【完結】【R18】池に落ちたら、大統領補佐官に就任しました。

mimimi456/都古

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番外編

番外編 空きっ腹に飯4

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氷漬けにすると情報をポロポロ引き出せる代わりに、デスクワークも増える。
大勢の部下が情報の裏取りに奔走してくれる。
その結果として、解決率が上がると報告書は溜まるし、広報の確認、備品の許可、施設管理許可、許可、許可、許可。
許可待ちの書類も溜まる。

そろそろ癒しが欲しい。

美味しいご飯を一緒に食べてくれるひとが欲しい。
腹が減った時、一緒に食べてくれるひとも。

可愛い子が良いな。

最近は美味しいご飯を食べても、少し寂しいんだよな。
家に帰ると尚更で。
さっき食べた筈なのに腹が減るんだ。

「はぁ。サンドイッチ食べたい。」

「あ、まさか!」

「ちょっと、長官!?まだお昼休憩じゃありませんよっ、!」

「うん。でもお腹空いたんだよね僕。」

ひらっ、と手を振って席を立つ。
後ろで部下がゴネてる声がする。
楽しい部下達だ。
文句を言いつつ、僕の我儘を許してくれるんだから。

ヨレヨレのシャツ。
眩しい太陽。
少し寂しいサンドイッチ、の最後の一口を齧ろうとした時。
目の前に烏が降りて来た。

トントン、と歩いて僕の目の前で止まった。

「え?」

トントン、と向こうへ歩いて止まる。
スンッ、と首を振る烏。

「着いてこい、って?」

誰か教えてくれないかな。烏って溜め息吐いたりするのかな。

「い、行きます!行くよ!」

大慌てでサンドイッチを口に詰め、転びそうになりながら羽ばたいた烏の後を追う。

もしかして。
もしかして。
僕にも、出来損ないの俺でも、番が居るー…っ。

どうしよう。
どうしよう。ヨレヨレのシャツ、
ボサボサの頭で行って嫌われたりしないだろうか。

「あの‼︎!こっちに烏は飛んで来ませんでしたかっ」

彼は美しかった。

側のガラスケースが陽の光で煌めいていたのは、彼を美しく演出する為に違いない。

それに可愛い!

「結婚しましょう!」

「嫌です。」

「何故っ、!?」

何故!?
何としても譲れない。だって君は可愛い。
君は僕が手に入れたい。誰に盗られるより先に君を貰い受けたい。

彼の驚いた顔はとっても可愛かった。
大きな瞳が溢れそうな程にまるくなり、煌めいていた。
可愛い。
可愛いな。
可愛い。可愛い。可愛い。
なんで可愛いんだ?

瞳が宝石みたいだ。
それなのに、感情が冷めた瞬間、瞳の煌めきは隠れてしまった。

「あんたなんか"あんた"で良いだろ。僕はあんたの名前なんか知りたくも無い。」

あぁ。そうだね。
僕も、僕の名前なんかどうだって良い。
それより君の名前をいっぱい呼んで、君の事がいっぱい知りたいんだ。

「長官、休憩から戻って何か調べ物をしていらっしゃるんですが。」

「何だろう、指名手配犯でも見付けたのか?」

「未解決事件の手掛かりかも。」

「凄まじい集中力だ。」


僕は生まれて初めて、コールマンの名前に感謝した。
絶縁状は、唯の紙切れなんだ。
法的効果は何も無い。
更に、先の倒産騒ぎで僕たち家族は取引をした。

演出だ。
18から寮に入り泥臭い叩き上げの青年は、家族に礼を言う。
家族も僕に謝罪する。

お互い辛い状況でよくここまでのし上がり、耐えた事を賞賛し合う。
これから僕たち家族は、今までより更に強い絆でコールマン家を建て直していくと言う演出は効果抜群だった。

僕の就任式は盛り上がり、幸いにも彼の父上の耳にも入っていた。

「ですが、随分なご苦労をなさったでしょう。」

「えぇ。一時は恥じてもおりました。ご存知かも知れませんが私は学院を出ていません。ですが多くの学びを得たのも確かです。」

「そうでしょう。私共ケプロン家も祖父の代まではそうでした。コールマン家は私共が這っても手の届かない名家ですが聞いた噂では。」

「えぇ。"成り上がりのお貴族被れ"と私なんかは未だに囁かれてしまいます。」

「息子には聞かせられませんな。」

「申し訳ない。」

「いいえ。それは私も...隣国と言えど道は何処も同じですな。では、これから私共はどう策を練りましょうか。未来の義理の息子の手腕をお聞かせ戴きたい。」


ーーー

「遅らせちゃってごめんね。」

そう言う僕に彼はさっきからずっと不機嫌そうにしている。
君が言ったんじゃ無いか。

あんたなんか"あんた"で充分だ、って。

それなのに、さっき人伝に聞いたコールマンという名前にぷんすか怒っている。
今は、彼の父上と話し込んだ僕の素性にも興味がある。


「父が知っているならそれで十分です。」

そんな風には見えないな。
彼は自分の容姿には自信がある。
けど、ケプロン家という自分にまるで価値を感じていないようだ。

僕もだ。ケプロン家の君にはまるで興味が無い。
ユディール、君のキスはどんな味だろうか。

あぁ。
腹減った。
食べたい。
彼のキスが欲しいな。

これは意外だった。

彼のキスは情熱的で、身体もぐいぐい押し付けて来て、僕も腰を強く抱いてしまった。

理性がぶっつり切れて吹っ飛ぶかと思った。
あんなにぷんすかしているのに、こんなキスをして。
僕は必死で理性を掻き集め、宥めた。
吸い付く感覚を小さく、短く、鼻先を擦り合わせてそっと肩を押す。

「可愛い顔だね。」

「ばかじゃないのか」

でも、薄暗い路地裏で爆発して君を抱きたく無いんだ。
君は僕が用意したベッドでのびのびぬくぬく寝て、起き抜けにキスして欲しい。

はぁ。
それより、なんで連れ込まれた路地裏でこんなエロいキスをするんだ。
かっこいいな君は。

それに比べて、送ってくれた宿の部屋の中で、扉を背にズルズルしゃがみ込んだ僕はカッコ悪いな。

「はぁ。可愛い。どうしよう。」

僕は絶対、父上を説得するよユディール君。


ーーー続
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