7 / 23
第六話
しおりを挟む
俺たちは村の中心から更に奥の建物へと案内された。
「ここ、案外広いんだな。上から見ただけじゃ全然分からなかったな。さっきの所、住居だろ。向こうは田んぼか。」
「えぇ、居住区域の向こうには倉庫と加工場があります。あとでご覧になりますか。」
「見られるのか⁉︎」
「勿論。マツリ様の御意志とあらば如何様にも。」
オジサンはヤケに丁寧に話している。
俺みたいな若輩者には過ぎる言葉遣いだ。
それに、マツリ様って何だ。
狐も俺に”働け“としか言わない。
まぁ、薄々勘ぐりはしてる。
俺もラノベ好きだからな。
「此方です。お入りください。」
オジサンがそう言って案内してくれたのは、他の建物とは大きさも手間も一桁違う。
高床式住居というものだろうか。
螺旋階段を一つ上がる。
先行するオジサンがまた膝を着いて、扉を開いた。
ここから先は、一人で行けと言うことか。
少し低い扉をくぐると、そこに待っていたのは所謂、巫女装束に身を包んだ男の人だった。
「ようこそお出でくださいました。マツリ様、お狐様。私が今代の巫女でございます。」
巫女は指を揃えて、深く頭を垂れた。
その時、両手につけた鈴がシャリン、と音を立て軽やかに鳴った。
「巫女よ。」
「はい、お狐様。」
「状況を説明せい。この小僧は何一つ知らぬまま此処にこうして此処に座っておる。しかし良いな。見くびればお主の御魂を彼の御方に返してやるぞ。」
「お狐様の御心のままに。」
狐は薄い布越しに見える巫女を、ドスの効いた声で脅しまくった。
これ以上脅して、泊まれなくなったらどうしてくれる。
俺は慌てて狐を抱き抱えると、そのまま膝に乗せて宥めすかした。
もふもふの毛並みが、怒ったせいでゴワゴワになってる。
「大丈夫だから、そんな怒んなよ。」
何がそんなに心配なのやら。
それから俺は、巫女に色々な話を聞いた。
俺たちが降りてくた山には“祟り神”と言うのが住み着いていて。俺はそれを祀りあげる役目を担っているらしい。
それを村の人は“マツリ様”と呼び、それを導くのが“狐”。
そこに“巫女”という存在が、マツリ様にとって重要な役割を担っているという。
「それで、あなたがその巫女様?」
「はい。」
「他に何か話すことはある?」
「ぇえ勿論です。本日はマツリ様とお狐様のご来訪を祝して宴を催す事が決まっております。こ是非とも、ご参加くださいませ。」
儚げな顔の美人が、ニコニコと笑ってくれる。
だが、何かが引っかかる。
それが多少の違和感なのか、勘違いなのか。
今の俺には判断できるだけの材料がない。
それでも、好意は受け取っておこう。
「他にも村が有ったんですけど、どこもこんな感じなんですか。祟り神の影響とか詳しく知りたいんですけど。」
「その事ですか…」
巫女はつらつらと話し続けた。
かつては自然豊かな山の恵みで暮らしていた人が沢山いたという。
行商人も通うほど、周辺の村々は慎ましくも困らないだけの生活が送れていた。
だが、突然やって来た災厄は、村の恵みである山を瘴気で瞬く間に取り込み始めた。
瘴気は森を覆い、時折俺が見たような黒い液体が流れ始めた。
しかし、同じ頃神の声を聞く巫女の力も増した。
当時の巫女は、他の村人をこの今いる村に移住させ、全ての人手を動員し村全体に杭を打った。
そして、神の声を聞く巫女の言葉を村の人々は信じた。
ーーー
『何れ祟りは治る。』
神はそう言った。
山から無事に降りて来る子が居たら、その子がそうだ。
目印に我が眷属を遣わせよう。
ーーーーー
彼らはそれを信じた。
何時、どのくらい待てばやって来るかも分からない救いを待って、今日まで過ごしていた。
「そのお告げを聞いたのは、先々代の更に先々代の巫女になります。なので私で丁度5代目ですね。」
「あんたらは、そんな大昔の話を信じてるのか。」
「えぇ勿論です。」
やはり巫女は鈴を鳴らしてニコ、と微笑む。
俺には信じられない言葉だった。
ばあちゃんのばあちゃんが言ったって言う、カミサマの言葉を信じて、今の今まで生きて来たって言うのか。
「他に行く所は無いのか。」
「いえ、有りますよ?馬で駆ければ二刻程で、別の村が。」
「違う、そうじゃない。この村を捨てて、皆で逃げようとは思わなかったのか。」
今の俺の気持ちを理解できる人間は居るのか。
俺だけが異質なのか。
この村は何かが俺を苛立てせている。
思わず責めたような声で告げた俺を、巫女は困ったような顔をして答えた。
「マツリ様の仰る事も尤もです。お恥ずかしい話ですが、私自身も何度も考えた経験があります。実際にそうなれば、もっと楽に過せる人も居るのです。」
そう話す表情が、酷く痛そうだった。
その顔の意味を俺は多分、知ってる。
「逃げられないんだな。」
ボソッと呟いた俺の声を巫女は笑って流した。
「勿論、村を離れる者もいます。寂しく思いますが、彼らには彼らの道があるのです。私もこうして巫女としての務めが。民には民の務めがあるのです。そう心に決めて、皆が今日という日を待っていたのです。」
そう語る巫女は今度は笑わなかった。
そこには決意がしっかりと存在しているのが分かった。
「そうか。彼らはちゃんと自分で選んで此処に居るんだな。」
「はい。」
「それなら良いや。」
俺は巫女の目をもう一度、見た。
そこには確かに意志があるのに、何故か“匂い”だけがしなかった。
「ここ、案外広いんだな。上から見ただけじゃ全然分からなかったな。さっきの所、住居だろ。向こうは田んぼか。」
「えぇ、居住区域の向こうには倉庫と加工場があります。あとでご覧になりますか。」
「見られるのか⁉︎」
「勿論。マツリ様の御意志とあらば如何様にも。」
オジサンはヤケに丁寧に話している。
俺みたいな若輩者には過ぎる言葉遣いだ。
それに、マツリ様って何だ。
狐も俺に”働け“としか言わない。
まぁ、薄々勘ぐりはしてる。
俺もラノベ好きだからな。
「此方です。お入りください。」
オジサンがそう言って案内してくれたのは、他の建物とは大きさも手間も一桁違う。
高床式住居というものだろうか。
螺旋階段を一つ上がる。
先行するオジサンがまた膝を着いて、扉を開いた。
ここから先は、一人で行けと言うことか。
少し低い扉をくぐると、そこに待っていたのは所謂、巫女装束に身を包んだ男の人だった。
「ようこそお出でくださいました。マツリ様、お狐様。私が今代の巫女でございます。」
巫女は指を揃えて、深く頭を垂れた。
その時、両手につけた鈴がシャリン、と音を立て軽やかに鳴った。
「巫女よ。」
「はい、お狐様。」
「状況を説明せい。この小僧は何一つ知らぬまま此処にこうして此処に座っておる。しかし良いな。見くびればお主の御魂を彼の御方に返してやるぞ。」
「お狐様の御心のままに。」
狐は薄い布越しに見える巫女を、ドスの効いた声で脅しまくった。
これ以上脅して、泊まれなくなったらどうしてくれる。
俺は慌てて狐を抱き抱えると、そのまま膝に乗せて宥めすかした。
もふもふの毛並みが、怒ったせいでゴワゴワになってる。
「大丈夫だから、そんな怒んなよ。」
何がそんなに心配なのやら。
それから俺は、巫女に色々な話を聞いた。
俺たちが降りてくた山には“祟り神”と言うのが住み着いていて。俺はそれを祀りあげる役目を担っているらしい。
それを村の人は“マツリ様”と呼び、それを導くのが“狐”。
そこに“巫女”という存在が、マツリ様にとって重要な役割を担っているという。
「それで、あなたがその巫女様?」
「はい。」
「他に何か話すことはある?」
「ぇえ勿論です。本日はマツリ様とお狐様のご来訪を祝して宴を催す事が決まっております。こ是非とも、ご参加くださいませ。」
儚げな顔の美人が、ニコニコと笑ってくれる。
だが、何かが引っかかる。
それが多少の違和感なのか、勘違いなのか。
今の俺には判断できるだけの材料がない。
それでも、好意は受け取っておこう。
「他にも村が有ったんですけど、どこもこんな感じなんですか。祟り神の影響とか詳しく知りたいんですけど。」
「その事ですか…」
巫女はつらつらと話し続けた。
かつては自然豊かな山の恵みで暮らしていた人が沢山いたという。
行商人も通うほど、周辺の村々は慎ましくも困らないだけの生活が送れていた。
だが、突然やって来た災厄は、村の恵みである山を瘴気で瞬く間に取り込み始めた。
瘴気は森を覆い、時折俺が見たような黒い液体が流れ始めた。
しかし、同じ頃神の声を聞く巫女の力も増した。
当時の巫女は、他の村人をこの今いる村に移住させ、全ての人手を動員し村全体に杭を打った。
そして、神の声を聞く巫女の言葉を村の人々は信じた。
ーーー
『何れ祟りは治る。』
神はそう言った。
山から無事に降りて来る子が居たら、その子がそうだ。
目印に我が眷属を遣わせよう。
ーーーーー
彼らはそれを信じた。
何時、どのくらい待てばやって来るかも分からない救いを待って、今日まで過ごしていた。
「そのお告げを聞いたのは、先々代の更に先々代の巫女になります。なので私で丁度5代目ですね。」
「あんたらは、そんな大昔の話を信じてるのか。」
「えぇ勿論です。」
やはり巫女は鈴を鳴らしてニコ、と微笑む。
俺には信じられない言葉だった。
ばあちゃんのばあちゃんが言ったって言う、カミサマの言葉を信じて、今の今まで生きて来たって言うのか。
「他に行く所は無いのか。」
「いえ、有りますよ?馬で駆ければ二刻程で、別の村が。」
「違う、そうじゃない。この村を捨てて、皆で逃げようとは思わなかったのか。」
今の俺の気持ちを理解できる人間は居るのか。
俺だけが異質なのか。
この村は何かが俺を苛立てせている。
思わず責めたような声で告げた俺を、巫女は困ったような顔をして答えた。
「マツリ様の仰る事も尤もです。お恥ずかしい話ですが、私自身も何度も考えた経験があります。実際にそうなれば、もっと楽に過せる人も居るのです。」
そう話す表情が、酷く痛そうだった。
その顔の意味を俺は多分、知ってる。
「逃げられないんだな。」
ボソッと呟いた俺の声を巫女は笑って流した。
「勿論、村を離れる者もいます。寂しく思いますが、彼らには彼らの道があるのです。私もこうして巫女としての務めが。民には民の務めがあるのです。そう心に決めて、皆が今日という日を待っていたのです。」
そう語る巫女は今度は笑わなかった。
そこには決意がしっかりと存在しているのが分かった。
「そうか。彼らはちゃんと自分で選んで此処に居るんだな。」
「はい。」
「それなら良いや。」
俺は巫女の目をもう一度、見た。
そこには確かに意志があるのに、何故か“匂い”だけがしなかった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる