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第三十話 四凶
しおりを挟む暗く陰鬱としたカビ臭い鉄格子の嵌った部屋に、これから先三千年はここから出られないという男が収容された。
ドサッと倒れ込んだ硬い床でボロの毛布だけが男の体を包み込む。
そこへ黒翼を持つ虎が優しく声を掛けた。
「可哀想に、疲れた顔をしているな。」
「ヒッ、誰だぁ!」
「お前は可哀想な子だ。我はお主を知っておるぞ。民の為、臣下の為に反旗を翻した男だ。そうだろう?だが、お前は阻まれこの様な粗末で下賤な監獄に閉じ込められている。可哀想な子だなぁ。」
黒翼の虎は目を細め、男を慰める様に見つめる。
「そ、そうだ、!その通りだ!」
虎の優しい物腰に、男は思わずボロの毛布を捨て演説を始めた。
「わたしは民と部下の為に立ち上がったのだ!あの"龍"だというだけで王になった男を何時までも据え置いているから民の懐が潤わないのだ。」
かつて男の顎に蓄えられていた髭は投獄の際、バッサリと切り捨てられた。髪も短く刈り上げられ不慣れな感触を味わう度、惨めで腹立たしい気持ちが沸々と湧き上がる。
歯がギッと鳴る程噛み締める。
今まで築き上げた地位も人望も此処には何一つ無い事を思い知らされる。
歯痒い。
口惜しい。
憎らしいぞ。
此処にあるのは我が身ひとつだ。
「助けが欲しいか、哀れな英雄よ?」
「ああ、助けてくれ!わたしに今あるのはこの身だけだが、対価が足りなければわたしの命をやろう。あの憎き王とそのオンナにわたしが自らの手で裁きを受けさせるのだ。その後ならこの身体の事は好きに使え。食おうが捨てようが構うものか。」
吐き捨てる様に希望へと縋り付く男へ、ニタァと虎の大きな口が笑う。
「良い決意だ。チカラを貸す代わりにお前の名を聞いておこうか。」
男はかつて無いほど朗々とした声で己の名を黒翼の虎に雄々しく告げた。
「わたしはダルム・イシュタット。義栄と仙桃姫に正義の裁きを下す者。」
「お前の名を覚えたぞダルムよ。助けが必要な時は我を呼べ。我が名は窮奇。お前を守る者だ。」
「窮奇、」
何処かで聞いた覚えのある名だ。
何処だ。
記憶を手繰りハッとした時には、もう窮奇の姿は無かった。
灯りの無いこの監獄でまるで影に溶けた様に虎は居なくなっていた。
だが、男のダルム・イシュタットの汗ばんで震える手と打ち捨てた毛布が
これが幻では無いと教えてくれた。
"あの黒翼、あの体躯、あの御名前ーーー"
それは、現王を引き摺り下ろす為に資料を漁っていた時の事。
多くの地上の逸話やなんかを見る中で、確かに見たのだ。
窮奇という二文字と、それの属する四凶という存在を確かに見た。
「嗚呼。本物だ...間違い無い、わたしは本物にお会いしたのだ!あの"窮奇様"にお会いできたのだ、!下等な麒麟何ぞとは比べ物にならない御方、四龍に唯一対抗し得る強力な四凶のお一人にわたしはお会いしたのだぁあ!」
月の灯りもままならないカビ臭い監獄にダルムの歓喜に満ちた声が轟いた。
「そうと来れば、監禁などと生温い方法はもうヤメだ。アイツらにはもっと残酷で残忍な罰を与えなければならない。アイツらのせいで私はこんな、薄汚いブタ箱にいるのだ、!わたしは王になるのだ!」
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