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第十四話
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「此処から先はお主ひとりの仕事だ。」
大丈夫だ。分かってるよ。そんな顔するなって。
ドロッとした黒い見るだけで意識を持っていかれる、液体は既に止んだ。
少しずつ前へ、山頂へ、出来るだけ近くへ打ち立てた杭の効果だ。
「鱗太郎、」
「大丈夫だよ、無理だと思ったら戻って来て良いんだろ?」
「あぁ。紺様もそう仰っているが、」
「大丈夫だよ青海。」
本当に大丈夫なんだよ青海。
俺は変わったと思うんだ。
此処に来る前、沼に落ちるずっと前まで俺は明日なんか来るな、と思ってた。
今、この瞬間を生きてるだけで憎かった。
この身体も、この脳みそも憎かったんだよ。
上手く生きられもしない、誤魔化せもしない、打たれ弱い。
人間にもなれない何か別の生き物だと思ってた。
けど、今はあんたが撫でてくれるこのポンコツな頭も
あんたが気に入ってくれた肩も
あんたが大事にしてくれる俺の事を、今は俺も大事にしたいんだ。
「またあんたに触りたいから、ちゃんと帰って来るよ青海。」
トン、と青海の胸に額を押し付ける。
ふわっと鼻を擽る緑の匂いが、やっぱりちょっとだけ不安な俺を大人しくさせた。
「此処にいる。必ず待っている。」
「嬉しい。絶対無事に戻って来るよ。紺も、青海を宜しくな。」
「分かっておる。」
珍しい。
煩いくらい喋る狐が、今日は少し静かだ。
「百回だぞ、小僧。」
「分かってるよ。」
「一度唱えたら、数珠を一つずらすのだぞ。」
「わぁかってるよ。」
「間違えたら少し前から唱え直すのだぞ、!」
「それから、回数が分からなくなったら多めに唱えとけ、だろ。」
「そうだ!」
お。ヒゲがピシッとしたな。
さっきまでクシャッてなってたのに。
「松様、救って来るわ。」
「稲置様もその為にお前を遣わせた。お前があの日沼に落ちて死にかけていた不憫な人間だから助けた訳ではない。お前なら救えると主人は仰ったのだ。」
「励ましてんの?」
「そうだっ。」
「ふっ、ありがと。」
「勤めを果たせ。此処で此奴と見張っておるからな。」
「分かってるよ。じゃ、行って来る。」
白くうねる絵筆を水に入れた様な壁は、するっと俺を招き入れた。
ーーー
「紺様。」
「何だ。」
「私は本当に此処に残って居て良いのでしょうか。」
「良い。万が一の為にも巫女は此方に居れ。」
「ですが、一緒に」
「其れでは万が一が起きた場合、アレが助からぬ。」
結界の内と外を繋ぐ物が必要なのだと、紺は言い聞かせた。
何度も何度も、鱗太郎の居ない間に話し合った事だ。
「今は待つしか無い。我もお前もな。」
「はい。」
大丈夫だ。分かってるよ。そんな顔するなって。
ドロッとした黒い見るだけで意識を持っていかれる、液体は既に止んだ。
少しずつ前へ、山頂へ、出来るだけ近くへ打ち立てた杭の効果だ。
「鱗太郎、」
「大丈夫だよ、無理だと思ったら戻って来て良いんだろ?」
「あぁ。紺様もそう仰っているが、」
「大丈夫だよ青海。」
本当に大丈夫なんだよ青海。
俺は変わったと思うんだ。
此処に来る前、沼に落ちるずっと前まで俺は明日なんか来るな、と思ってた。
今、この瞬間を生きてるだけで憎かった。
この身体も、この脳みそも憎かったんだよ。
上手く生きられもしない、誤魔化せもしない、打たれ弱い。
人間にもなれない何か別の生き物だと思ってた。
けど、今はあんたが撫でてくれるこのポンコツな頭も
あんたが気に入ってくれた肩も
あんたが大事にしてくれる俺の事を、今は俺も大事にしたいんだ。
「またあんたに触りたいから、ちゃんと帰って来るよ青海。」
トン、と青海の胸に額を押し付ける。
ふわっと鼻を擽る緑の匂いが、やっぱりちょっとだけ不安な俺を大人しくさせた。
「此処にいる。必ず待っている。」
「嬉しい。絶対無事に戻って来るよ。紺も、青海を宜しくな。」
「分かっておる。」
珍しい。
煩いくらい喋る狐が、今日は少し静かだ。
「百回だぞ、小僧。」
「分かってるよ。」
「一度唱えたら、数珠を一つずらすのだぞ。」
「わぁかってるよ。」
「間違えたら少し前から唱え直すのだぞ、!」
「それから、回数が分からなくなったら多めに唱えとけ、だろ。」
「そうだ!」
お。ヒゲがピシッとしたな。
さっきまでクシャッてなってたのに。
「松様、救って来るわ。」
「稲置様もその為にお前を遣わせた。お前があの日沼に落ちて死にかけていた不憫な人間だから助けた訳ではない。お前なら救えると主人は仰ったのだ。」
「励ましてんの?」
「そうだっ。」
「ふっ、ありがと。」
「勤めを果たせ。此処で此奴と見張っておるからな。」
「分かってるよ。じゃ、行って来る。」
白くうねる絵筆を水に入れた様な壁は、するっと俺を招き入れた。
ーーー
「紺様。」
「何だ。」
「私は本当に此処に残って居て良いのでしょうか。」
「良い。万が一の為にも巫女は此方に居れ。」
「ですが、一緒に」
「其れでは万が一が起きた場合、アレが助からぬ。」
結界の内と外を繋ぐ物が必要なのだと、紺は言い聞かせた。
何度も何度も、鱗太郎の居ない間に話し合った事だ。
「今は待つしか無い。我もお前もな。」
「はい。」
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