【完結】【R18】沼に落ちたら恋人が出来ました。

mimimi456/都古

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第六話

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俺たちは村の中心から更に奥の建物へと案内された。

「ここ、案外広いんだな。上から見ただけじゃ全然分からなかったな。さっきの所、住居だろ。向こうは田んぼか。」

「えぇ、居住区域の向こうには倉庫と加工場があります。あとでご覧になりますか。」

「見られるのか⁉︎」

「勿論。マツリ様の御意志とあらば如何様にも。」

オジサンはヤケに丁寧に話している。
俺みたいな若輩者には過ぎる言葉遣いだ。
それに、マツリ様って何だ。

狐も俺に”働け“としか言わない。
まぁ、薄々勘ぐりはしてる。
俺もラノベ好きだからな。

「此方です。お入りください。」

オジサンがそう言って案内してくれたのは、他の建物とは大きさも手間も一桁違う。
高床式住居というものだろうか。

螺旋階段を一つ上がる。
先行するオジサンがまた膝を着いて、扉を開いた。
ここから先は、一人で行けと言うことか。

少し低い扉をくぐると、そこに待っていたのは所謂、巫女装束に身を包んだ男の人だった。

「ようこそお出でくださいました。マツリ様、お狐様。私が今代の巫女でございます。」

巫女は指を揃えて、深く頭を垂れた。
その時、両手につけた鈴がシャリン、と音を立て軽やかに鳴った。

「巫女よ。」

「はい、お狐様。」

「状況を説明せい。この小僧は何一つ知らぬまま此処にこうして此処に座っておる。しかし良いな。見くびればお主の御魂を彼の御方に返してやるぞ。」

「お狐様の御心のままに。」

狐は薄い布越しに見える巫女を、ドスの効いた声で脅しまくった。
これ以上脅して、泊まれなくなったらどうしてくれる。

俺は慌てて狐を抱き抱えると、そのまま膝に乗せて宥めすかした。
もふもふの毛並みが、怒ったせいでゴワゴワになってる。

「大丈夫だから、そんな怒んなよ。」

何がそんなに心配なのやら。
それから俺は、巫女に色々な話を聞いた。

俺たちが降りてくた山には“祟り神”と言うのが住み着いていて。俺はそれを祀りあげる役目を担っているらしい。
それを村の人は“マツリ様”と呼び、それを導くのが“狐”。
そこに“巫女”という存在が、マツリ様にとって重要な役割を担っているという。

「それで、あなたがその巫女様?」

「はい。」

「他に何か話すことはある?」

「ぇえ勿論です。本日はマツリ様とお狐様のご来訪を祝して宴を催す事が決まっております。こ是非とも、ご参加くださいませ。」


儚げな顔の美人が、ニコニコと笑ってくれる。
だが、何かが引っかかる。
それが多少の違和感なのか、勘違いなのか。
今の俺には判断できるだけの材料がない。

それでも、好意は受け取っておこう。

「他にも村が有ったんですけど、どこもこんな感じなんですか。祟り神の影響とか詳しく知りたいんですけど。」

「その事ですか…」

巫女はつらつらと話し続けた。

かつては自然豊かな山の恵みで暮らしていた人が沢山いたという。
行商人も通うほど、周辺の村々は慎ましくも困らないだけの生活が送れていた。
だが、突然やって来た災厄は、村の恵みである山を瘴気で瞬く間に取り込み始めた。

瘴気は森を覆い、時折俺が見たような黒い液体が流れ始めた。

しかし、同じ頃神の声を聞く巫女の力も増した。
当時の巫女は、他の村人をこの今いる村に移住させ、全ての人手を動員し村全体に杭を打った。
そして、神の声を聞く巫女の言葉を村の人々は信じた。

ーーー

『何れ祟りは治る。』

神はそう言った。
山から無事に降りて来る子が居たら、その子がそうだ。
目印に我が眷属を遣わせよう。

ーーーーー

彼らはそれを信じた。
何時、どのくらい待てばやって来るかも分からない救いを待って、今日まで過ごしていた。

「そのお告げを聞いたのは、先々代の更に先々代の巫女になります。なので私で丁度5代目ですね。」

「あんたらは、そんな大昔の話を信じてるのか。」

「えぇ勿論です。」

やはり巫女は鈴を鳴らしてニコ、と微笑む。

俺には信じられない言葉だった。
ばあちゃんのばあちゃんが言ったって言う、カミサマの言葉を信じて、今の今まで生きて来たって言うのか。

「他に行く所は無いのか。」

「いえ、有りますよ?馬で駆ければ二刻程で、別の村が。」

「違う、そうじゃない。この村を捨てて、皆で逃げようとは思わなかったのか。」

今の俺の気持ちを理解できる人間は居るのか。
俺だけが異質なのか。
この村は何かが俺を苛立てせている。

思わず責めたような声で告げた俺を、巫女は困ったような顔をして答えた。

「マツリ様の仰る事も尤もです。お恥ずかしい話ですが、私自身も何度も考えた経験があります。実際にそうなれば、もっと楽に過せる人も居るのです。」

そう話す表情が、酷く痛そうだった。
その顔の意味を俺は多分、知ってる。

「逃げられないんだな。」

ボソッと呟いた俺の声を巫女は笑って流した。

「勿論、村を離れる者もいます。寂しく思いますが、彼らには彼らの道があるのです。私もこうして巫女としての務めが。民には民の務めがあるのです。そう心に決めて、皆が今日という日を待っていたのです。」


そう語る巫女は今度は笑わなかった。
そこには決意がしっかりと存在しているのが分かった。

「そうか。彼らはちゃんと自分で選んで此処に居るんだな。」

「はい。」

「それなら良いや。」

俺は巫女の目をもう一度、見た。
そこには確かに意志があるのに、何故か“匂い”だけがしなかった。



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