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×ドラゴン
しおりを挟むぷかぷかふわふわ、穏やかな闇の中で僕は浮かぶようにその時を待っている。緩く目を閉じて、微睡みの中、ぽかぽかする気持ちを抱えて。
それは君との最期の約束。かつてロジウムだった君は、何度めかの最後の時にこう言った。
「次は同じ時を生きたい」
その言葉に僕はとても感動して、生まれ直すことを決めたんだ。
魂にこびりついた記録は消えないし、数多の君と過ごした記憶を消したいとも思わない。けれど君の運命は何度繰り返しても受け入れられない。
だから僕は封印することにした。
かつ、かつん
卵の向こうから君が呼んでいる。懐かしい魂、間違えるはずがない。小さくなった身体を精一杯伸ばして僕は答える。頑張るよ、殻は自分で破らなきゃ。
薄い光が暖かな闇に射し込む。初めて見るのは君がいい。僕は僕のことを封印して、頭で殻を押しのけた。
「ぴぃ……」
はじめてみるせかい。きれいないろがきらきらひかる。
「あ、ぶぅ」
「ぴぃぴぃ」
ぼくの"たいせつ"がそこにいる。もぞもぞからだをうごかして、よじよじとちかづく。だいすき。
「だー、うー」
「ぴぃぃ」
かわいい! ぼくのしっぽあむあむしてる! ぼくも、ぼくもきみのほっぺをぺろぺろする! あったかい、だいすき!
がちゃんとどこかでおとがした。
「見て、ドラゴンよ! 産まれてる!」
だれかがなにかをさけんだ。でもぼくはめのまえのきみにむちゅうで、はなれないように、くっつくのでいそがしかった。
ボクらが産まれて約十年。ボクの大切な君の今回の名前はクロム。ボクはチビって呼ばれてる。これはちゃんとした名前じゃない。いつかクロムと契約するために、ボクの名前はまだ無い。
「チビ、学校行こ!」
「ぴぎゃあ」
ボクは元気よく鳴いてクロムの頭に座る。パパとママに挨拶して、クロムは勢いよく家を飛び出した。平和な日常、かつての日々とは似ても似つかない大切な時間。
緩く目を閉じながら過去に思いを馳せる。二年くらい前から封印が緩んで、時々昔のことを思い出すようになってきた。これはたぶん、仕方のないこと。クロムがボクと契約して勇者になるための必要事項。ふつふつと、怒りが湧いてくる。
「ぴ、ふすぅ……」
「チビ、どうかした?」
ずっと一緒にいるクロムはボクのことを僕以上にわかってる。むんむんしてるのを見かねて、頭をなでなでしてくれた。嬉しい。あったかい。大好き。
どんなに避けたくてもその日は来る。君が勇者になってしまう日。その前日に、僕は全部思い出して、今回は横取りすることにした。
いつも二人で寝ているベットの上、向かい合う君の鼻を甘噛する。
「ぴ、ぷぎゃ」
「チビ?」
「ぴぃぴい」
チビ、という言葉に頭を横に振る。気づいてほしい。僕の魂の伴侶、大好きなクロム。
「チビ、は違う」
「ぴぃ」
「んー。なんだろ?」
あと数分、気づいて、お願い。
「ずっと、チビのこと、呼びたかった名前があるんだ」
僕はじっと、息を潜める。クロムの瞳を見つめて、その時を待つ。
「『コバルト』」
やった、勝った。間に合った。
僕はぐぐぐっと手足を伸ばす。人に似せた両手でクロムを思い切り抱きしめる。僕らの種族は番を見つけると愛し合うために相手の形になる。この瞬間から、僕はクロムの番になった。
「クロム、大好き。呼んでくれてありがとう」
「ちび、なの?」
「うん。でも、コバルトって呼ばれたい」
時間が進む。クロムの運命の誕生日。彼はいつも十二歳の誕生日に、神から勇者の称号を与えられていた。
翼を広げて、彼を抱えて僕は僕たちだけの世界に逃げ込む。そこは彼の心が映し出される青い空のような世界。
「誕生日おめでと、クロム」
「ありがとう、コバルト」
笑顔のクロム。君はもう僕だけのもの。神にだって渡さない。ほとぼりが冷めるまでここに居よう。
でも僕らはパパとママのことも大好きだから、引きこもるのは一日が限界だった。心配したっていっぱい怒られた。
僕はみんなの愛の力を少しずつもらって、村を囲む大きな結界を作ってやった。僕らが愛し愛される限り、神はもうクロムを見つけられない。ざまぁみろ。
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