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第七話
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それから俺は一通り村を見て回った。
部屋もなんと一軒貸して貰えるようで、身の回り世話をしてくれる人まで付いた。
「あんたは、どう思うんだ。」
問いかけた先には、さっき門番をしていた眼帯のオジサン。
聞いたが、まだ31だった。
それでその歳の割には老けて見える。
巫女は俺と同い年だった。
あれは童顔すぎるし、美人すぎる。
「どう、とは?」
小気味「」良い砂利の音が俺が歩く度に鳴る。
「こんな若造が“マツリ様”で良いと思ってる?」
「そんな事ですか。」
オジサンはふっと小さく笑うだけで、俺の難題を一瞬の後に解決してくれた。
「わたしでは、祟り神様をどうする事も出来ません。しかし、貴方に出来ると言うのだから、我々は従うまでです。そこに見目や歳は関係ありません。」
嘘偽りないと感じるその声が、どうも俺は好きだ。聞いていると気持ちがいい。
でも好きだと思う度に、胸が痛いのは俺の罰なんだろうな。
「あんた達は本当に信じてるんだな。カミサマって奴を。」
「ええ。あなたが現れてからは皆が一様に。」
俺も昔はカミサマって奴を信じていた。
紺が現れてからは、また少しだけ信じ始めている。
今晩は丁度、満月らしい。
お陰で、街灯も無い夜道でも難なく外を歩ける。
俺の歓迎会は盛大に行われて、飲めや歌えやの大騒ぎだった。
じいちゃんばあちゃんが泣いて俺の手を握るもんだから、見かねた巫女様が俺の手を握ってやんわり引き剥がしていた。
その手は俺より細くて、女みたいに白かった。
狐は散歩してくると言い置いて、早々にどっか行った。
俺はというと、巫女の家へと向かっていた。
人前では話せない“大事な話”があるのだそうだ。
「今晩は、マツリ様。」
「あぁ、さっきは助かったよ。ご飯も美味しかった。」
「いいえ。マツリ様のおくちに合って良うございました。」
「お酒は召し上がられましたか?」
「少しだけね。」
「如何程ですか?」
「美味かったけどそんなには飲んでない。盃3杯くらいかな?少し度がキツくて。」
「ならば、もう少しお召しになりませんか。」
そう言うと、巫女は小さな盆を差し出した。
それには果物とナッツ類、あと多分酒が注がれている。
「先程のものより、飲み口も柔らかく味わいも果汁の様に甘いのです。私も好んで頂いているのですが。宜しければ、ご一緒に如何ですか。」
「一緒に?」
「えぇ。此処なら安心して飲めますよ。」
俺たちは歳が近かったせいか、話すうちにあれよあれよと楽しくなって酒が進んだ。
果物も美味くて、ナッツも塩気が最高。
酒も甘くてアルコール臭く無い。
気が付けば、俺たちは戯れに甘い言葉を掛け合っていた。
「綺麗な顔してんなぁ。」
「いいえ、マツリ様程ではありませんよ。」
「そうかなぁ。俺ももっと可愛げが欲しい。」
「私はマツリ様のような逞しさがほしいです。」
巫女の長い髪がさらさらと肩を流れ落ちていく。その胸はぺたんこで決して膨らみはない。
でも女みたいに、たおやかだ。
「今なら俺も女抱けそうな気がする…ひっく。」
「私は男ですよマツリ様。それも巫女ともなれば…私は貴方にだけ抱かれる為に此処にいるのですよ。」
とろり、と甘い酒が俺の顎を伝う。
それを見逃さなかった巫女が、赤い舌を出してちろりと舐めとった。
いやらしい赤がヤケに目について、思わず口角が上がる。
「あんたやるなぁ。」
「んふふ。」
「俺を誘ってる?」
酒を注ぐその手を掴み、グッと顔を寄せた。
その澄ました装束の腰も抱き寄せると、巫女は恥ずかしそうに俯いた。
「巫女は俺とこういう事するの?」
「これも仕事ですから。」
左手に握った手首を親指でさらりと撫でると、巫女はくすぐったそうに体を震わせた。
「嫌じゃない?」
「少し…恥ずかしいだけです。」
「そっか、じゃあそのまま寝てて。」
「ぇ… マツリ様?」
途端パッと両手を離した俺を巫女はきょとんとした顔で見ている。
何が起こったか分からない、と言うような顔だ。
俺は両手をバンザイして自白する。
「俺に色仕掛けは通用しない。俺もネコだからな‼︎」
「な…っ、ぇ。猫ですか。」
俺はニヤリと笑って言ってやった。
「あんたみたいな顔の綺麗な男は、抱きたくないんだよ。
「はぅ…ぅ。」
シッシ、と手を振ったが巫女はどうやら俺の悪い顔がお気に召した様だ。
頬が赤くなって目が完全に恋しちゃってる。
確かに、これだけしおらしいなら俺でも抱けそうだ。
「さて巫女様。」
「は、ぃ。」
「あんた、俺に何か隠してるだろ。」
居住まいを正した俺に只事では無いと感じ取ったのか、巫女は息が止まりそうなほど驚いて、慌てて頭を下げた。それは深く、床に額が付きそうな程に。
「もうし、わけ…ありません、でした」
「俺も、一応は“選ばれた身”なんだわ巫女様。あんたが正直に話すなら、俺もこれ以上は騒ぎたく無い。穏便に済ませよう。」
「はぃ。」
俺が声を掛けても尚、巫女は平伏する。
初めにおかしいと思ったのは、“匂い”だった。
此処に来て最初に嗅いだ嫌な臭い。
それはあの黒い液体で、そいつは穢れという物が放つ独特の、鼻が曲がりそうな程に臭い匂いがする。
あとは、狐だ。
稲置神社のイナギ様の遣いだと云う狐からは、常に澄んだ緑の様な良い匂いがする。
昨日、地面に寝転んで寝てた奴の匂いじゃない。しかも獣臭くもない。
大地と緑と水の、山の匂い。
その匂いがこの“巫女”からは感じられなかったのに、別の男からは狐と同じ“匂い”がした。
おかしいだろ?
だから多分、紺の散歩というのも、只ふらふら歩きに行った訳じゃないと思う。
あの狐は、特別なんだ。
そんなに口数は多く無いけど、多分いっぱい考えてるんだと思う。
でも、もう一言くらい説明してくれても良いと思わないか。
そうじゃなきゃ、俺は今頃この巫女と同衾してた。
いや、そんな事有り得ないんだけど酒の力って分かんないだろ?
「なんであんたからは“匂い”がしない。」
「それは…」
「話すよなぁ?じゃねぇとお前、大事なマツリ様を襲おうとした“偽巫女様”だって言いふらすことになっちまうぞ?」
ニヒッと笑って見せれば、巫女は恐怖のあまり震え出してしまった。
俺の顔はそんなに凶悪なのか。ショックだ。
端脅された可哀想な“巫女様”は実に素直に話してくれた。
まぁ、よくある話だが。
次代の巫女を決める時に、あの人では都合が悪かったという事らしい。
先代の巫女は、その勤めの最中二人の男とそれぞれに子を設けた。
一人は村の男で、代々巫女によく尽くしてくれていた。
問題はもう一人だ。
村でも血気盛んな男で、子を成した時も巫女の部屋に強引に押し入ったのでは無いかと噂されていた。
だが、当時の巫女は何も言わなかった。
ただ歳の離れた二人をそれぞれ慈しみ育てていた。
村人も巫女が良いならとそれ以上は何も言わなかったが暫くして、事件が起きた。
「あの事件さえなければ、私が巫女に指名されることは無かったんです。私なんかで兄さんの代わりが…巫女の役目が務まるわけが無いんです。」
「当然だ。」
「お狐様。」
ガラッと扉を開けてやってきたのは、散歩に行くと言っていた狐と、男が一人来ていた。
「今日はよく会うね。」
「そう、ですね。」
気不味そうに立っていたのは、俺がここに来てからの唯一の顔見知り、門番のオジサンだった。
「あんたが本当は巫女なんだろ?」
「えぇ、そうです。」
部屋もなんと一軒貸して貰えるようで、身の回り世話をしてくれる人まで付いた。
「あんたは、どう思うんだ。」
問いかけた先には、さっき門番をしていた眼帯のオジサン。
聞いたが、まだ31だった。
それでその歳の割には老けて見える。
巫女は俺と同い年だった。
あれは童顔すぎるし、美人すぎる。
「どう、とは?」
小気味「」良い砂利の音が俺が歩く度に鳴る。
「こんな若造が“マツリ様”で良いと思ってる?」
「そんな事ですか。」
オジサンはふっと小さく笑うだけで、俺の難題を一瞬の後に解決してくれた。
「わたしでは、祟り神様をどうする事も出来ません。しかし、貴方に出来ると言うのだから、我々は従うまでです。そこに見目や歳は関係ありません。」
嘘偽りないと感じるその声が、どうも俺は好きだ。聞いていると気持ちがいい。
でも好きだと思う度に、胸が痛いのは俺の罰なんだろうな。
「あんた達は本当に信じてるんだな。カミサマって奴を。」
「ええ。あなたが現れてからは皆が一様に。」
俺も昔はカミサマって奴を信じていた。
紺が現れてからは、また少しだけ信じ始めている。
今晩は丁度、満月らしい。
お陰で、街灯も無い夜道でも難なく外を歩ける。
俺の歓迎会は盛大に行われて、飲めや歌えやの大騒ぎだった。
じいちゃんばあちゃんが泣いて俺の手を握るもんだから、見かねた巫女様が俺の手を握ってやんわり引き剥がしていた。
その手は俺より細くて、女みたいに白かった。
狐は散歩してくると言い置いて、早々にどっか行った。
俺はというと、巫女の家へと向かっていた。
人前では話せない“大事な話”があるのだそうだ。
「今晩は、マツリ様。」
「あぁ、さっきは助かったよ。ご飯も美味しかった。」
「いいえ。マツリ様のおくちに合って良うございました。」
「お酒は召し上がられましたか?」
「少しだけね。」
「如何程ですか?」
「美味かったけどそんなには飲んでない。盃3杯くらいかな?少し度がキツくて。」
「ならば、もう少しお召しになりませんか。」
そう言うと、巫女は小さな盆を差し出した。
それには果物とナッツ類、あと多分酒が注がれている。
「先程のものより、飲み口も柔らかく味わいも果汁の様に甘いのです。私も好んで頂いているのですが。宜しければ、ご一緒に如何ですか。」
「一緒に?」
「えぇ。此処なら安心して飲めますよ。」
俺たちは歳が近かったせいか、話すうちにあれよあれよと楽しくなって酒が進んだ。
果物も美味くて、ナッツも塩気が最高。
酒も甘くてアルコール臭く無い。
気が付けば、俺たちは戯れに甘い言葉を掛け合っていた。
「綺麗な顔してんなぁ。」
「いいえ、マツリ様程ではありませんよ。」
「そうかなぁ。俺ももっと可愛げが欲しい。」
「私はマツリ様のような逞しさがほしいです。」
巫女の長い髪がさらさらと肩を流れ落ちていく。その胸はぺたんこで決して膨らみはない。
でも女みたいに、たおやかだ。
「今なら俺も女抱けそうな気がする…ひっく。」
「私は男ですよマツリ様。それも巫女ともなれば…私は貴方にだけ抱かれる為に此処にいるのですよ。」
とろり、と甘い酒が俺の顎を伝う。
それを見逃さなかった巫女が、赤い舌を出してちろりと舐めとった。
いやらしい赤がヤケに目について、思わず口角が上がる。
「あんたやるなぁ。」
「んふふ。」
「俺を誘ってる?」
酒を注ぐその手を掴み、グッと顔を寄せた。
その澄ました装束の腰も抱き寄せると、巫女は恥ずかしそうに俯いた。
「巫女は俺とこういう事するの?」
「これも仕事ですから。」
左手に握った手首を親指でさらりと撫でると、巫女はくすぐったそうに体を震わせた。
「嫌じゃない?」
「少し…恥ずかしいだけです。」
「そっか、じゃあそのまま寝てて。」
「ぇ… マツリ様?」
途端パッと両手を離した俺を巫女はきょとんとした顔で見ている。
何が起こったか分からない、と言うような顔だ。
俺は両手をバンザイして自白する。
「俺に色仕掛けは通用しない。俺もネコだからな‼︎」
「な…っ、ぇ。猫ですか。」
俺はニヤリと笑って言ってやった。
「あんたみたいな顔の綺麗な男は、抱きたくないんだよ。
「はぅ…ぅ。」
シッシ、と手を振ったが巫女はどうやら俺の悪い顔がお気に召した様だ。
頬が赤くなって目が完全に恋しちゃってる。
確かに、これだけしおらしいなら俺でも抱けそうだ。
「さて巫女様。」
「は、ぃ。」
「あんた、俺に何か隠してるだろ。」
居住まいを正した俺に只事では無いと感じ取ったのか、巫女は息が止まりそうなほど驚いて、慌てて頭を下げた。それは深く、床に額が付きそうな程に。
「もうし、わけ…ありません、でした」
「俺も、一応は“選ばれた身”なんだわ巫女様。あんたが正直に話すなら、俺もこれ以上は騒ぎたく無い。穏便に済ませよう。」
「はぃ。」
俺が声を掛けても尚、巫女は平伏する。
初めにおかしいと思ったのは、“匂い”だった。
此処に来て最初に嗅いだ嫌な臭い。
それはあの黒い液体で、そいつは穢れという物が放つ独特の、鼻が曲がりそうな程に臭い匂いがする。
あとは、狐だ。
稲置神社のイナギ様の遣いだと云う狐からは、常に澄んだ緑の様な良い匂いがする。
昨日、地面に寝転んで寝てた奴の匂いじゃない。しかも獣臭くもない。
大地と緑と水の、山の匂い。
その匂いがこの“巫女”からは感じられなかったのに、別の男からは狐と同じ“匂い”がした。
おかしいだろ?
だから多分、紺の散歩というのも、只ふらふら歩きに行った訳じゃないと思う。
あの狐は、特別なんだ。
そんなに口数は多く無いけど、多分いっぱい考えてるんだと思う。
でも、もう一言くらい説明してくれても良いと思わないか。
そうじゃなきゃ、俺は今頃この巫女と同衾してた。
いや、そんな事有り得ないんだけど酒の力って分かんないだろ?
「なんであんたからは“匂い”がしない。」
「それは…」
「話すよなぁ?じゃねぇとお前、大事なマツリ様を襲おうとした“偽巫女様”だって言いふらすことになっちまうぞ?」
ニヒッと笑って見せれば、巫女は恐怖のあまり震え出してしまった。
俺の顔はそんなに凶悪なのか。ショックだ。
端脅された可哀想な“巫女様”は実に素直に話してくれた。
まぁ、よくある話だが。
次代の巫女を決める時に、あの人では都合が悪かったという事らしい。
先代の巫女は、その勤めの最中二人の男とそれぞれに子を設けた。
一人は村の男で、代々巫女によく尽くしてくれていた。
問題はもう一人だ。
村でも血気盛んな男で、子を成した時も巫女の部屋に強引に押し入ったのでは無いかと噂されていた。
だが、当時の巫女は何も言わなかった。
ただ歳の離れた二人をそれぞれ慈しみ育てていた。
村人も巫女が良いならとそれ以上は何も言わなかったが暫くして、事件が起きた。
「あの事件さえなければ、私が巫女に指名されることは無かったんです。私なんかで兄さんの代わりが…巫女の役目が務まるわけが無いんです。」
「当然だ。」
「お狐様。」
ガラッと扉を開けてやってきたのは、散歩に行くと言っていた狐と、男が一人来ていた。
「今日はよく会うね。」
「そう、ですね。」
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