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第十三話
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いつかみた血は真紅であった
吾が妻が直衣を繕うていた。
そんな物は女房にでもやらせなさいと言う吾に
彼女は
"わたくしの夫の大事なお着物ですから
わたくしに繕わせていただきたいのです。"と微笑む女だった。
いじらしく愛おしい。
いつも吾の為と些細な事も気を遣い
滅多な我儘も溢さなかった妻が小さく声を上げた。
「あ。」
見れば針で指を刺したらしく
真紅がぽつりと浮いていた。
「待て。吾に貸しなさい。」
吾は美しい妻の白指に吸い付いた。
全く吾の事ばかりを気にして新しい衣装を誂えて。
「あの、松様」
可愛い妻。
吾を松様、松様と呼ぶのだ。
せっかく綺麗に仕上げた着物を、瞳で請われて口吸いすれば熱に浮かされ自分でくしゃくしゃにしてしまう可愛いひとだった。
吾の子も、健やかに育った。
「ととさま」とあと少しで言えそうだったが。
吾の妻と子は殺された。
吾の美しくいじらしい妻、幼い宝物よ。
吾はもう誰も許せぬ所まで来た。
心が湯の様に沸き、憎しみが熱くこの身を煮やすのだ。
他の何も考えられぬ程、思考は囚われ遂に。
吾は怨霊となった。
そこかしこに巣食う怨嗟も吾の一部になった。
子を失くした母の恨み、妻を失くした夫の恨み、恨みの全てが吾とひとつになった時。
吾は ひとでは なくなっていた
呼吸ひとつで災厄を撒き散らす化け物と成った。
「沙羅よ、」
最早、吾の声は声では無い。
「吾子よ、」
只、蹴り飛ばす石ころの音と同じ。
「だれか、吾をとめてくれ」
ーーー
「聞こえたか。」
「あぁ。」
のそりと寝床から身を起こす俺に紺が言う。
あれが、イナギ様の弟。
この祟り神の正体。
「待ってろよ。明日、あんたにデカい貸を作ってやるぜ。」
降り続いていた雨は上がり、
ぬかるんだ土もそろそろ固まる。
「貸ではない、これはお前の仕事だバカもの。」
「うるさいぞ、ここは今気合い入れる所だろ。」
「ふん。」
ぽすん、と丸くなり紺はまた眠るらしい。
俺も、もう一眠りしよう。
明日が来るあと少しの間に。
吾が妻が直衣を繕うていた。
そんな物は女房にでもやらせなさいと言う吾に
彼女は
"わたくしの夫の大事なお着物ですから
わたくしに繕わせていただきたいのです。"と微笑む女だった。
いじらしく愛おしい。
いつも吾の為と些細な事も気を遣い
滅多な我儘も溢さなかった妻が小さく声を上げた。
「あ。」
見れば針で指を刺したらしく
真紅がぽつりと浮いていた。
「待て。吾に貸しなさい。」
吾は美しい妻の白指に吸い付いた。
全く吾の事ばかりを気にして新しい衣装を誂えて。
「あの、松様」
可愛い妻。
吾を松様、松様と呼ぶのだ。
せっかく綺麗に仕上げた着物を、瞳で請われて口吸いすれば熱に浮かされ自分でくしゃくしゃにしてしまう可愛いひとだった。
吾の子も、健やかに育った。
「ととさま」とあと少しで言えそうだったが。
吾の妻と子は殺された。
吾の美しくいじらしい妻、幼い宝物よ。
吾はもう誰も許せぬ所まで来た。
心が湯の様に沸き、憎しみが熱くこの身を煮やすのだ。
他の何も考えられぬ程、思考は囚われ遂に。
吾は怨霊となった。
そこかしこに巣食う怨嗟も吾の一部になった。
子を失くした母の恨み、妻を失くした夫の恨み、恨みの全てが吾とひとつになった時。
吾は ひとでは なくなっていた
呼吸ひとつで災厄を撒き散らす化け物と成った。
「沙羅よ、」
最早、吾の声は声では無い。
「吾子よ、」
只、蹴り飛ばす石ころの音と同じ。
「だれか、吾をとめてくれ」
ーーー
「聞こえたか。」
「あぁ。」
のそりと寝床から身を起こす俺に紺が言う。
あれが、イナギ様の弟。
この祟り神の正体。
「待ってろよ。明日、あんたにデカい貸を作ってやるぜ。」
降り続いていた雨は上がり、
ぬかるんだ土もそろそろ固まる。
「貸ではない、これはお前の仕事だバカもの。」
「うるさいぞ、ここは今気合い入れる所だろ。」
「ふん。」
ぽすん、と丸くなり紺はまた眠るらしい。
俺も、もう一眠りしよう。
明日が来るあと少しの間に。
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