勇者かける

青空びすた

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×双子の弟・後編

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 凍りついた体が春の息吹で解けていく。
 はじめに溶け出したのは思考。完全に止まっていた時間は考えることまで氷にしてしまったから、魔法を使ったのがつい先程のようだ。
 逆回しのように魔法が解ける。もしかして失敗したのだろうか。考え出した頭は余計なことまで思い巡らせる。
 前を向くと閉じかけていた混沌から外の光が見えた。外側からこじ開けられるように光はどんどん大きくなる。

 思わず左手を延ばす。目があった誰かは驚いて僕の手を掴んだ。

 助かるんだ。身体は相変わらず痛くて動かない。声もまだちゃんとは出せない。けれどどうしょうもなく安堵して、目からはだらだら涙がこぼれた。
 引っ張り出された体をそのままぎゅうぎゅうと抱きしめられる。サラリと揺れる髪色はどこかで見たことがあるような気がする。
 のろのろと左手を動かしてその髪をくしゃりと撫でる。息を吸い込めば落ち着く匂い。思わず顔を擦り寄せる。
「感動の再会はあとにしろ、解けるぞ!」
「勇者様、彼をこちらに!」
 誰かが叫んでいる。僕が勇者と呼ばれる彼の邪魔になっていることはわかりきってるから、髪を梳く手を止めて、右手で彼を押し返した。
 酷く傷ついたような表情のその人。僕と同じ色の瞳に目を合わせて笑いかける。彼は大人なのに僕よりも泣いていた。
 声はまだ戻らない。けれど僕らに言葉はいらない。
 彼は一つ頷くと僕を近くにいた仲間に預け闇色の顔に向き直った。いつの間にかその手には光り輝く剣が握られている。
「ここは危険です。行きましょう」
 仲間の男が僕を抱えて戦場を離脱する。建物の外は、見たこともない森の中だった。
(助かったんだ、よかった。本当に、よかった……)
 再び涙が溢れ出した。僕を抱えた男の人は慰めるように頭を撫でてくれる。なんだか安心してしまって、意識がゆっくりと落ちていった。


 左手を握られるぬくもり、閉じた瞼の向こうに感じるお日様の光、身体を包み込む羽のように軽い布団の感触。そんなものを感じながら僕の意識は浮上した。よほど疲れていたのか夢も見なかったように思う。
 繋いだ手に力を込める。強く握り返されて喜びが胸を満たす。ゆっくり目を開けば、そこには僕を引っ張り出した男性がいた。20歳前後だろうか。彼は涙でぐしゃぐしゃになったまま、僕に抱きついてきた。着替えもしていないようで、服には何かがこびりついている。
「よかっ……、れい……」
 彼は泣きながら何かを言おうとしたが、結局は嗚咽に消えた。右手で彼の頭をよしよしと撫でながら部屋の中を見る。近くにはあの時の彼の仲間が立っていた。
「あれから丸一日、ずっとあんたにくっついてたんだ。そろそろ着替えくらいしろって言ってやってくれ」
「あの、ありが」
「礼なら、俺より先にそいつにな」
 男は朗らかに笑うと部屋の外に出ていった。僕は悩んで、しがみついてくる彼をぎゅうぎゅう抱き返す。びっくりしたのか、彼の涙は止まった。
「助けに来てくれてありがとう」
「レイニー……」
 また泣きそうになりながら、それでも微笑んでくれる彼。大きくなってもそんなところは変わっていないらしい。
「サニー、大好き」
 そう告げればびっくりしたように目を見開いて、僕の瞳をじっと見てきた。逸らさないように僕も見つめ返す。
「俺のこと、わかるの?」
「わかるよ。僕の半身、大好きなサニー」
「レイニー……っ! 10年も、待たせてごめん…
…」
 サニーのぬくもりを感じながらそんなに経ったのか、なんて苦笑する。結局彼は僕を離さず、様子を見に来た魔法使いらしい女の子に叱られて、しぶしぶ着替えに行った。


 僕らは今、村に戻るための旅をしている。父と母は息災かと聞けば、元気にやっていると教えてくれた。それでも心配をかけてしまったから心がチクリと痛む。
「レイニー。世界を救ってくれてありがとう」
「何言ってるの? 勇者はサニーだろ」
「俺とレイニーは二人でひとつだから。それにレイニーがいなきゃ、この世界は終わってる」
 僕が呑み込まれかけたアレは混沌の"なりそこない"だった。復活のために勇者の村の子どもを欲していたらしい。僕が時間を止めたから、対抗策を準備できたと言っていた。それに10年もかかってしまったと、話しながらとても落ち込んでいたけれど。
 あの日から僕らはずっと一部を触れ合わせている。流石にトイレは遠慮したけど、家族だからと風呂に入るのは押し切られてしまった。見た目は随分差ができてしまったが、僕らはずっと仲のいい双子だ。
「レイニー」
「ん?」
「大好き」
 そう言ってサニーは僕に口づけた。家族で兄弟で双子だけれど、想いが大きくなりすぎた彼は僕に愛を囁く。家族愛はもともと持ってて、その他の愛情も傾け始めた彼は、僕のことを一生手放す気はないらしい。
 僕も大概片割れに甘いな、なんて笑いながら、何度も降ってくる唇を受け入れた。
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