のろのろと左手を動かしてその髪をくしゃりと撫でる。息を吸い込めば落ち着く匂い。思わず顔を擦り寄せる。
「感動の再会はあとにしろ、解けるぞ!」
「勇者様、彼をこちらに!」
誰かが叫んでいる。僕が勇者と呼ばれる彼の邪魔になっていることはわかりきってるから、髪を梳く手を止めて、右手で彼を押し返した。
酷く傷ついたような表情のその人。僕と同じ色の瞳に目を合わせて笑いかける。彼は大人なのに僕よりも泣いていた。
声はまだ戻らない。けれど僕らに言葉はいらない。
彼は一つ頷くと僕を近くにいた仲間に預け闇色の顔に向き直った。いつの間にかその手には光り輝く剣が握られている。
「ここは危険です。行きましょう」
仲間の男が僕を抱えて戦場を離脱する。建物の外は、見たこともない森の中だった。
(助かったんだ、よかった。本当に、よかった……)
再び涙が溢れ出した。僕を抱えた男の人は慰めるように頭を撫でてくれる。なんだか安心してしまって、意識がゆっくりと落ちていった。
左手を握られるぬくもり、閉じた瞼の向こうに感じるお日様の光、身体を包み込む羽のように軽い布団の感触。そんなものを感じながら僕の意識は浮上した。よほど疲れていたのか夢も見なかったように思う。
繋いだ手に力を込める。強く握り返されて喜びが胸を満たす。ゆっくり目を開けば、そこには僕を引っ張り出した男性がいた。20歳前後だろうか。彼は涙でぐしゃぐしゃになったまま、僕に抱きついてきた。着替えもしていないようで、服には何かがこびりついている。
「よかっ……、れい……」
彼は泣きながら何かを言おうとしたが、結局は嗚咽に消えた。右手で彼の頭をよしよしと撫でながら部屋の中を見る。近くにはあの時の彼の仲間が立っていた。
「あれから丸一日、ずっとあんたにくっついてたんだ。そろそろ着替えくらいしろって言ってやってくれ」
「あの、ありが」
「礼なら、俺より先にそいつにな」
男は朗らかに笑うと部屋の外に出ていった。僕は悩んで、しがみついてくる彼をぎゅうぎゅう抱き返す。びっくりしたのか、彼の涙は止まった。
「助けに来てくれてありがとう」
「レイニー……」
また泣きそうになりながら、それでも微笑んでくれる彼。大きくなってもそんなところは変わっていないらしい。
「サニー、大好き」
そう告げればびっくりしたように目を見開いて、僕の瞳をじっと見てきた。逸らさないように僕も見つめ返す。
「俺のこと、わかるの?」
「わかるよ。僕の半身、大好きなサニー」
「レイニー……っ! 10年も、待たせてごめん…
…」
サニーのぬくもりを感じながらそんなに経ったのか、なんて苦笑する。結局彼は僕を離さず、様子を見に来た魔法使いらしい女の子に叱られて、しぶしぶ着替えに行った。
僕らは今、村に戻るための旅をしている。父と母は息災かと聞けば、元気にやっていると教えてくれた。それでも心配をかけてしまったから心がチクリと痛む。
「レイニー。世界を救ってくれてありがとう」
「何言ってるの? 勇者はサニーだろ」
「俺とレイニーは二人でひとつだから。それにレイニーがいなきゃ、この世界は終わってる」
僕が呑み込まれかけたアレは混沌の"なりそこない"だった。復活のために勇者の村の子どもを欲していたらしい。僕が時間を止めたから、対抗策を準備できたと言っていた。それに10年もかかってしまったと、話しながらとても落ち込んでいたけれど。
あの日から僕らはずっと一部を触れ合わせている。流石にトイレは遠慮したけど、家族だからと風呂に入るのは押し切られてしまった。見た目は随分差ができてしまったが、僕らはずっと仲のいい双子だ。
「レイニー」
「ん?」
「大好き」
そう言ってサニーは僕に口づけた。家族で兄弟で双子だけれど、想いが大きくなりすぎた彼は僕に愛を囁く。家族愛はもともと持ってて、その他の愛情も傾け始めた彼は、僕のことを一生手放す気はないらしい。
僕も大概片割れに甘いな、なんて笑いながら、何度も降ってくる唇を受け入れた。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる