勇者かける

青空びすた

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×天使

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 ぼくの名前はソフィア。下級天使です。一月ほど前に天界で誕生し、神様から名を賜りました。生を受けてからまだ間もないですが、天使は生まれたときにはすでに人間で言うところの五歳前後の姿をしています。ある程度の知識も初めから身につけているので、天使は皆すぐに使命を全うします。
 ぼくの使命は神様が種の代表としてお選びになった勇者の行動を記録することです。ぼくのための勇者は神託としてすでに神官長の元に囁かれたと伺っております。もうすぐ選ばれた人間が神殿を訪れることになるのでしょう。
「ソフィア」
「はい」
「あなたが外界にゆく前に、これを」
 下級天使を育てる使命を持つ中級天使に差し出されたのは、一冊の本でした。中は真っ白で、何も書かれていません。
「神様は貴方の目を通して外界をご覧になります。しかし、貴方の感じたものを留め置くようにとお望みです」
「感じたもの、ですか?」
「神様は愛情深き御方。きっと何かお考えがあってのことなのでしょう」
「かしこまりました。拝命致します」
 本を抱えて、扉の前に立ちます。ここを潜ればいよいよ外界です。目の前の扉を思いっきり開けば続くのは空のようにどこまでも青い世界です。楽しみであると同時にどうしようもない不安感に襲われました。
『ソフィア、いってらっしゃい。寂しくなったらいつでも戻っておいで』
「……いってきます!」
 姿の見えない神様のお言葉に背中を押していただき、ぼくは意を決して足を踏み出しました。


 目の前は空です。翼を広げることも忘れていたぼくは、真っ逆さまに落ちました。
「わ、わわわわぁ~」
「子ども?」
 地面はもうすぐです。ぼくは叩きつけられてぺちゃんこになってしまうのです。神様、ごめんなさい。
 襲いくるはずの衝撃に身体を丸くします。けれど、ぽふんと何かに包まれました。感じたことのない温かさに頭が混乱します。
「大丈夫? 怪我してない?」
 優しい声に恐る恐る目を開くと、心配な顔でぼくを見つめる男の子がいました。どうやったのか、彼はぼくを抱きとめてくれたようでした。
「だ、大丈夫、です」
「よかった。じゃあゆっくり下ろすね」 
 ぼくを怖がらせないために、彼は優しくそう言うとぼくの両足を地面につけてくれました。けれどぼくの足は主人に逆らって立ち上がってくれません。
「立てません……」
「怖かったのかな? オレ、今からこの近くの神殿に行くんだ。キミもそこで休ませてもらおう」
 彼はそう言うとぼくの身体を軽々と抱き上げてくれました。思わずその首に手を回し縋ってしまいます。
「わ、軽いね。ちゃんと食べてる?」
「食べる、は、まだしたことがありません」
「したことがない?」
 天界では食事を必要としないのです。食事を嗜む天使は態々そのために外界に行くほどです。他にも使命の空き時間で、色々な娯楽を愉しむ天使がいます。そんな天使の姿を神様はお慶びになられます。愛情深い方なのです。
「これから神殿に?」
「うん、神官長に呼ばれたんだ。小さな町だから、長って言っても一人しかいないんだけどね」
 クシフォスと名乗った彼はぽつぽつと色んな話をしてくれました。クシフォスの父はこの町の自警団で、元冒険者だそうです。彼も近いうちに自警団に入団する予定だとか。
 話をしているうちに、神殿に到着しました。驚くほどあっという間でした。心配するクシフォスの手を借りて、ぼくは自分の足で立ちます。忘れていた翼をひらいて浮かび上がりました。
「ソフィア」
 クシフォスが驚いた目でぼくを見ています。そういえば、ぼくは自分が天使であることをクシフォスに言っていませんでした。
 なんて言おうか迷っていると、神殿の扉が中から開かれ、壮年の男性が姿を見せました。
「クシフォス、来たのですね。おや、その方は?」
「ソフィアです。貴方がここの?」
「はい。この地を任されております」
 ぼくは空中で姿勢を整えると、中級天使に教えられた通りゆっくり頷いてみせました。

 神官長はクシフォスを中に招き入れると礼拝堂に促しました。そしてそのまま退室してしまいます。クシフォスは礼の形をとりました。ぼくも倣おうとした時に神様の笑い声が聞こえました。間違えました。
 ぼくは慌ててステンドグラスの方に飛び上がり、神様の御言葉を伝えます。神様は外界のものに直接告げることはできないのです。
「神様の御言葉です」
『クシフォス』
「クシフォス」
『貴方を勇者に任じます』
「え、彼を勇者に?」
『私の代わりにソフィアを守り、世界を見せてください』
「神様の代わり?」
「ソフィア。神様はなんて言ったの?」
 クシフォスに促されて、ぼくは神様の言葉を復唱します。でも、それは、自警団に入団するという彼の夢を壊してしまうのではないでしょうか。短い時間でしたが、ぼくは彼に嫌われたくないと思うくらい、彼が好きになっていました。
「オレが勇者。ソフィアを守る……」
「クシフォス、いいのです。神様には違う方にとお願いしてみます。ぼくは、貴方の嫌がることはしたくありません」
 思わず地面に足をつけて彼に歩み寄ると、彼は嬉しそうにぼくを抱き上げました。
「嫌がるなんてとんでもない。光栄だよ。キミはオレじゃ嫌かな?」
「そんなはずありません」
「嬉しい」
 クシフォスはそのままくるくると回ります。ぼくもなんだか楽しくなりました。止まった彼の頬に祝福を贈ります。
「ぼくの勇者。これから、末永くよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 お返しにと頬に贈られた口づけに、ぼくは天にも昇る心地になってしまいました。ぼくの目を通してご覧になっていた神様は随分と御満悦の様子で、楽しげに笑っていらっしゃいました。
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