【完結】【R18】ホタルト私トヒト夏ノ恋慕

mimimi456/都古

文字の大きさ
2 / 4

第二話

しおりを挟む
______

そうだ、今日は休みだった。

わたしはというと変わらず、腕に大和の頭を乗せジジジと鳴る目覚まし時計で目を覚ました。

最近ではわたしが大和を揺り起こす前に彼もむくりと起きてしまう。
それでも寝惚け眼の大和は愛らしい。

「何処かへ行こうか大和。」

「うー。」

「そこの神社まで散歩に行こうか。平日だから人も少ないし、あそこは空気が澄んでいて良いからね。」

「んー。」

「涼しくて綺麗な池があるんだが、」

「行くっ。」

どうやら寝惚け眼は終わった様だ。
わたしはタンスから用意周到に計画していたあるものを取り出した。

「慶介さん?」

「家の中では日がな一日パジャマでもわたしは気にしないけれど、お出かけとなると張り切らなければ。」

言いつつわたしは、ハサミでタグを切り次々に品を出していく。

「これ、慶介さんが仕事に行く時着て行く"シャツ"ですか?」

「いいや、これは確かに"シャツ"だけれど"ポロシャツ"と言うもので、これらはねわたしではなく君のものだよ。」

ええ、と大和が濃いオレンジの瞳を驚きに瞠いている。

「これは"サンダル"。あっちは"麦わら帽子"というんだよ。」

嬉しそうに見ている大和に、いそいそと店で服やサンダルを見繕うわたしの姿は知られたく無いなぁ。

「わたしもポロシャツを用意したんだ。
さあ、これに着替えて散歩に行こうか。」

じゃく、じゃくと神社の玉砂利を踏み歩くのを、大和は殊更楽しそうにしてはしゃいでいた。

こうして見ると、わたしはなかなかに危ない男のように見える。
せいぜい叔父と甥と言うところだろう。
しかし、ここ数日で大和はだいぶ背が伸びた。
それに、彼は人の子では無い。
だが今は、きちんと麦わら帽子を被り、左手にはアイスクリームを持っている。

神社の奥には茶屋がありそこの庭に綺麗な池がある。

それを大和はアイスクリームを食べながら
池の側で座り込んでいる。

きっと居心地が良いのだろう。
蓮の葉が浮く綺麗な池で確か、蛍が居るとか居ないとか。

「慶介さん。」

「ん?」

「頭がくらくらして変な、感じ。」

「何。」

ハッと見やると大和の瞳はぼうとしていた。
麦わら帽子を避け慌てて額に手をやるとそこは焼けた様に熱かった。

「ここに座りなさい、今すぐ冷たい飲み物を持ってくるから。」

わたしは慌てふためいて茶屋の反対側に回り込み自動販売機で水を買う。
すると、見知らぬ着流し姿の男が声をかけてきた。
どうかしたのか、と問うのでわたしは連れが熱中症かも知れない、と言った。

すると着流しの男が言ったのだ。

「ぬるま湯に幾つか氷を入れて身体を冷やしてあげてください。」

「はぁ。」

「それからよく冷えた砂糖水を。」

「え、」

何故、あなたが<それ>を知っているーーー


着流しの男は、
にい、と笑ってわたしを見ていた。
それから視線を茶屋の向こうに向けると言った。

「あの子を大切にしてくれている様なので。ほんの少しのアドバイスを。」

その物言いにわたしは漸く気が付いた。
彼は、この着流しの男は。

「ほら、あの子が呼んでますよ。」

さぁ、と促されわたしはまた今度慌ててペットボトルの水を握りしめ踵を返した。

「慶介さん、?どうかしたの怖い顔をしてる。」

「あ、あぁ。わたしのことは構わないから水を。ゆっくり飲むんだよ。」

「うん。」

大和は開けてやったペットボトルに口をつけると。
こくり、こくりと言われた通り休み休み水を飲んでいく。

「落ち着いたら帰って身体を冷やそう。」

素直に頷く大和はわたしの胸の内に駆け巡る、嫌に黒い衝動をまだ知らない。

帰り道わたしは参道の土産物屋でビニルプールを見つけた。
大和には少し小さいだろうか、と思いつつわたしは買うに至った。

「どうだい?」

わたしは縁側で下着姿の大和に声をかける。
足元にはあのビニルプールを置いて。
着流しの男の言う通り、ぬるま湯に氷を幾つか浮かべている。

そして今し方入れてきた冷たい砂糖水とわたし用の緑茶を縁側に置く。

「さっき着流しの男に会ったよ。」

「え。」

「濃紺の地に水の流れる模様の入った着流しの男だったんだ。その男に君が熱中症の様だと話したんだ。」

「うん。」

「そしたらこれを教えてくれてね。ぬるま湯に氷を幾つか浮かべる様にと。すまない、大和。こんな言い方は良くない、だが。わたしを嫉妬深い男だと思うかい。」

わたしは酷い男だったのだ。
この感情は、この黒いもやもやとした感情は明らかな嫉妬だ。しかもそれを今この子にぶつけている。

すると、大和がぽつりと言った。

「店主さまは僕たちの親代わりだから。きっと僕たちの事に詳しいんだと思う。」

ぱしゃと水を蹴る音がする。
大和が足先で遊んでいる。

「でも僕が嬉しいのは。このビニルプールとポロシャツと、麦わら帽子と慶介さんです。」

「大和。」

「店主さまが同じ事をしてくれても、僕はこんなに息が止まりそうなのは慶介さんのせい、だと思う。」

「それは...すまない事をしたかな?」

そんな風に可愛らしい事を言うものだから、わたしは思わず笑ってしまった。
それからわたしの邪な嫉妬心はあっという間に形を潜め、代わりに意地悪な心が湧いてきた。

「そんな訳無いの知ってるくせに。」

大和は冷たい砂糖水を飲んでいる。
可愛い腹いせだ、隣に座るわたしの足に水を蹴りかけてきた。

「知っているさ。わたしたちは求め合っているのだな。」

その日は寄り添って、一晩中手を握るだけで眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

処理中です...