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第九話
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「お前は、彼奴を恨んではおらぬのか。」
「恨むなんて。
そんな事は思い付きもしませんでした。ただ...兄が心配でした。私はよりも兄の方が大変な目に遭いましたから。」
満月の静かになった村で、狐の散歩に付き合って、巫女と偽っていた少年が共に村の外れを歩いていた。
ゆるいそよ風は二人の会話をその場だけに留めてくれている様だ。
「兄が猪に襲われるまで、私達は仲が良かったんです。私の父も含め五人で家族でした。兄も兄の父も私にとっては強いて頼もしい家族でした。」
「ふむ。」
「まだ兄をよく思っていない人もいますが、あれで面倒見が良いのですよ。せがまれてしぶしぶ受けた筈の槍の稽古も、今では親父と呼び慕う人までいるのです。」
ふふ、と少年が笑うのを狐は目を細めて見ていた。
「目が見えるようになって本当に良かったです。今代でいらっしゃる事は分かっていましたが、まさかマツリ様が治してくださるとは思いもしませんでした。ですが全ては神の思し召しだったのですね。」
少年は言葉を尽くして更に語る。
それは誰に聞かせるでもない、今までの誰にも言えない胸の内全てを吐き出す様に。
「あの猪も神様のお遣いの方だったのですから。
母も、兄も、兄の父も、私も...全ては必要な事だったのでしょう。」
「では、全てを心得ておるのだな。」
狐の無感情なセリフに少年はただ、微笑んだ。
「はい。
お狐様を謀った罰、謹んでお受け致します。」
少年は罪を犯した。
神の遣いである狐の言葉に逆らい、偽りのまま事を進めようとした。
鱗太郎が嘘を暴いた事で未遂に済んだが。
神の遣わせた子と交わる事が出来るのは、神に選ばれた巫女のみだ。
人の子は脆い。身も心も。
神の祝福を受けるには脆すぎるのだ。
だからこそ手順を、理を曲げぬ様に神は眷属を遣いに出された。
祝福の子が傷付かぬ様に。
「彼奴は、既にいくつも傷を負っている。」
紺は目の前で凛と立つ少年を見る。
この子供は今、こうして吐き出す事が出来ただけまだ良い。
守るべき兄が居てそれでこうも強く生きてこられたのだ。
不公だが、幸せな子だ。
だが、鱗太郎はどうだ。
彼奴の傷を受け入れる者は、未だ誰一人として現れては居ない。
その血を分けた家族でさえも。
「さて、神の言葉を曲げる程の信念を持つ子供。
貴様をどうしてくれようか。」
紺はその大きな口でニヤリと笑みを作った。
「恨むなんて。
そんな事は思い付きもしませんでした。ただ...兄が心配でした。私はよりも兄の方が大変な目に遭いましたから。」
満月の静かになった村で、狐の散歩に付き合って、巫女と偽っていた少年が共に村の外れを歩いていた。
ゆるいそよ風は二人の会話をその場だけに留めてくれている様だ。
「兄が猪に襲われるまで、私達は仲が良かったんです。私の父も含め五人で家族でした。兄も兄の父も私にとっては強いて頼もしい家族でした。」
「ふむ。」
「まだ兄をよく思っていない人もいますが、あれで面倒見が良いのですよ。せがまれてしぶしぶ受けた筈の槍の稽古も、今では親父と呼び慕う人までいるのです。」
ふふ、と少年が笑うのを狐は目を細めて見ていた。
「目が見えるようになって本当に良かったです。今代でいらっしゃる事は分かっていましたが、まさかマツリ様が治してくださるとは思いもしませんでした。ですが全ては神の思し召しだったのですね。」
少年は言葉を尽くして更に語る。
それは誰に聞かせるでもない、今までの誰にも言えない胸の内全てを吐き出す様に。
「あの猪も神様のお遣いの方だったのですから。
母も、兄も、兄の父も、私も...全ては必要な事だったのでしょう。」
「では、全てを心得ておるのだな。」
狐の無感情なセリフに少年はただ、微笑んだ。
「はい。
お狐様を謀った罰、謹んでお受け致します。」
少年は罪を犯した。
神の遣いである狐の言葉に逆らい、偽りのまま事を進めようとした。
鱗太郎が嘘を暴いた事で未遂に済んだが。
神の遣わせた子と交わる事が出来るのは、神に選ばれた巫女のみだ。
人の子は脆い。身も心も。
神の祝福を受けるには脆すぎるのだ。
だからこそ手順を、理を曲げぬ様に神は眷属を遣いに出された。
祝福の子が傷付かぬ様に。
「彼奴は、既にいくつも傷を負っている。」
紺は目の前で凛と立つ少年を見る。
この子供は今、こうして吐き出す事が出来ただけまだ良い。
守るべき兄が居てそれでこうも強く生きてこられたのだ。
不公だが、幸せな子だ。
だが、鱗太郎はどうだ。
彼奴の傷を受け入れる者は、未だ誰一人として現れては居ない。
その血を分けた家族でさえも。
「さて、神の言葉を曲げる程の信念を持つ子供。
貴様をどうしてくれようか。」
紺はその大きな口でニヤリと笑みを作った。
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